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ズレを演じる可笑しさ 2022.11.30 Dry Cleaning@LIQUIDROOMライブ感想

凄すぎるものはその凄さに気づくのに時間がかかる。さらに凄すぎるものは逆に下手に見える。

立川談志の晩年の落語は下手と評判だったらしい、だが本当に下手なはずはない下手を演出してたのである。間の抜けた落語を演じることで一段上の面白みに到達している。これはほぼ志らくの受け売りであるが、同じようなことを坂本慎太郎に思った。

今年のFRUE立川ステージガーデンで観た坂本慎太郎のライブがまさにそうで特に冒頭の"それは違法でした"あれは本当にあれで正解なのか未だに考える。明らかにズレてるように感じるし何に合わせてるかもわからなかった。坂本慎太郎も談志の面白みの域に達しようとしているのかもしれない。

ここで本題、Dry Cleaningの新作『Stumpwork』はそういう面白みを持った傑作だ。楽器隊が技巧的な演奏をしてる中ボーカルフローレンスは淡々と"語って"いる。昨年のアルバムを聴いた時は、ポストパンクの棒読み歌唱も行くとこまでいったなという印象しか受けずなかなかハマらなかった。

『Stumpwork』ジャケット

 今作演奏がメロディアスに、メロウになったことでこのバンドの異常性が浮き彫りになった。こんなに良いメロディーの演奏してるのになんで喋ってるの??歌えよ!聴いてるとどんどん何故このスタイルなのか分からなくなってくる。分からない状態のまま踊らされる。それが非常にクセになる。可笑しくなってくるのだ。そして時折分離した演奏とボーカルが上手く合わさる瞬間がある、そこが非常に心地よい。まるでよく出来たコントを観てるようだ。

ボーカル フローレンス



ライブで観るとアルバムで持った印象と少し違う。ボーカルはずっと真顔な印象であったが思いの外良い笑顔をしたり、顔をしかめたりと様々な表情を見せる。淡々と語るボーカルを演じてるのだと思っていたがあれは自然体だったのだ。ギターも想像以上に楽しそうに動き回ってるし、ベースは白目剥いて達しながら演奏してる。坂本慎太郎や談志が何年もかけて演じていたものを若手の彼らは自然体にこなしていたのだ!恐ろしい!!

鍵盤ハーモニカや12弦ギター、サックスなど表情だけでなく、サウンドの表現も多彩でもう感服です。SGギターを大音量でかき鳴らした時はもう一瞬ゆらゆら帝国に見えてしまった。そして新作のオープニングトラックで締めるのもクール過ぎる。この日誰よりも面白かったのは竹芝で漫才している28組よりこのバンドだったかも知らない。

 邦楽にしかない面白みだと思っていたものを海外の若手バンドに感じるとは。Dry Cleaning素晴らしい演奏をありがとう!また野外フェスで観たら別の面白みがありそう!また来てね!!

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