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【読書】「ザ・スコアラー」から考える、スコアラー的な野球の見方とは

 皆さん、こんにちは。今回は読売ジャイアンツでスコアラー、編成本部参与などを歴任された三井康浩 (@8g6PznVN4ZQ1vpU)さんの著書、「ザ・スコアラー」について考えたいと思います。

 本書は三井さんがこれまで読売ジャイアンツで積み上げてきた「スコアラー」としてのキャリアについて、実際の仕事内容を具体例を交えながら説明しています。スコアラーとして長年仕えた巨人軍の名監督、名選手とのエピソードや、2009年の第二回WBCにチーフスコアラーとして参加した際のエピソードは一読に値するでしょう。

 そして野球ファンとして本書を読むべきだと思える最大のポイントは、「スコアラーはどういう視点で野球を観ているのか?」について理解を深められる点にあります。相手チームを研究・分析するにあたり、スコアラーはどういうポイントに着目することで相手投手・打者を攻略するための作戦を組み立てているのか?スコアラーの仕事の本質が「データやビデオ映像などの情報 (=Information)を集めること」ではなく、「集められた膨大な情報を真にチームに必要な考察 (=Intelligence)に昇華すること」だということが本書を通してよく分かることでしょう。

 当記事では、私が今後の野球観戦に参考になると感じた「スコアラー的な野球の見方」3点について、掘り下げてnoteしていきたいと思います。

1. 相手先発投手に対する攻略プランを考える

 まずスコアラーの仕事の中でもかなり重要なのは、相手先発投手に対する攻略プランを考えることにあります。スコアラーが現地で得た投球データを分析することで、選手がどのボール・コースを狙って打席に立てばいいか具体的な指示を出すことがスコアラーには求められます。本書では、第二回WBCにおける韓国代表・金廣鉉キューバ代表・チャップマンに対し、どのような指示で攻略に導いたかが詳述されています。

 このような「選手がどのボール・コースを狙って打席に立てばいいか具体的な指示を出すこと」は、昨季のドラゴンズでも何度か行われていたように思います。例えば8/9のDeNA戦では、苦手のグラウンドボーラー・平良拳太郎に対して以下の対策を行うことで攻略につなげています (結果的にチームは逆転負けを喫していますが・・)。記事の中ではこの対策が誰の発案で、どのように練られたかまで詳しく書かれていませんが、スコアラーの提案をベースに打撃コーチが発案し、実現したものと予想します。

> 平良の変化球は曲がりが遅いため打席の前方に立ち、曲がる前に捉えるという対策もうまくいった

以下記事より引用;
竜10失点逆転負けも… 天敵追い詰めた!!平良から8安打

 こうした相手先発投手の分析・対策の検討については、いち野球ファンである我々でも容易にできるかと思います。スポーツナビでは投手の投球データがそのシーズン分は全て遡って確認できますし、頑張って集計すれば投球の傾向を把握することは可能でしょう。実際に私も昨季は相手先発投手の特徴から、ドラゴンズの打順・作戦についての提案を度々行なっていました。例えば以下のツイートはDeNA先発・大貫晋一についての一連の分析ツイートをDeNAファンのストロウさんにもご協力頂きながら、モーメントにまとめたものです。

 相手先発投手を攻略するためにはチームはどのような作戦を立てて臨んでいるか?を自分でも実際に考察してみることで、いつもとは違った試合の見方ができるのかなと思います。

2. 相手主力打者に対する攻略プランを考える

 続いて相手主力打者をどのように攻略するのか、についてキャッチャーとともに考察することもスコアラーには求められます。本書ではスコアラーの見方として打者を「二軸型」「一軸型」「ツイスト型」の3タイプに大きく分類できること、そしてタイプごとに基本的な攻め方が異なることが紹介されています。また1球ごとに相手打者の狙いがどこにあるか、常に想定しながら見ていくことにも触れられていて、スコアラーの方が本当に一球一球を見逃すことなく集中して試合を見続けているのだなと感心させられました。

 相手主力打者対策として印象的だったのは、ヤクルトの名捕手・古田敦也が行なった高橋由伸対策についてです。高めのコースに対し高打率をマークしていた高橋由に対して、古田は敢えて高めを要求し続けたそうです。著者の三井さんによるとその古田のリードの「根拠」は、データだけでなく映像まで細かく見ていかないとその意図に気づけなかったそうで、改めてデータ分析の難しさと相手打者分析の奥深さを感じました。

 ドラゴンズでも当然このような分析は日常的に行なっていることと思いますが、最近ではルーキー・郡司裕也が積極的にライバルチームの主力打者の映像を見ることで分析を行なっているようです。

 私自身は昨季このような分析を行なったことがあまりなかったですが、昨季対中日相手に対戦打率3割を超えていた巨人・丸佳浩、阪神・糸井嘉男、広島・鈴木誠也、西川龍馬については、また別の機会にでも傾向と対策について考えてみると面白いのかもと思いました。

3. 相手投手の癖、打者の狙いを探る

 最後に取り上げたいのは、相手投手の癖、打者の狙いを探ることです。本書では伝説の10.8決戦今中慎二の癖を見破り攻略したこと、狙い球が全くわからなかった落合博満など多くの逸話が紹介されています。特に投手の癖を見破る方法については、投手のどこに注目すべきか、また癖の修正に鈍感だった球団、敏感だった球団はどこだったかについても言及されており、かなり興味深かったです。

 「投手の癖の発見」がかなり興味深い一方で、いちファンの視点で投手の癖を探るのは、映像の質量的にかなり難しそうだと思いました。というのも投手の癖は最終的に「打席から見て分かる」形で打者に対しフィードバックすべきもののため、映像資料がほぼセンターカメラによる中継映像に依存する我々にとっては分析がかなり困難だからです。

 一方で、我々でもできそうなこととしては、本書では打者の狙いを探る方法の一つとして「ネクストバッターズサークルにいる打者の動きを観察すること」を下記の通りに紹介しています。

>それから、ネクストバッターズサークルでの動きにも目を配っていました。力の入れ加減は選手それぞれですが、打者は大抵の場合、打席でのスイングをイメージした動作を繰り返しています。そのとき、どこのコースをイメージして振っているかは打ち取るためのヒントになる。(中略)
>それこそ、ネクストバッターズサークルではいつもなら「速球に打ち負けないぞ」とばかりに高めを大きく振っているような打者が、鋭いスライダーをとらえるかのようなコンパクトなスイングで素振りをしていたら非常にわかりやすいかもしれません。ストレートよりは変化球に意識がいっている証拠だからです。

「ザ・スコアラー」P98, 99より引用

 テレビ観戦では難しいですが、現地観戦なら打者のネクストバッターズサークルでのイメージスイングから、狙い球を推理することは可能でしょう。打者のルーティンをスコアラー視点でつぶさに観察することで、多くのヒントが得られるのだと思います。

おわりに

 以上、「ザ・スコアラー」から考える、スコアラー的な野球の見方についてnoteしました。本書を読むことで、普段から私が取り組んでいたデータを活用した分析がまだまだ浅いことを心から痛感しました。データを分析することで得られた事実をそのまま情報として伝えるだけでなく、如何に「使える」知識として提供できるかは、今後分析記事を書いていく上での教訓として胸に刻みたいと思います。

 また本書では、上記で挙げた点以外にも「成功する外国人投手の見分け方」「松井秀喜がメジャー1年目で苦しんだ原因」「攻略に手を焼いた中日投手陣」など面白い話が目白押しです。外出自粛でこもりがちな今こそ、ぜひお手に取ってみては如何でしょうか。

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

参考書籍: ザ・スコアラー


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