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フェイク・ダウン

 夕日があげた天ぷらのように見えたので、落ち葉を拾い集めて小腹を満たした。錯覚は長く続くことはなく、小一時間もするともうお腹が鳴った。今度はもっと本格的な空腹だった。本物の天ぷらはどうやったら口に入れることができるのだろう。
「小銭に変えればいいじゃないか」
 木の裏から飛び出してきた仔狸が助言をくれた。それには落ち葉を侮らず真剣に向き合うことだという。

落ち葉を厳選すること
遠くの落ち葉に目をやること
躊躇わずに拾うこと
迷ったら拾うこと
拾わない時間を持つこと
落ち葉を愛すること

 仔狸は様々な方法を教えてくれた。それから私は小まめに落ち葉を拾い集めた。ため込んだ落ち葉をプラスチック・バッグに詰め込んで、オリジナルのジャケットを作った。羽織ってみればその辺のダウンに負けない暖かみがある。都会の冬くらいなら越せるだろう。
特価……1万4千円!
「一度だけ着ました」
 写真にコメントを添えれば一人前だ。
 流行のネット・サイトに出品して結果を楽しみにする。土曜の夜、ちょうどいい感じで寒くなってきたところだ。
(さあ、早い者勝ちだよ)
 元が道で拾ったものだとは、大きな声で言えないけれど。


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