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中日・溝脇隼人に見る「ユーティリティプレーヤー」としての将来性

皆さん、こんにちは。今回は

「溝脇隼人の『ユーティリティプレーヤー』としての将来性」

をテーマに考えてみたいと思います。

溝脇隼人は今季プロ8年目、来週日曜日に26歳の誕生日を迎える若手内野手です。今年は春先から好調を維持し2月の実戦でも快音を連発していましたが、3/21に右脇腹を痛め戦線を離脱してしまいました。

一軍で結果を出し、チャンスを掴みかけたところで怪我・・。多くの中日ファンはそんな溝脇に対し、歯痒い思いを抱いていることかと思います。入団時には井端弘和の背負っていた背番号48を貰い次世代のショートストップとして期待され、同郷の大先輩・荒木雅博の後継者としても有力視された溝脇も、もうプロ8年目。同い年の京田陽太が不動のショートストップとして君臨する一方で、溝脇は二軍ですら根尾昂、高松渡など次世代のプロスペクトたちに二遊間の出場機会を奪われつつあります。

立場が危うくなってきた溝脇ですが、私はそんな彼に「ユーティリティプレーヤー」としての高い将来性を感じています。

溝脇はなぜ、ユーティリティとしての適性があると言えるのか。またユーティリティとしてどのような役割が求められ、その役割を果たすための課題が何なのかについて、以下で詳しくnoteしていきたいと思います。

なお以下に含まれる技術考察は、「京田陽太と源田壮亮の「ショート守備における違い」について考える」の記事でもおなじみ、ワンドリ (@hanachanlovebot)さんにご協力頂いています!

1. ユーティリティプレーヤーの定義・価値

まずはじめに、ユーティリティプレーヤーの定義とその役割がもたらす価値について考えます。当記事では、しらす (@shirasususu0)さんの名作noteを参考に、下記の通りまとめてみました:

ユーティリティプレーヤーとは、「内外野の複数ポジションを平均レベル以上に守れる」選手のこと

ここで言う「平均レベル以上に守れる」とは、具体的には守備指標UZRで0以上をマークする(=リーグ内の平均的な選手を上回る)と言い換えられます。対象は主に守備型の控え選手を指して使われることが多く、中日では内野全ポジションを高いレベルで守ることのできる、堂上直倫がそれに当てはまるでしょうか(必ずしも内野全ポジションのUZRが0以上ではないですが)。

ユーティリティプレーヤーはレギュラーとして攻守にバリバリ貢献するような選手ではない(西武・外崎と言う例外は存在しますが)ですが、スーパーサブとして代打、代走、守備固めなど一人で何役もこなしながら、限られたベンチ登録枠の中で高い柔軟性をチームにもたらします。

このユーティリティプレーヤーの価値は、近年顕著になってきた「投手分業性」の影響で、さらに重要性が増すことが考えられます。ブルペンの役割分担が細分化されたことで、リリーフ投手に多くの登録枠を割く必要が出てきたためです。一人の野手に複数の役割を与えることで登録枠を効率的に活用しようとする動きは、今後さらに加速すると予測します。実際に中日でも、昨秋より根尾、高松を外野で起用したり、外野手である滝野要を内野で起用したりするなど、キャリアの早い段階から複数ポジションに挑戦させる取り組みが見受けられます。

以上、ユーティリティプレーヤーの定義とその重要性について簡単に説明しました。ユーティリティプレーヤーについて、またここ数年よく耳にする「ポリバレント化」についてもっと詳しく知りたい方は、改めて上記のしらすさんnoteをご確認頂ければと思います。

2. なぜ溝脇はユーティリティとしての適性があると言えるか

次に、なぜ溝脇はユーティリティプレーヤーとしての適性があると言えるか、について考えます。その理由は、ずばり内野複数ポジションを「平均レベル以上に守れる」高い技術を備えているから、だと主張します。

ユーティリティプレーヤーは「スーパーサブとして代打、代走、守備固めなど一人で何役もこなす」と説明しましたが、そのうち最低条件として必要なのは「平均レベル以上に守れる」高い守備力です。昨季の溝脇は二軍で7つのポジションで起用されましたが、そのうちセカンド、ショート、サードの3ポジションにおいて特に高い守備力を備えています。各ポジションごとに、ワンドリさんの解説を見ていきましょう。

▼セカンド/ショート
まずセカンドに必要とされるのは、ショート以上のステップワークと俊敏性、さらに逆シングルの際はファーストが視界から消えるため、正確なスローイングも求められます。

以下の動画は3年前のものですが、溝脇は2017年時点で既に送球しやすい捕球をするためにステップワークをし、右脚でブレーキをかけながら骨盤を上手く始動させて、一塁へ強い送球ができています。

さらに体勢が悪くなっても軸足のバランスを補うため、京田と以下のようなスローイングに入る際の踏ん張りも、今年のキャンプで入念に練習しています。

前への出方と体の使い方を熟知し、さらには元々定評のあったステップワークを生かし、縦、横の細やかな動きができる点は、既にチーム内でもトップレベルであると言っていいでしょう。セカンドとしては今後、阿部を脅かす存在である事は間違いありません。

ショート守備については、流石に12球団トップレベルに成長した京田と比べると、見劣りするのは否めません。ただこれまで見てきたステップワークの良さ、俊敏性、スローイングの良さを見るに、十分ショートとしてもリーグ平均以上のレベルは備わっているように思います。

特にショートパイル ・人工芝を採用するナゴヤドームでは強い打球が多く、それゆえに深めの守備位置から前方へのスピーディな動きが要求されますが、溝脇の俊敏性なら十分対応できるでしょう。

▼サード
セカンド、ショートと異なりサードに要求されるもっとも大きなポイントとしては、「構え」が挙げられます。

打者からの距離が近く一瞬で打球が来てしまうため、ショート・セカンドのようにスプリットステップ主体にしてしまうと、どうしてもワンテンポ遅れてしまいます。なので最初からグラブと姿勢を低く構え、尚且つ左足で体の舵取りをしなければなりません。

特に逆シングルで打球を捌く際には、体勢を整えるためのボディバランスと送球が一塁側に逸れないための細やかなステップも必要となりますが、彼はそれらを完璧にこなし、下記のような見事なプレーを披露しています。

キャリアの中で二遊間を中心にプレーしてきた溝脇ですが、サードの守備においても十分「リーグ平均以上に守れる」高い技術を備えている、と言えるでしょう。

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このように、溝脇は内野3ポジションで高い守備力を備える点において、「ユーティリティプレーヤー」としての高い適性を感じさせます。ハイレベルな内野守備に加えて、昨季二軍では少ない出場機会ながら外野にも挑戦するなど、守備面でのユーティリティ性においてはチームでも随一です。実績はほとんどありませんが、今後一軍経験を積み重ねることで、上位争いをするチームに欠かせない、貴重なスーパーサブになれると確信しています。

3. 今季の溝脇に期待される役割

今季の見通しが不透明な状況ではありますが、今年の溝脇には確立されてきた内野守備を武器に、ユーティリティプレーヤーとして一軍に常に帯同し、試合途中からでも代走や守備固めでチームに貢献することが求められます。

投手が打席に立つセ・リーグでは控え野手の出番も多く、先発投手に不安があり早めの継投策に出がちな我が軍においては、少しでも役割の多い選手がベンチにいた方が起用法に幅が出るでしょう。

現在内野のユーティリティとしてのポジションを担っているのは堂上直倫ですが、彼の走力は代走起用されるレベルにないため、その意味でも溝脇をベンチに置く意味は大きいと言えます。

また内野守備において、堂上は手元のボールを捌くのが得意で地肩も強いですが、いかんせん俊敏性が低く、近い将来UZRの落ち込みも懸念されます。特に天然芝の甲子園やマツダスタジアムなどでは、守備範囲の狭さが如実に指標に反映されることもそう遠くないでしょう。守備・走塁の両方の点において、俊敏性に優れ高い守備力も備える溝脇にかかる期待は、今後さらに増していくと予想されます。

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今季の溝脇にユーティリティとしての台頭を期待する一方で、多くの中日ファンの頭には「もう溝脇はセカンドのレギュラーとしては期待できないのだろうか?」と言う思いがよぎっているかもしれません。確かにハイレベルな内野守備に抜群の走力があれば、レギュラー野手の調子によっては将来的な定位置奪取も不可能ではないでしょう。

ただ阿部・京田と二遊間のレギュラーが揃ってリーグ屈指の守備力を誇り、二軍では根尾や高松といったプロスペクトが優先的に起用されている現状を踏まえると、ポテンシャルは十分とは言え実績がほとんどない溝脇が彼らと平等に競争できる機会を与えられるとは残念ながら考えにくいと思います。

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幾度とあったチャンスを怪我で棒に振ってしまった以上、まずはユーティリティプレーヤーとして一軍で居場所を作り、プロの世界で「生き残る」ことが何より先決だと考えます。これまで説明した通り抜群の内野守備でユーティリティとしての適性は十分ですから、少なくとも今季においては与えられた役割を確実にこなし、一軍レベルで戦力になることが重要でしょう。

4. ユーティリティプレーヤーとして台頭するために解決すべき課題

最後に、溝脇が今季ユーティリティとして台頭するために解決すべき課題として、打撃、守備、走塁のそれぞれについて考えていきたいと思います。

▼打撃: 外角のボールへの対応に弱点を抱える
溝脇は内角気味のボールに対しては肩口から最速でバットが出ており、長打も多く見られている一方で、外角のボールへの対応には課題が見られます。

1グリップ余して振っているのに加えて構えがオープンスタンス気味のため、外角のボールは遠く感じるのか、当てに行くような打撃が目立ちます。特にアウトローに対しては、左肩が大きく下がりバットが遠回りしているように見えます。

外角でもアウトハイのボールは左肩があまり下がらない分、比較的バットがスムーズに出ていきますが、特に右投手相手だとアウトローへゴロを打たせるような配球が多くなると予想できるため、今のままだと外のボールでゴロアウトの山を築く可能性は高いでしょう。

また今年のオープン戦、練習試合では溝脇に非力なイメージがあるのか、高めへストレートを集められフライアウトを多く打たされていました。全てそれが原因とは言い切れませんが、左肩が下がりバットが遠回りしているのは高めのボールに対しフライアウトが多い要因の一つだと考えられます。

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ユーティリティプレーヤーのポジションを獲りにいくと言えど、試合序盤の代打など打席に立つ機会はキッチリ結果を残しておきたいところです。選球眼に優れるタイプでもないため、打率を上げるために外角への対応力を高める必要があると思います。

▼守備: 捕球から送球までの動作が分離している
12球団屈指のショート・京田がレギュラーに君臨しているとは言え、彼の負担を減らすためにも少しでもショートの守備力を京田に近づけたいところです。そこで溝脇と京田の技術的な差を挙げるとすると、「捕球から送球までの動作」に違いが見られます。

上記は今年の春季キャンプにて荒木コーチが溝脇、京田の二人を指導している映像となりますが、じっくり見ると練習中の一コマとは言え違いが分かります。

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NAGO DORA【今年こそGG賞】京田陽太 溝脇隼人を指導する荒木雅博コーチ 内野ノック~2020/2/1【中日ドラゴンズ 沖縄春季キャンプ~北谷】より、0:08~

京田は捕球時に腰を落としながら打球に対して一定の腰の高さでアプローチかけ、グラブを構えてもそのまま一塁方向に足を動かし続けています。左足は一塁方向へ向かい、右足も右膝を見ると分かるように一塁方向を向いています。

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NAGO DORA【今年こそGG賞】京田陽太 溝脇隼人を指導する荒木雅博コーチ 内野ノック~2020/2/1【中日ドラゴンズ 沖縄春季キャンプ~北谷】より、0:20~

一方で溝脇の場合は、捕球時に大きく股を割って、一瞬ですが足が止まっていることがわかります。腰の位置も高く、送球動作に入る際に体を一旦起こす必要があるため、送球までワンテンポ遅れてしまいます。

映像で見ると一瞬ですが、この差が内野守備において大きな違いを生み出します。打球へのアプローチのスピード、送球までのスピード。さらに捕球位置が安定することでイレギュラーバウンドへの対応ができるなど、内野守備の向上に影響する大きな違いです。

一塁までの距離が近く、止まって捕球するケースも多いセカンドや、速い打球が多いサードではこれまで通りの動きでも十分対応できますが、ショートでは差が顕著に出てしまいます。

ユーティリティとして京田に代わりショートのポジションに就くとき大きく守備力を低下させないためにも、この点は改善の余地があると言えるでしょう。

▼走塁: 物足りない盗塁成功率
続いて走塁についてですが、生まれ持ったスピードに反して盗塁成功率が低い点は改善の必要があります。溝脇は一軍では一度も盗塁企図を記録していませんが、二軍ではキャリア通算で56回盗塁を試みて、31回成功させています (盗塁成功率55.4%)。走者一塁での盗塁成功率の損益分岐点は66~70%とされる (*蛭川皓平著、「セイバーメトリクス入門」P.53より参照)ことを踏まえると、塁上で相手バッテリーをかき回す立場の選手としては物足りない数字です。

盗塁成功率の改善を目指すに当たっては、今季から一軍の内野守備走塁コーチに昇格した大先輩・荒木コーチと二人三脚での改善を期待しましょう。荒木コーチは昨オフに同じく俊足の高松に対し体重増を勧め、馬力UPが盗塁成功率の改善にもつながると指導しています。公称179センチ、75キロの溝脇にも食トレが当てはまるかは分かりませんが、通算378盗塁、盗塁成功率76.8%の荒木コーチなら溝脇に対しても改善策を用意しているはずです。

また怪我が多い溝脇にとっては、なにより怪我がちな体質の改善がもっとも重要な課題になるかもしれません。この点については、溝脇と同様に有り余るスピードのせいか怪我を繰り返しながら、昨季プロ10年目で初めて規定打席に到達したロッテ・荻野貴司の取り組みも参考になるかもしれません。

関節の硬さ・可動域の狭さを克服するために鴻江寿治トレーナーに師事したことが大きな要因とのことですが、鴻江トレーナーは現在チームの大ベテラン・吉見一起も指導しているとのことなので、先輩経由でコンタクトしてみてもいいのかも?

5. まとめ

①ユーティリティプレーヤーとは「内外野の複数ポジションを平均レベル以上に守れる」選手のこと。投手分業性が進むにつれその重要度は増していく
②溝脇はセカンド、サード、ショートの3ポジションを「平均レベル以上に守れる」高い技術を備えている点でユーティリティとしての適性あり。さらに外野までこなすユーティリティ性はチーム随一
③今季はレギュラー奪取の前に、代打、代走、守備固めを担うユーティリティとして通年での一軍定着を目指す
④打撃面での課題は左肩が下がることが原因として考えられるアウトコースの対応
⑤守備面での課題は捕球と送球までの動きを止めず、スムーズに行うこと
⑥走塁面での課題は盗塁成功率の向上

以上、長くなりましたが溝脇の「ユーティリティとしての将来性」をテーマにnoteしてみました。改めて技術考察だけでなく、当記事の企画から構成のサポートまでして頂いたワンドリさんに、心から感謝申し上げます。


と言うことでロバートさん feat.ワンドリさんでした。
ありがとうございました!

データ参考:
1.02 Essence of Baseball
日刊スポーツ ファーム情報
スポーツナビ

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