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パンティ
「これ、落ちましたよ。」
振り返ると、ロングヘアの八頭身美人が私のパンツを持っていた。正確にはアモスタイルのパンティだ。
まずい。駅は通勤ラッシュだ。
私の趣味が女装であると主張しても今はスーツに身を包んだオジサン、説得力が全然無い。
ここは逃げの一手しかない。
「え、パンティ?私が?」
「私、見ていましたよ。貴方がSuicaを取り出す時にこれ落としたの。」
サラリーマンの視線がこちらに集まってくる。
どうする?
ここで走って逃げ出すと痴漢と間違われるリスクがある。
無視して歩いて行くとしても、この美人さんがパンティを持って私を追いかけながら
「このアモスタイルのパンティ、貴方のモノよ!」
と言われ続け、それを部下に見られたら、折角見えてきた社長の椅子も足が折れる可能性が出てくる。
「…。失礼ですけど、それ、貴女のモノでは?」
「これ、アモスタイルですよね。私、ピーチジョン派なので。繰り返しになりますけど、貴方のポケットから落ちたの見たんですよ、私。」
「そんな筈はない。私はトランクス派で基本CALVIN KLEINしか履かない。」
「仰っている事もカルバンクラインだけ良い発音なのも意味が分からないです。」
まずい、本当にまずい。駅員がこちらを注視している。
大学を卒業して25年間、必死になって働いてきたのに、やっと社長の椅子が見えてきたのに、まさか唯一の趣味である女装の、それもお気に入りのパンティで墓穴を掘るなんて。
「ちょっと、一緒に来てもらえます?」
突然、美人さんが私の手を引き多目的トイレへ向かって速足で歩いて行く。
まさか、恐喝?いや、お金で解決できるならそれでいい。
私は覚悟を決め、美人さんと一緒に多目的トイレに入った。
「幾ら欲しい?100万円までなら何とかなる。」
「100万円?アハハハハ!」
笑い出す美人さん。金額が足らないか?
しかし、ここで叫ばれでもしたら一巻の終わりだ。
「分かった、貴女の言い値でいい。幾ら欲しい?」
「貴方、何か勘違いしてます。」
「え?」
「私、お金なんて要らないですよ。」
美人さんが彼女の頭に両手を押しあてた。
「あっ!!!」
思わず叫んでしまった。
美人さんがカツラを取る。突如現れる、坊主頭。
「安心しろ、俺も男だ!どんな事情が知らんが、これは家にしまっとけ!」
パンティを私の背広のポケットに押し込み、開閉ボタンを押して去っていく美人の男性。
助かった。まさか職場の近くで同じ女装が趣味の人に遭遇するなんて、世間は狭いものだ。
額から流れる一筋の汗をパンティで拭きながら、私は会社へ急いだ。
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