自炊と中食のコスト比較

食品のカロリー単価

現代日本では、コンビニやスーパーに行けば、出来合いの弁当や惣菜が売っていて、これらは、自炊でも外食でもない中食に分類される。出前やテイクアウトは、もっと古くからあるので、線引きは、それほど明確ではないけど、多分、レトルト・インスタント食品も中食に分類していいいだろう。

いつから持ち帰り弁当事業があるのか分からないけど、Wikipediaによると、都内の持ち帰り弁当・惣菜チェーン最大手であるオリジン弁当の前身が持ち帰り弁当事業を開始したのが1982年とある。カップヌードルが1971年から発売され、1974年、日清食品はカップライスを発売したが失敗したとかあるので、1970〜80年頃は中食産業の転換点だったのかもしれない。

最近では、肉、魚、野菜が安くないので、自炊より中食の方がコスパが良いという意見も見掛けるようになった。洗濯だって洗濯機がやるようになって久しいので、料理も、人間が自分でやらないという方向に進むのは当然のことだと思うけど、中食の方がコストが安い(かもしれない)という現象は、本質的に外食とコストが変わらない出前やテイクアウトには見られないことで、実際、どうなのか確認してみることにした。

人間は、色々な栄養を摂取しないといけないという面倒な性質があるが、簡単のため、エネルギー収支のみに注目して、食品のカロリー単価で比較することとする。エネルギーを補充できればいいだけなら、砂糖だけ食ってるのが安価ではあるのだけど


まず一般家庭の食費の参考として、総務省統計局の家計調査 家計収支編 単身世帯 詳細結果表 2019年 10~12月期にあるデータを見ると、単身者世帯全体平均で、食料支出が月40617円、(単身)勤労者世帯で月42581円となっている。一日2000(kcal)を摂取するとして、30日で60000(kcal)だから、0.67(円/kcal)くらいが平均ラインということになる。

また、平成29年(2017年)の「農業・食料関連産業の国内生産額」が117兆円なので、一人一日2535円の計算。これだと、1(円/kcal)を超えてそうな数値だが、生産額なので、廃棄や輸出された分とかも計算に含まれているはず。原料を輸入して調理販売した場合も、生産額に含まれるが、原料の輸入代は、中間投入で、「農業・食料関連産業の国内総生産」では、こうした中間投入が引かれ、平成29年は、55兆円となっている。

日本人口は、平成半ば頃をピークに達して減少してるので、「農業・食料関連産業の国内生産額」「農業・食料関連産業の国内総生産」は、1990年代から比較して、多少の変動はあれど、特に成長はしてない。


外食すると、お高い店でなければ、一人一食1000円前後の店が多いだろう。一食で800(kcal)としたら、1.25(円/kcal)くらいになりそうに思える。カロリーと値段を書いてある飲食チェーン店を探して見ると

- いきなりステーキ「リブロースステーキ 300g」: 2070(円)/828.6(kcal) = 2.5(円/kcal)
- いきなりステーキ「ワイルドハンバーグ 300g」: 1100(円)/1010.8(kcal) = 1.1(円/kcal)
- ロイヤルホスト「国産豚ポークロースステーキ」:1180(円)*1.1 / 787(kcal) = 1.65(円/kcal)
- ココ壱「ポークカレー」:514(円)/755(kcal) = 0.68(円/kcal)
- ココ壱「ハッシュドビーフ」:641(円)/868(kcal) = 0.74(円/kcal)
- 天下一品「ラーメン(並)こってり」:830(円)/949(kcal) = 0.87(円/kcal)
- 天下一品「ラーメン(並)あっさり」:830(円)/380(kcal) = 2.18(円/kcal)
- 三崎港「玉子」:110(円)*1.1/145(kal) = 0.83(円/kcal)
- 三崎港「納豆軍艦」:110(円)*1.1/93(kcal) = 1.3(円/kcal)
- 三崎港「サーモン」:190(円)*1.1/119(kcal) = 1.76(円/kcal)
- 吉野家「牛丼 並盛」: 352(円)*1.1/652(kcal) = 0.6(円/kcal)
- サイゼリヤ「イートソースボロニア風」:400(円)/568(kcal) = 0.7(円/kcal)
- サイゼリヤ「若鶏のディアボラ風」:500(円)/541(kcal) = 0.92(円/kcal)
- やよい軒「サバの味噌煮定食」: 670(円)/652(kcal) = 1(円/kcal)
- やよい軒「から揚げ定食」: 730(円)/858(kcal) = 0.85(円/kcal)
- マクドナルド「ビッグマック」: 390(円)/525(kcal) = 0.74(円/kcal)
- ミスタードーナツ「ポン・デ・リング」: 110(円)/219(kcal) = 0.5(円/kcal)
- ミスタードーナツ「オールドファッション」: 110(円)/293(kcal) = 0.38(円/kcal)

など。幅はあるが、お安い店であっても、0.7(円/kcal)を下回ることは少ないように思える。


以下は、統計局小売物価統計調査で価格(2020年1月東京)を調べ、カロリーは適当に検索して出た結果を使って計算したもの。選んだ品目には特に意味はない。

- まぐろ:(437(円)/100(g))/1.25(kcal/g) = 3.5(円/kcal)
- さんま:(99(円)/100(g))/(214(kcal)/150(g)) = 0.7(円/kcal)
- いわし:(88(円)/100(g))/1(kcal/g) = 0.88(円/kcal)
- たこ:(348(円)/100(g))/(76(kcal)/100(g)) = 4.58(円/kcal)
- じゃがいも:(325(円)/1000(g))/(75(kcal)/100(g)) = 0.43(円/kcal)
- たまねぎ:(242(円)/1000(g))/(37(kcal)/100(g)) = 0.65(円/kcal)
- キャベツ:(146(円)/1000(g))/(22.9(kcal)/100(g)) = 0.64(円/kcal)
- にんじん:(354(円)/1000(g))/(37(kcal)/100(g)) = 0.96(円/kcal)
- かぼちゃ:(534(円)/1000(g))/(91(kcal)/100(g)) = 0.59(円/kcal)
- だいこん:(144(円)/1000(g))/(17.9(kcal)/100(g)) = 0.8(円/kcal)
- もやし:(157(円)/1000(g))/(14(kcal)/100(g)) = 1.12(円/kcal)
- ブロッコリー:(539(円)/1000(g))/(33(g)/100(kcal)) = 1.63(円/kcal)
- ピーマン:(1107(円)/1000(g))/22(kcal)/100(g)) = 5.03(円/kcal)
- トマト:(672(円)/1000(g))/(19(kcal)/100(g)) = 3.54(円/kcal)
- バナナ:(259(円)/1000(g))/(86(kcal)/100(g)) = 0.3(円/kcal)
- りんご:(551(円)/1000(g))/(54(kcal)/100(g)) = 1.02(円/kcal)
- みかん:(665(円)/1000(g))/(44.9(kcal)/100(g)) = 1.48(円/kcal)
- 鶏卵:(221(円)/10(個))/91(kcal/個) = 0.24(円/kcal)
- 鶏肉:(132(円)/100(g))/(229(kcal)/100(g)) = 0.58(円/kcal)
- 豚肉(国産品、バラ):(237(円)/100(g))/(386(kcal)/100(g)) = 0.61(円/kcal)
- 豚肉(もも):(198(円)/100(g))/(183(kcal)/100(g)) = 1.08(円/kcal)
- 豚肉(輸入品、ロース):(153(円)/100(g))/(263(kcal)/100(g)) = 0.58(円/kcal)
- 牛肉(国産品):(933(円)/100(g))/(298(kcal)/100(g)) = 3.13(円/kcal)
- 牛肉(輸入品):(268(円)/100(g))/(298(kcal)/100(g)) = 0.90(円/kcal)
- かまぼこ:(164(円)/100(g))/(94(kcal)/100(g)) = 1.74(円/kcal)
- ベーコン:(224(円)/100(g))/(405(kcal)/100(g)) = 0.55(円/kcal)
- 牛乳(店頭売り、紙容器入り):(215(円)/1020(g))/(67(kcal)/100(g)) = 0.31(円/kcal)
- カステラ:(216(円)/100(g))/(319.1(kcal)/100(g)) = 0.68(円/kcal)
- 食パン:(444(円)/1000(g))/158(kcal)/60(g)) = 0.17(円/kcal)
- うるち米(単一原料米、コシヒカリ):(2439(円)/5000(g))/3.5(kcal/g) = 0.14(円/kcal)
- 小麦粉:266(円/kg)/3681(kcal/kg) = 0.072(円/kcal)
- 砂糖:197(円/kg) / 3860(kcal/kg) = 0.05(円/kcal)
- 食用油:(291(円)/1000(g))/(920.9(kcal)/100(g)) = 0.031(円/kcal)

米、大豆、小麦について、小売価格以外も調べたのが以下。

- 玄米相対取引価格(出典:米に関するマンスリーレポート): (14000(円)/60000(g)) / 3.5(kcal/g) = 0.067(円/kcal)
- 大豆(平成30年落札価格、出典:食品産業社新聞ニュースWEB):(9692(円)/60(kg))/4510(kcal/kg) = 0.036(円/kcal)
- 国内産小麦(落札価格 出典:一般社団法人全国米麦改良協会): (50000(円)/1000(kg))/3681(kcal/kg) = 0.014(円/kcal)
- 輸入小麦(令和2年10月期の政府売渡価格): (49210(円)/1000(kg))/3681(kcal/kg) = 0.013(円/kcal)

レトルト、インスタント、加工食品、お菓子、弁当、健康食品など(中食類と総称することにする)や調味料は個別の商品について、いくつか調べた。なお、実際の販売価格は店舗によって異なったり、安売りしていたりする場合もある。

- おかめ納豆極小粒ミニ(希望小売価格): (182(円)/150(g))/(101(kcal)/50(g)) = 0.6(円/kcal)
- きのこの山: 168(円)/383(kcal) = 0.44(円/kcal)
- カルビー ポテトチップス うすしお味(出典:Amazonカルビーストア): (216(円)/135(g))/(336(kcal)/60(g))=0.29(円/kcal)
- 日清焼そばU.F.O(出典) : 193(円) / 556(kcal) = 0.35(円/kcal)
- ミレービスケット: (170(円)/130(g))/(542(kcal)/100(g)) = 0.24(円/kcal)
- カロリーメイト ブロック プレーン(出典:大塚製薬の公式通販):(6480(円)/120(本))/(400(kcal)/4(本)) = 0.54(円/kcal)
- カップヌードル(出典:日清食品グループ): 193(円) / 351(kcal) = 0.55(円/kcal)
- サトウのご飯 新潟県産コシヒカリ(出典:サトウ食品のHP): (3780(円)/4000(g))/(294(kcal) /200(g)) = 0.64(円/kcal)
- レトルトカレー(新宿中村屋インドカリー ビーフスパイシー): (330(円)/200(g)) / (294(kcal)/200(g)) = 1.12(円/kcal)
- (ウィダー)inゼリー エネルギー(出典:森永製菓オンラインショップ): (3499(円)/3240(g))/1(kcal/g)=1.08(円/kcal)
- シャウエッセン: (358(円)/130(g))/(325(kcal)/100(g)) = 0.85(円/kcal)
- ニッスイ さば味噌煮 : (4500(円)/24(缶)) / 226(kcal/缶) = 0.83(円/kcal)
- ミツカン穀物酢: (286(円)/900(g))/(25(kcal)/100(g)) = 1.27(円/kcal)
- ファミリーマート 鶏そぼろ弁当: 298(円)/431(kcal) = 0.69(円/kcal)
- オリジン弁当 幕の内: 529(円)/625(kcal) = 0.85(円/kcal)
- オリジン弁当 回鍋肉弁当: 529(円)/756(kcal) = 0.7(円/kcal)
- からあげクン レギュラー: 216(円)/220(kcal)=0.98(円/kcal)
- 完全食COMP Powder TB v.5.0(出典): 4750(円)/(400(kcal/pack)*12(pack)) = 0.99(円/kcal)
- 完全食Soylent: (9300(円)/1000(g))/(400(kcal)/90(g)) = 2.1(円/kcal)
- ザバス プロ ホエイプロテインGP(出典:明治のHP): (3800(円)/378(g))/(78(kcal)/21(g)) = 2.71(円/kcal)
- 味の素S 1kg袋(出典:味の素KK 業務用商品サイト): 800(円/kg) /2810(kcal/kg) = 0.28(円/kcal)
- うま味調味料「味の素®」(出典:味の素株式会社HP): 350(円)/98(kcal) = 3.57(円/kcal)

中食類は、概ね、1(円/kcal)を切っていて、弁当類のカロリー単価は、単身者世帯の平均食費とかなり近い。0.5(円/kcal)を下回るものは、食材にしろ中食にしろ、かなり限られてくるので、節約しても大きな差が出そうにはない。自炊する場合に必要な水道代、ガス代、調理器具などの価格は、一般家庭なら大した額にはならないだろう。

しかし、自炊する場合、食材の価格のバラツキが大きく、また、しばしば大きく変動するので、不注意で割高になるリスクがある。逆に、中食類は、たまに値上がりしたりはするものの、価格の変動は抑えられている。節約努力をしなくても、割高になりにくい中食の方がコストが安いと感じる人が出てきても不思議ではない。

意外だったのは、完全食COMPのカロリー単価が、かなり安いこと。これ以外の食事を摂らなくてOKという触れ込みが本当だとしたら、弁当類より若干高い程度なので、よく健闘してる方だと言える。

どうでもいいこととして、味の素S 1kg(L-グルタミン酸ナトリウム99%)が、800円なのに対して、Sigma Aldrichで、L-グルタミン酸 (≥99% (HPLC))が1kgあたり2万円以上する(食品じゃないけど)のは、価格差が酷い。味の素は、発酵菌に糖蜜を与えて生産したものを精製しているとか書いてるので、この方法だと、砂糖などより安くなることはないだろう。

未来の食品合成

将来、人類が宇宙に進出した時、火星や月で農業をするのは難しそうだし、地球から食料を送るのも輸送コストが高い。第三の選択肢として、人間の排泄物(最終的には、窒素、水、二酸化炭素など)から純化学的に合成するということになるだろう。現在は、宇宙に行くのは、限られた宇宙飛行士のみだから、この問題は、(NASAは別として)それほど真剣に考えられてないのだと思う。それに、化学プラントは、農業より少ない面積での食料生産を可能にするだろう。

二酸化炭素や水から、グルコースやアミノ酸を作るのは大変そうだけど、原始的な生命は、この仕事をやっているはず(高等な植物は光合成をできるけど、窒素固定をできる種は知られておらず、必要な栄養を自分で全部合成しているわけではない)。生物が、光合成によって太陽光エネルギーを利用できるようになったのは約30億年前なので、それ以前のエネルギー源は何だったのかという疑問があり、海中に存在する水素ガスだったろうという予測が存在する(この水素は、更に遡れば、地熱によって水が分解されて発生したものと思われる)。水素をエネルギー源として、独立栄養的に生育できる細菌を「水素細菌」と呼ぶ。水素細菌が持つ酵素hydrogenaseは、生物の共通祖先(LUCA)より古くから存在すると考える人もいる。

水素を利用した炭酸固定として、生物では、Wood–Ljungdah経路というもの(生成物はメタンか酢酸)が知られており、C1化学では、フィッシャー・トロプシュ反応が知られている。フィッシャー・トロプシュ反応は、二次大戦中に石油資源の乏しいドイツで、液体燃料を製造するのに使われていたそうである。

このようなことから、いずれ(数十年後〜数百年後)、人類は(間接的に)水素の酸化エネルギーを食べて生きることになり、その時、水素の価格は、食料を合成するコストに、直接的に影響すると予想される。という予測に基づき、水素と、次いでにアンモニアの(現在の)カロリー単価を調べてみる。


水素とアンモニアの(標準状態での)燃焼熱は286(kJ/mol)と382(kJ/mol)なので、水素34(kcal/g)とアンモニア5.4(kcal/g)に相当する。目安として、炭水化物とタンパク質が4(kcal/g)、脂質が9(kcal/g)なので、水素は、重量あたりのエネルギーが格段に大きい(また、大抵の食材は、多くの水分を含むので、重量あたりのカロリーは、4kcal/gを下回る)。

水素の価格は、1kg当たり1100円とかだそうなので、0.03(円/kcal)程度。輸入小麦の価格0.13(円/kcal)よりも高いけど、日本政府は、2030年までに、この価格を1/3に引き下げるつもりだそうだ。

アンモニア価格は、"経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編"によると、平成30年の平均価格が、55875(円/ton)なので、0.01(円/kcal)程度という計算になる。

アンモニアは、エネルギーを投入してハーバー・ボッシュ法によって製造されてるので、エネルギー価格は、もっと安い必要がある。例えば、2010年代の日本のLNGとLPGの価格が、おおまかに50(円/kg)で、発熱量が50(kJ/g)とすれば、0.0042(円/kcal)で、アンモニアよりは安い。

地球環境にやさしい社会のために、化石燃料から再生可能エネルギーへのTABLE12によれば、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア製造は、80.5(g/kWh)〜127(g/kWh)程度の効率を実現しているとある(冷却・分離精製コストを含んでるのかは不明)。中間を取って100(g/kWh)とすれば、860kcalを投入して100gのアンモニアを製造し、その燃焼熱は、540kcal程度だから、比率は63%弱ということになる。従って、先のLNG/LPG価格に基づけば、アンモニア原価は、0.007(円/kcal)前後(これには明らかに、化学プラントの建設費用などは含まれてないが)。

IPPU分野|温室効果ガス排出・吸収量算定方法の詳細情報というページのPDFから、アンモニア製造における原料消費量を見ることが出来、最近は、LPGは使われてないけど、LNG利用は、それなりにあるようだ。

ちなみに、生物学的窒素固定では、アンモニア1分子を生成するのに、ATP8分子を使うようである。ATPの加水分解エネルギーを50(kJ/mol)とする単純計算だと、生物学的窒素固定は、400(kJ/mol)程度で機能してることになる。ATP加水分解の自由エネルギー変化50(kJ/mol)は、ヒトの細胞内環境の数値だと思う(標準Gibbs自由エネルギーは31kJ/mol)ので、窒素固定細菌の細胞内環境では、多少値が変わるかもしれないが、アンモニアの標準状態に於けるモル燃焼熱で割ると95.5%で、ハーバー・ボッシュ法より高い効率で機能してそうではある。



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