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海を渡る蝶

先日、ある方から連絡があった。

「この作品がほしいのですが、まだありますか?」

2019年に行った個展「Finding a Planet」で展示した「Incarnation」という水彩作品だ。

https://www.instagram.com/p/CGGJe-2AtJH/

ある架空の惑星の誕生をテーマとした作品展。その惑星に最初に誕生した生物、あるいは「命の象徴」として、蝶を描いたのがこの作品。展示のメイン作品だった。

この蝶は、作者の意図を超えて、いろいろな方のイマジネーションに訴え、そのなかで生き始めていた。ところが、不思議と買いたいという方は現れなかった。

そんななか今回、この作品がほしいという方に、その前に現物を見たいと言われ、都内の某ホテルのラウンジカフェで待ち合わせした。

日本で働く、韓国出身の若い方だった。2019年の展示で一度見てほしかったのだが、若さゆえ(?)に先立つものがなく、このタイミングになったという。

この作品を見たとき、韓国人ならほとんどの人が知っているある詩を思い出したのだという。日本の東北大学でも学んだ、韓国の知性派詩人として知られるキム・ギリムさんの「海と蝶」という詩だ。

海と蝶 -金起林-
 だれも水の深さを教えてやらなかったので
 白い蝶は まったく海を怖れなかった
 青い大根畑だと思い舞い降りたため
 か弱い羽が波に濡れて
 王女様のように疲れ果てて帰ってくる
 三月の海には花も咲かず 淋しく
 蝶の背に 真っ青な三日月の光が沁みる

(1939年)「初めてのように」申庚林編
(2006年 タサン書房)
 キム・ギリム

http://korea-np.co.jp/j-2008/06/0806j0310-00006.htm

바다와 나비
김기림

아무도 그에게 수심(水深)을 일러준 일이 없기에
흰나비는 도무지 바다가 무섭지 않다.

청(靑)무우 밭인가 해서 내려갔다가는
어린 날개가 물결에 절어서
공주(公主)처럼 지쳐서 돌아온다.

삼월(三月)달 바다가 꽃이 피지 않아서 서글픈
나비 허리에 새파란 초생달이 시리다

https://ko.wikisource.org/wiki/%EB%B0%94%EB%8B%A4%EC%99%80_%EB%82%98%EB%B9%84/%EB%B0%94%EB%8B%A4%EC%99%80_%EB%82%98%EB%B9%84

この水彩作品に、また一つの新しい命が与えられたかのようだ。オーナーさんはもしかしたら秋に国に戻るかもしれず、そのときは文字通り海を渡ることになる。

安達ロベルト作品展「FREQUENCIES」2022/5/5-8


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