踏み絵うた
覚え立てのクリックで『東京』を呼び出した。
「いい歌だね」
君は相槌を打たない。本音を明かせば角が立つ。小さなうそでごまかせば、自分が傷ついてしまう。君は獣のように黙っている。
「ここがいいね」
いいという前提の上にハイライトが示される。
ミュージックビデオの中では、同じドラマが繰り返されている。何度見てもそれは同じではない。見る側の気分の中に筋書きは無限に含まれている。男が手を振った。女が顔を覆った。急激に雲が流れ始める。投げ出されたドラムスティック。駆け足の猫。長い沈黙の中で、君は物語を想像している。
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暑いねと
獣が振った
当惑の
団扇が起こす
不条理な風
折句「揚げ豆腐」短歌
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