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[後編] コワーキングスペースの先駆者が掲げる2つの目標

コロナの影響で、働き方やマインドが大きく変わろうとしています。8年前にコワーキングスペース・シェアオフィスの老舗「7F(ナナエフ)」(埼玉県さいたま市)を立ち上げ、一般社団法人コワーキングスペース協会代表理事を務める星野邦敏さんは、この変化をどう見ているのでしょう。今後のコワーキングスペースの在り方や、現在手掛けている事業などについて、「ロバート下北沢」オーナーの原がお話を伺いました。

星野 邦敏(ほしの・くにとし)さん
一般社団法人コワーキングスペース協会代表理事。IT事業と不動産運営事業を行う株式会社コミュニティコム代表取締役。埼玉県さいたま市の大宮駅東口近くのコワーキングスペース7F・シェアオフィス6F・貸会議室6F・シェアキッチンCLOCK KITCHEN代表者。大宮経済新聞と浦和経済新聞の編集長。個人ではWordPress関連書籍を多数執筆。

コワーキングスペース飽和の時代へ? 

原:星野さんの事業展開に対する考え方は「人口減少」が大元になってるってことですか?

星野:はい、日本は人口が減るっていうのは間違いないので。びっくりするくらい減ると思うんですよ。私、今41歳なんですけど「もう20年遅く生まれたかった」っていつも思うんです。人口が減りまくってどうしようもない時にいろいろ活動したかったので。

原:でも20年早く生まれたからこそ、先行者優位的なことができたのかもしれないですよね。

星野:WordPressとコワーキングスペースの2つに黎明期から携わったことで、流れが大体わかりました。最初は熱量を持って立ち上げて、そこから規模が大きくなって、そのうち行政が注目するようになって、大手企業が参入して…と。どのタイミングで利益が出るかなど儲かりポイントもわかるようになりました。

原:今後、特に都心なんかはオフィスの借り手がどんどん少なくなるでしょうね。そうなると、どこもコワーキングスペースだらけになるんでしょうか。

星野:いずれは飽和すると思います。どちらかというと企業が借りて、そこを社員が使うという形が普通になっていくんではないでしょうか。これからリモートワークが増えるとは言え、商売気質のある人ってなかなか少ないと思います。だから、会社員のリモートワーク場所として残り、個人事業主などが借りるっていうのは今からものすごく急増するということはないと思います。

原:「自分でやる」っていうマインドが育ってないですよね。今回のコロナに対しても、みんな右往左往してるのを見て「自分で決めればいいじゃん」って思いました。「分からないことが分からない」という声もよく聞きますね。

星野:そうですね。ですから学生さんに対しては、シェアキッチンの利用料については相談してもらっていて、衛生面に気を付けて自分も事業者として責任を持ってもらいつつも、積極的にやってもらえるようにしています。

原:参加しやすくなるのはいいですね。僕自身もフリーランスでずっとやってきたので、若い人たちを支援したいっていう気持ちがあって。若い人たちの応援プランみたいなのを作りたいなと考えています。 

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星野邦敏さん(左)と原(右)

事業の根底にあるのは「オープンソース」 

原:星野さんの商売の仕方は、利益より先に「場を作る」っていう考えが先行して、それが最終的に利益になってると思います。僕もそう考えるんですけど、スタッフに怒られるんですよね(笑)「いやいや、ちょっと考えようよ」って。星野さんの場合、それでもやりたいことを先行できる理由って何でしょう。

星野:WordPressがオープンソースプロジェクトなので、世界中の人が無償でプロダクトに関わってたり、1000人規模の大きな無償イベントにも大きなスポンサーが集まったりというのを見てきたのが、結構大きいかもしれないです。その発想で、商店街の活動、例えばゴミ拾いなんかも積極的に参加しているうちに「これはこれで次につながるな」と思っていました。

原:コロナ前からそうですけど、商売と社会的貢献がまだ分離しているところが多くて。でも、“オープンソースの考え方”っていうのは、すごく面白いですね。よくある「無償で貸したら損するじゃん」ってところで思考が止まらない。星野さんのコワーキングスペース「7F(ナナエフ)」みたいに、どれだけお客さんに愛されるかも重要なのでは。

星野:ありがとうございます。コワーキングスペースって「そこに行ったら何かある」っていう期待感があって、そこはカフェとは違いますもんね。

原:でも、コワーキングスペースにありがちな“つながろう!”って掲げてコミュニティを作ることは、あまりやってないですよね?

星野:そうですね。初めの頃はやってたんですけど。やっぱり人によってスキルや求めるものにかなり幅があるんでトラブルになりやすくて。結局コワーキングスペース自体に来なくなっちゃう、というのが数件あったんでやめました。

原:なるべくそっと見守るみたいな…?

星野:そうですね、頼まれたらやりますけど、基本的にやらないですね。たまに「仕事をマッチングしてもらえますか?」という質問が来ますが、往々にして「とりあえず行ったら仕事がもらえる」と思っているような方々は、そもそもコワーキングスペースには合わない可能性があるので、やってませんとお伝えしています。そういう方は、異業種交流会なんかの方が合ってるかもしれないですね。

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「7F(ナナエフ)」マネージャーの山田里江さん(左)もご一緒に

「不甲斐なさを感じた」コロナで見えた目標

原:コワーキングスペースはこれからもっと増やすんですか?

星野:いえ、これ以上は増やさないですね。既にいろんな方がやってますし、むしろコワーキングスペース協会の発展に力を入れていきたいですね。現在、コワーキングスペースは全国に約1,200ヶ所、事業者数にして約800社あると言われています。そのうち当協会と関わりがある運営事業者は300社以上です。今後はコワーキングスペースの運営事業者や周辺サービス事業者としての会員企業をもっと増やしていきたいと思っています。

原:会員を増やすメリットには、どんなことがありますか?

星野:行政を動かしやすくなります。実は、今回のコロナで自分たちの不甲斐なさを感じまして。業界団体の力は、その業界の企業経営を左右するなと感じていて。行政に業界の声を届けてさまざまな提案をするにしても、そのお話を適切な所に持って行って、「コワーキングスペース運営事業者数としてもこれだけの意見があります」という風になるよう、会員事業者数を増やしてより“業界の声”として持っていきたいですね。

原:僕らもぜひ協力できればと思います。協会の運営は非営利だと思いますが、営利ではないけど頑張れるモチベーションっていうのは、冒頭の“自分の存在意義を見出す”話につながるんでしょうか。

星野:そうですね。あとはやっぱり、私は34歳から今に至るまでの期間を全力でコワーキングスペースの黎明期に注いでたので、コワーキングスペースがなくなっちゃったら寂しいんです。できれば、あと3年くらいで行政に提案できる規模まで持っていきたいですね。そこまでいったら、代表理事は若い世代の方に譲り、自分は監事など裏方で支えて業界が次の世代に健全に残り、より発展するような形にしたいと思ってます。 

次は「遊休耕作地の活用」目のつけ所とは?

原:今後の展開は何を考えていますか?

星野:遊休耕作地の活用ですね。遊休耕作地って絶対増えると思うんで、そこで何かやりたいですね。

原:もうそこまで見据えてるんですね!そういうところに視点がいく情報源って何ですか?情報のインプット方法やアンテナの張り方が知りたいです。

星野:コワーキングスペース関連の仕事で地方都市に行って、色々見聞きした時とかです。先ほどお話ししましたが、それこそシェアキッチン「CLOCK KITCHEN」の発想も、まさにそうでした。

原:「遊休耕作地がこれからくる」「地元の大宮周辺にも遊休耕作地がある」って情報を得た時点で、いけそうだ!って感じられるんですか?

星野:そうですね。全部「人口が減っている」というロジックがあるからです。人口減少の中で東京に一極集中すると国土が守れないから、国は人口を分散させたい。だから地方移住、2拠点居住、コワーキングスペース設置を進めるし、東京にある大学の入学者数や補助金額を減らすわけです。同じように、人口が減る=シャッター店になるからシェアキッチンにする、農業をやる人は減っても農地は残るから遊休耕作地が増える、とか。

原:コロナの外出自粛のせいか、農業やDIYを始める人って増えましたよね。

星野:そんなにコストがかからないですからね。猿とか猪とか獣害が多くて電気柵を設置しなきゃいけないとかでなければ…。あとは逆に、動物が食べない野菜を作るのも手かもしれないですね。ニンニクとかラッキョウとか(笑)

原:次回は農業をテーマに、またお話聞かせてください!ありがとうございました。

(文:松木優子)

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