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水面の煌めきと、自然からの恩恵。これは、光へと向かうためのガイド。Cassandra Jenkins 『An Overview On Phenomenal Nature』

NYのSSW、Cassandra Jenkinsの2021年発売アルバム『An Overview On Phenomenal Nature』。Sharon Van EttenやDana Gavanskiなどが所属するBa Da Bing!からのリリース。

落ち着きのあるドライな質感のヴォーカル、それに呼応するこのように鳴り響くアンビエント・フォーク。サックスの音色は、様々な感情の起伏を表している。煌びやかなピアノは、水面の煌めきを。そしてそれは私たちの時間に、何の違和感もなく入り込む。まるで同じ空間に居て時間を共有を共有しているかのように。

この作品は、彼女が2019年にPurple Mountainsというバンドのツアー帯同をしようとしていた矢先にメンバーのDavid Bermanが自ら命を絶ってしまい、その際の感情がこのレコードには大きく関係しているという。本作のテーマは人の死や、どうしようもない苦しみの感情なのだけれど、それと同時に自然や人々からの恩恵の話もしています。

そして非常に面白いのは、記事の冒頭でシェアした「Hard Drive」。ハイライト的な曲であるが、この曲は実際のメットブロイヤー美術館の警備員とジェンキンス自身の会話が録音されたボイスメモからはじまる。そして彼女がこれまでに出会った運転免許センターの先生や、様々な人物たちとの会話を追体験する。その中に、Perryという女性との会話があるのだが「私は3つ数えてあなたの肩を叩く。あなたの心を元通りにしてあげよう」という歌詞の後に1、2、3と実際にカウントをしている場面がある。Jenkinsの体験を追体験することにより、まるで同じ時間を共有している感覚に陥る。また、曲中ではポエティックに語り、ところどころで歌うという非常に流れを大切にしたアプローチがいっそう心地よさに拍車をかける。

また、「New Bikini」での歌詞は自然から受ける恩恵、”水は全てを癒してくれる”というフレーズが非常に印象的だ。

Baby, go get in the ocean
If you’re bruised, you're scraped, you're any kind of broken
The water, it cures everything

ベイビー、海に入りなさい
傷ついても、擦りむいても、心がどんな壊れ方をしても
水はすべてを癒してくれるんだ 

An Overview On Phenomenal Nature
「New Bikini」より抜粋


様々な背景がある人々との対話、そして自然との対話。すべては繋がっていて、このレコードが表現しているたった一つのテーマ。このレコードを聴いて、人との関わり、自然が私たちにもたらしてくれるものの恩恵をもう一度深く考えてみたくなった。

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