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自作自演アンコール

「これか」
 その時、僕は少し浮かない顔をしていた。はっきりとどれに期待していたというわけでもないが、これかという感じだった。どうも違和感がある。これだという手応えがなかった。美味しくないというわけではない。美味しくないものは一つも含まれていないのだ。ただ満足できない。
 
 私はもう一度袋の中へと手を差し入れるのです。そうして引き出すまでの時間にときめきを覚える。それはギャンブラーの心というものでしょうか。
「これか」
 それは私の心に描くのとはほんのちょっと違う。これには悪いけれど、口の中で壊れていく間もどこかであれのことを思い描いているのでした。よーしもう一丁引くか!

 俺はくじ引きに夢中だ。盆の上にむき出しに置かれたのではない。袋の中に埋もれている。それがギャンブラーの魂に火をつけるのか。底知れぬ恐ろしさがこの袋にはある。あるいは楽しさだ。俺は奥まで手を差し入れて、一つのあられを引き出す。この小さな仕草にロマンがある。
「また、これか」それが今の俺の実力というところだ。甘辛く、少し苦いあられを俺はかみ砕く。次こそは当たるかもな。そうだ。次こそは本命の……。

「また、あんたか」
 ここにはあんたしかいないのか。いや、そんなはずはない。もっと他の仲間がいるはずだ。僕の好く奴が含まれているはずなのだ。なのに、嫌がらせのように同じことばかりが起こる。多様性とはおべんちゃらか。ずっと日照りが続いています。これでもかと押しつけられるあなたのおせっかいが終わった時、きっと革命的な雨降りになるでしょう。
 リスから鹿に変わり、シマウマからラクダ、リスに戻ってチーター、ライオン、カバ、キリン……。空からまとまった動物園が降ってきたとしてもおかしくない。動物園の次は水族館かもしれない。不条理は今に始まっているのです。

 私が欲しいのはやっぱりこれじゃない。でも、もう忘れてしまった。裏切りが続きすぎたために、本当に望むものがわからなくなりました。思い出すための手段はただ一つ。私がそれを引くことだ。私はもう一度手を底知れぬ袋の奥へと。

「またお前か」
 お前は少しも悪くはない。もしもそこがお前だけの世界だったら。俺は文句も言わずにお前を噛み砕く。落胆も何もない世界。だが、ここは純粋じゃない。紛れの多い世界から俺は手を引くことができない。お前は少しも悪くないのに俺は笑うことができない。ここは裏切りの街だ。もう一度チャンスをくれ。そうだ。何度でもいい。もっと艶のある奴が欲しいのだ。あるいは、今度こそは。

「また、これか」
 これっばかりはわからないや。僕の手は決してあられを見ることはないから。あれは幻だったのでは? これはこれで美味しいのだから。これでよしとすればいいのではないか。むしろこれこそがよい。そうして踏ん切りをつけなければ進めない場所があるのではないか。

 これこそがそうだったかもしれない。そう思いながらあられは砕けていきました。もう一つ行こうかな……。
 指先ほどに儚いものが際限のないアンコールを誘います。けれども、これ以上行けば空っぽになってしまう。私はそれを望んではいない。代わり映えのしなかった小さな宇宙から、今日はこのまま手を引こうと思います。きっとそれでいい。あれこれ思わず続きは残しておこう。
 心残りが明日の希望となりますように。



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#心残り #楽しみ #ロマン


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