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予断許さない「短期消滅時効」見直し|迷想日誌

 「労働新聞」5月27日号1面既報の短期消滅時効の見直しは、実務上極めて重要といえます。

まだ、検討報告書はまとまっていませんが、専門家の意見が集約されつつありますので、観測記事として掲載しました。

訴訟では、未払い賃金に関する請求事件が多いのが実態です。労働審判でみてみますと、平成28年の新規受付け3400件のうち、54%が未払い賃金などの請求事件です。
現行では、消滅時効2年となっていますが、仮にこれが5年となったら請求金額は単純に2.5倍となるわけです。

なぜ今こんな見直しをするのかというと、令和2年4月に施行する改正民法において、消滅時効期間の統一化が実行されたためです。
合理性に乏しい短期消滅時効の規定を廃止し、簡素化を図るというのが改正の狙いです。
このため、短期消滅時効が規定されている特別法のすべてが見直されたようです。

最後まで残ったのが、生きた労使関係を規制する労働基準法となったわけです。
労働問題という特殊性を勘案して、どのように改正民法に合わせていくべきかが、長期間にわたって検討されてきました。
実務上重要な改正と考えて注目していたので、なかなか見解がまとまらない状況に気をもみましたが、ようやく方向性がみえてきました。

労基法第115条では、この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間としています。
要するに、未払い賃金を請求できる期間は2年というのが、長期間にわたって常識とされていましたが、ここで大きく変更される可能性があります。

消滅時効が仮に5年間となった場合、企業としてはその間の帳簿などをしっかり保管しておかないと、訴訟を提起された場合、太刀打ちできないということになります。
中小企業においてはデジタルデータというより、紙で保管している場合があり、5年に延長される負担は大きいとされています。

人の記憶も5年前となると定かではなくなります。とくに従業員の入れ替わりが激しい企業では、事実確認のしようがなくなる可能性が高まります。こうした曖昧さが、意見の食い違いを生起させトラブルを招くことも考えられます。

今後、労使を交えた審議会で再検討されますので、最終的な見直し案がどのようになるか、見守っていきましょう。

労働新聞編集長 箱田 尊文


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