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帽子人間

「君に似合っているよ」
「そんなことないよ」
「何言っているんだ。とてもよく似合ってるって」
「そうじゃないんだよ」
「何がだよ。褒めているのに」
「先に帽子があったんだ」
「先に?」
「おじいさんの形見とか?」
「……」
「違うのか」

「帽子に合わせて僕は作られたんだ」
「作られた?」
「そうなんだよ」
「そんな話は聞いたことないね」
「今しゃべっているのも帽子の方だから」
「それじゃあ君は……」

「帽子人間さ」
「じゃあ君は本当はいないんだ」

「僕はここにいる」
「でも実際にはいない」
「そんなことはない」
「僕はいない人と話してたんだ」
「ここにいるじゃないか!」
「でも僕の思う君じゃなかった」
「それが僕のせいなの」

「君じゃないよ。君はいないんだから」
「いるんだけどね」
「無理にそうすることもできる」
「自然にそう思えないの」
「僕の中で君を創り上げれば。でもそれは本当に君なのか。やっぱり僕じゃないかな。ここにいるのは僕だけなんだ」
「どうしても僕を認めないのかな」
「認めたくても君はいない」

「僕はここにいるよ」
「いないものをいると言うことはできる」
「困った人だな」
「人ならみんなそうさ」

「もういいや。いないって言えば納得するの」
「君はいないんだ。今さら否定しなくてもいいんだけどね」
「君はそんなに確かなの」
「僕はここにいるよ」
「確かなの」

「まあ君より確かなことは確かだよ」
「不確かなりに僕はここにいるよ」
「いないにしては主張が強いね」
「いるからね」


つままれの
夢幻酒場で
ジンを入れ
語らう君は
世界の富豪

折句「つむじ風」短歌


#折句 #存在 #短歌 #小説

#ショートショート #詩


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