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承認欲求

価値が欲しい。ずっと、その為だけに生きている。その為だけの人生だとさえ、思っていた。
見上げた空に広がる桃色の花弁、4月の空。春を運ぶ今日の風はいつもより少しだけ冷たくて何を思うでもなく指先を摩った。始まりの季節と称される今の時期はどこもかしこも華やかで、夢や希望といった不確かな願いを抱えて歩いている人を見る。皺の少ない制服に着られた顔色の悪い学生が1人、バス停に佇むその姿は正しく春の象徴。
なんて美しく模範的なのか。故に私は嫉妬した。
自分の価値は分からないまま、相手の価値ばかり目で追っている毎日だった。見て知って、考察しては勝手に決めつけ嫉妬する。
冷えた空気を吸い込み一拍、私の中に渦巻く”悪いもの”と一緒に二拍、静かに息を吐く。「私が貴方だったらいいのに」とは何度も零しかけた羨望。
せめて今日くらい、この空に似合うように生きてみよう。春を収める誰かの写真の、その背景に馴染む人影。指先の冷えと格闘しているちっぽけな命にはそのくらいの価値がきっと相応しいだろう。