ある夕暮れの翼

「俺だってさ、あんな翼がありゃ好きなように飛べたさ。何も恐れることなく高みを目指しただろうな。あいつらよりもよほど上手くやったろうさ。俺だってできるんだ。考え事なら山ほどあらーな。欲しいものだけ1つもないがな。俺だってさ……」

 子供たちは時折、珍しいものを見るように、青年のとりとめもない愚痴に目を向けた。けれども、近づいて耳を傾けようとする者はいなかった。

「俺だってさ、あんなものがありゃ何でもできんのよ。そうだ。海外にだって飛んだろうさ。別に羨ましいわけじゃない。応援なんてしないさ。ただ見てしまうだけだ。俺だってさ」

 稼ぎ頭たちはそんな雑音には見向きもせず、よくあることさと自分たちの作業のみに集中していた。

「俺だってさ、歴史の一部くらいにはなれたさ。そういう風に生まれてたらさ……」

 その時、一羽の老鴉が若者の傍に降りた。

「お前さん」

 若者は後ろから声をかけられてぴくりとした。


「翼ってのは、その肩にあるものじゃないかい?」

「あーん?」


「違うんならいいってことさ」



#詩 #歴史 #口癖 #小説


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