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ヒール・インタビュー(代指し)

「一局を振り返っていかがでしたでしょうか」
「ああ終わったなという感じですかねえ」
「相掛かりから金が出ていくというのは、ある程度、作戦だったのでしょうか」
「作戦じゃないとおかしいでしょう。思いつきで出ていく人いますかね」
「前々からの準備があったということですね」
「作戦だから準備するでしょう。準備しない作戦ってあるんですかね」

「ありがとうございます。仕掛け辺りの局面は自信はあったのでしょうか」
「自信がないと仕掛けたらいけませんかね。まあ悪いでしょうね。悪いという自信はありましたね」
「悪いなりに大変という形勢だったでしょうか」
「なりにというはわかりませんけど。大変ではありますね」

「ありがとうございます。中盤で端に角を出た手は、随分思い切った手だったと思いますが」
「他に何か手がありましたか」
「勝負手といった意味も含まれているのでしょうか」
「あー。まあ、個々の指し手については後で感想戦でやるので」

「ありがとうございます。どの辺りで勝ちを意識されたのでしょうか」
「どの辺り? 当然、相手が投了した時ですね」
「最後まで難しかったということでしょうか」
「普通投了した時ですよね。それ以前に意識してたらそれは楽観でしょう。違いますか」

「ありがとうございます。勝負の厳しさが伝わってきます。では、今後の抱負などありましたらお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
「ないですね。毎回毎回ないですよね、特に」

「ありがとうございます。常に自然体で臨まれているということですね。それでは感想戦の方お願いします」
「方とかないんで。感想戦なんで」
「お願いします」
「お願いされてやるもんじゃないんで」
「そこをなんとか」
「いやもう相手が帰っちゃってるんで」
「……。いつの間に」
「いやー、あなたと話してる間に帰っちゃいましたよ。どうしてくれるんすか」

「では代わりに私が」
「できるんですか」
「できなくはないですよ」
「じゃあ、せっかくなんで」
「いや、ついでなんで」
「じゃあお願いします」
「こちらこそお願いします」


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#感想戦


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