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ASPIDISTRAFLYの新作『Altar of Dreams』について思ったことを書く。

April LeeとRicks Angによるシンガポールのデュオ、ASPIDISTRAFLYの10年ぶりの新作『Altar of Dreams』のアナログがついにリリース。これでCD、カセット、レコードと全てのフォーマットが揃いましたね!リリース元は、メンバーのRicks自らが運営するレーベルKITCHEN.LABELより。

実物が到着して、パッケージを開けたらなんかもう、CDが好きになった。いや、正しくはCDの良さを再確認した。しかもスリーヴケースのなかにジュエルケースが入っているという豪華仕様。実は私は手持ちのCDは実家にあるので手元になくて、いまの取り扱いもレコードがほとんどだしCD からかなり遠ざかっていた。とはいえ、KITCHEN.LABELのリリースはなるべくCDでも入荷するようにしていて、それはレコ屋のうちでCDを買ってくれるお客さんのため、そして自分のためでもあるのです。

今作のテーマでもあるこのピンク色を基調としたクリアピンクカラーのカセットテープです。ASPIDISTRFLYの音源、カセットテープでの発売は多分初めてなのでは…?

そして待ちに待ったアナログ盤。こちらは6/10(金)に到着し好評発売中です。こだわりの紙質すら愛おしく、彼らはいつだって"フィジカルは最高"ということを教えてくれる。

サウンドについては、商品ページのレビューで書いたので読んでもらいたいのですが、1stの『i hold a wish for you 』好きなひとにも気に入ってもらえるのではないか?と思っている。10年という月日がアーティストにとって長いのか短いのか、私には分からないのだけど(多分長いよね。) この前公開されてたNMEのインタビューではRicksさんが10年間待たせたことに罪悪感がある的なニュアンスでコメントをしていた。読んでみると、この10年間の間に耳の病気になってしまったり、世界情勢が変わってしまったり、深刻な理由があったんだなと感じた。このCDを買った人ならもう読んだと思うんだけど付属のBookに記載されているステイトメントには”ループ”という大切なキーワードがある。そのループとは平凡な毎日を繰り返すことかもしれないし、ASPIDISTRAFLYの2人にとってはアルバムが出せないことへの苦悩の時間がループしていたのかもしれない。

個人的に好きな点として、タイトルトラックの「Altar of Dreams」の文脈的考察を少し書いてみる。本人たちも公言しているように、彼らは80年代のJ-POPやアンビエント・ポップ愛好家である。そしてレーベルのインフォにもあったように、この曲が80年代の日本を代表していた山口小夜子の資生堂CMからインスピレーションを得たという事実がまた面白いなーと思った。

山口小夜子が醸し出していた麗しさを、見事に表現した耽美なサウンドは、彼らが持つ、揺るがない美的センスも伺える。私はAprilさんのことを以前から知っていて、綺麗なピンク色のロングヘア、そして前髪をバツっと切りそろえた髪型が印象的だった。今回、この「Altar of Dreams」について調べていた時に、ああ、そういうことか…!と一人で納得していたのだった。

上記のインタビューでは、Aprilがいくつか楽曲をセレクトしていた。多分まだここから聴けるはず!このmixを聴くと、本作の世界観をもろに表現しているということがよーーく分かる。

アルバムリリース日に公開された「Companion to Owls」のMVもすごく良かった。怪しげな雰囲気のなかにも気高さがあるこの感じ…。ファッションもメイクもディレクションも本当に完璧で、何度も観てしまう。この曲とビデオの雰囲気を観て、真っ先に浮かんだのは中森明菜の「幻惑されて」(1983)である。

と、ここまでいろいろと憶測や感想を書いてしまった。何が言いたいかというと、この作品においてシンガポール特有の前衛的美学とカルチャー、そして日本の懐古的な美学の融合が非常に素晴らしく、ASPIDISTRAFLYの驚異的なセンスと情熱が創り出したこの世界から戻れなくなる、いや、戻りたくなくるほどに悩ましい…。ということだ。

フォークトロニカの名作と言われ続けている『A Little Fable』(2011)をリリースしてからの10年間の無限のループから脱出し、まるで新しい生命が宿るかの如く『Alter of Dreams』は産まれた。彼らの音楽が生き続けるこの時代に生きていることがすごく嬉しいし、誇りに思う。


Altar of Dreams / ASPIDISTRAFLYの各商品ページはこちら


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