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月刊ボランティア情報2011年6月号・市民文庫書評『経済復興~~大震災から立ち上がる』岩田規久男著

『経済復興~~大震災から立ち上がる』岩田規久男著 筑摩書房 定価1200円+税

                           評者 白崎一裕

本書のウリは、ずばり「国債の日銀直接引き受け」を震災復興の財源に!ということだ。
これをアカデミズムの経済学者が緊急提言している。

震災復興には、被災地の当事者の立場にたったときに、様々な「もの・こと・ひと」が必要なことは言うまでもない。そして、それをささえるのは、やはり資金(マネー)なのだ。「いや、金だけではない」という人もいるだろう、評者もそう思う。が、しかし、マネーは「もの・こと・ひと」を円滑に動かし、交流、移動させる「切符」のようなものだと考えると、その必要性が理解されるのではないだろうか。そのマネーをどこから調達してくるのか。政治の世界でも、その財源についての議論がやかましい。

増税?節約型の緊縮財政からの捻出?国債発行による借金?これらの意見が常識的なプランだろう。だが、考えてもみよう。日本経済は、3・11震災がなかったとしても、すでに長い間のデフレ経済で、加えてリーマンショックの不況の波をかぶっていた。そんな中でまことしやかな「連帯税」という名前をつけても、増税は、このデフレ経済をさらに悪化させるのではないだろうか。ましてや、社会保障費などを削減して財源にするということも、社会的弱者をより弱者にしてしまうだけだろう。そして、すでにGDPのほぼ二倍の借金を重ねている日本がさらに赤字をつみあげる国債を発行し続けていることが可能なのかどうか怪しいかぎりだ。こうなると常識的なプランはことごとく限界があることがわかる。震災復興費用は、直接の被害総額試算でも総額20~30兆円という莫大なもので、原発関連費用や間接被災費用もいれこむと50兆円(GDPの10%)にもおよぶものとなる可能性がある。

この莫大な費用を捻出する究極の方法が、著者の提案する「国債の日銀直接引き受け」なのだ。通常の国債発行による民間銀行などの引き受けの場合には、国民にまわるマネーの量に変化はない。しかし、国債日銀引き受けの場合は、国民にまわるマネーの量が増える。これは、国債発行という手続きを踏んだ、「政府紙幣」の発行と同じことになるのだ。これと同じことをやった歴史上の成功例が、昭和恐慌(1930年末~32年)をいち早く解決した、高橋是清の高橋財政だ。著者は、この高橋是清の「国債の日銀直接引き受け」を学ぶべきだという。この歴史の教訓は、日銀引き受けはハイパーインフレをまねくだとか、日銀引き受けは禁じ手の方法だという俗説を粉砕する。加えて、著者はインフレが心配なら「インフレ目標値を3~4%」にして日銀にその政策義務を負わせれば問題ないとも説く。おそらく、これを読んでも懐疑的な人もいるだろう。しかし、マネーのありかたを私たちひとりひとりの市民に取り戻す最初の入り口が、著者の主張なのだ!と理解していただき本書をぜひ手にとってもらいたい。

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