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渋澤健×占部まり×朝倉陽保 その2

今日は前回に続き代官山のヒルサイドテラスで行われたセミナー「宇沢弘文を読む」について。また本日開催の社起大特別セミナーにご登壇いただく宇沢弘文さんのご長女の占部まり氏主催によるもの。ゲストは渋澤健氏、朝倉陽保(はるやす)氏。今回のテーマは宇沢弘文さんの提唱されていた社会的共通資本の一部である金融文脈でのセミナーで、ファシリテーターの占部氏が話題や質問をする形で進められた。
今日は渋沢栄一翁の玄孫(げんまご)であり自ら創業されたコモンズ投信株式会社の経営者でもある渋澤健氏のお話を中心にお話を。
 
 
最初に聞いてビックリしたのは、渋沢翁は500以上の会社の設立に関わったにも関わらず資産は何も残されなかった、と。子孫には1株すら残さなかったそうである。その代わりに多くのコトバを遺してくれた、と。それを聞いて本当に私利でなく公益に生きた人だったのだと改めて敬意を感じた。
立ち上げられた会社は思いつくだけでも東京海上、日本郵船、東京ガス、第一勧業銀行、王子製紙、帝国ホテル、サッポロビール、東京証券取引所といった明治から昭和期にかけての当時のあらゆる産業分野の礎となる企業の創業に関わられた。そして「論語と算盤」に代表される自らの経験や思索に基づいた金言の数々を残された。コトバは思想であり事業とは異なり時代の浮沈に関係なく受け継がれてゆく貴重な財産である。
渋沢翁は内村鑑三が言われた後世に残すべき遺物である金、事業、思想、生涯(生き方)の殆ど全てを残されたと言っても過言ではない日本では本当に稀有な人物である。金は子孫に残さなかった代わりに社会に残したと解釈したい。
 

参加者が一般の方々中心だったので、金融についてあまり深入りされなかったが渋澤氏は金融に関する話の中で、「銀行は主役でなく脇役であり事業を育てる為の手段だ」と言われた。これは自分の実業時代に感じていたことなので銀行家である健氏の話に頷いた。
また、「銀行は大河であり1滴1滴の水(金)が方々から集まってきて国を富ませる役割」という表現もされた。大切な社会資本の1つであり、集めた水(金)を大きく循環させることであらゆる生物(事業や人々)を養う機能を果たしているという意味だと理解した。

 
そして最後に「3NGワード」というのを語ってくれた。日本が再浮上するための3つの禁句。
 

1. 前例がない

2. 組織を通せません

3. 誰が責任取るの?

 
仕事の95%が出来ない言い訳でリスクに対してあまりにも臆病すぎると。それが現在も続いている日本の停滞の病巣だとお考えのようだ。かつて公務員や銀行員が引き合いに出して揶揄された言葉だが、多くの大企業でまだその温床は根強く残っているのだろう。

 
最後に渋澤氏に質問させて頂いた。「渋沢栄一は日本で最初の社会起業家だと社起大では教えていますが、健さんはどのようにお考えですか?」と。ニッコリと笑みを浮かべられて「その通りだと思います」と。渋沢栄一こそ社会起業家という言葉に相応しい人物だと。渋沢翁は金も事業もよりよき社会を作るための手段と考えておられていたそうで、そういう意味で渋沢翁の事業観はソーシャルビジネスの発想そのものだったと言える。

明治の当時そういう言葉は無かったが、社会と起業がそれぞれ論語と算盤に対応するような関係性であり、私利は公益に資するべしという理念を唱えられ、営利企業の設立だけでなく福祉、教育、国際交流などに関する600もの事業を立ち上げたという。中でも東京養育院には60年間コミットするなど、利益の社会還元を実践した。 
 


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