カメラの話を徒然に(21)
高級コンパクトカメラ(3・終) リコー GR1
広角レンズ固定式のカメラ
1960年代のレンズ固定式カメラから始まって80年代のコンパクトカメラに至るまで、レンズは50mmから38mm近辺まで広角化してきた。それらのカメラへの差別化として、ワイドカメラと銘打って35mmレンズを搭載したモデルも流行した。今となっては携帯端末に15mm相当以下の超広角まで積まれるようになったから隔世の感があるが、コーワSWという28mmレンズ固定のカメラが64年に出て、ワイドカメラのブームはいったん収束に向かう。コーワはこの後レンズ固定式の一眼レフでUW190、なんと19mmレンズがついたカメラを作っていて驚くが、建設現場などの需要に応えたものらしい。
コーワSWのあと、コンパクトカメラでこの領域に28mmレンズが登場するのはオリンパスXA4(85年)だろうか。今回シリーズの「高級コンパクト」となると85年はまだその時期でなさそうだし、価格も5万円を切っていて、安くはないものの「高級」という感じはしないかと思う。その後、ニコンが35Tiにつづいて28Tiを出して、いよいよ高級コンパクト路線に広角レンズが現れる。そしてこのリコーGR1が96年に登場した。
前にも書いた通り、リコーにはR1という30mmレンズを搭載した薄型コンパクトカメラがあり、上下マスクのパノラマモードにすると内蔵コンバーターが出てきて24mmになる、というなかなかマニアックなカメラを出していた。その薄型外観を引き継ぎ、マグネシウム合金の外装に高品質な28mmF2.8レンズを搭載したカメラがGR1で、隅々まできっちり写ることをアピールするためにカタログの作例写真には「ノートリミング」といちいち注釈がついていたのを覚えている。
GR1
カメラは見た通り、薄型でポケットにも入る大きさである。マグネシウム合金の外装は全体の軽量化にも寄与している。内部はプラスティックだ。ファインダーには採光式ブライトフレームがあり、フレームは光を通すマスクではなく、液晶表示を投影する形になっていて、その特性を活かして、シャッター速度の範囲が表示され、近接時にはパララックス補正のためにファインダー上部に追加の線が現れて、カメラを下の方に向けるように誘導される。
フィルムはカメラの右側に装填し、蓋を閉めるといったん全てのフィルムが引き出されて左側に巻かれる。その後、撮影時には1枚ずつパトローネに収まって行くというやり方だ。そのため、フィルムに予め入っているコマ番号は逆順になる。このカメラの開発時に関わった写真家の田中長徳氏によると、撮影済のコマはパトローネに収まるから、裏蓋が開いてしまう事故が起きても撮ったものは保護される、プロ機はこうでなくては、みたいなことを言っていたように思うが、なるほど物は言いようだと当時思ったものだ。個人的にはこれで撮ったフィルムだけ逆順なのでちょっと整理時に迷ったりすることもあったが。
フォーカスは正確で、少しウェットな感じに写るレンズである。隅々まできれいに写るという宣伝で実際その通りではあったが、周辺光量は相応に落ちる。
すごく写りは良いし色も濃くて良かったのだが、レンズをカメラ内に沈胴させる部分がどうも弱いらしく、99年9月にノルウェーに旅行している最中に故障してしまった。シャッターが開かなくなってしまい、ただ暗いコマだけを延々送る状態になっていたのだ。レンズシャッターは静かであるが、やはり開いていないと気付く。この時はメインカメラがOM-3Tiで、広角レンズはシフト24mmF3.5で、かなり大きいので街中を気軽に撮るにはGR1が向いていると思って持参したのであるが、最初の2日間くらいで故障し、非常に残念であった。帰国後修理したが、リコーのカメラはデジタルカメラのGRシリーズでもこの鏡胴周りで故障を何度か経験していて、なんだか鏡胴が弱い印象がある。それ以来、あまりたくさん撮る用途では持ち出さなくなってしまって、結局GR1はお蔵入りし、リコー自身がライカスクリューマウントに搭載して売り出したレンズを入手し、ライカに着けて撮るようになり、今に至っている。いま、GR1は液晶表示部の色がすっかり抜けて情報が見えなくなり、シャッターリリースボタンが反応しなくなって完全に故障した状態になってしまっている。
ということで、以下の撮影例はライカマウントのGRレンズのものも含まれる。
おわりに
本稿で高級コンパクトカメラのシリーズは終わりである。3機種を経験しただけでカテゴリー全体を分かったつもりになるのはまずいので、自分が持っているカメラとその撮影例に絞ってみた。いずれのカメラも、よく写るレンズとブレにくいレンズシャッターが特徴で、実際に撮影結果も素晴らしいものだ。
今や、デジタルカメラでも高級路線どころかコンパクトカメラのジャンル自体が縮小してしまった。オリンパスの名設計者、米谷さんの言うどこでも撮れるカメラはいまや携帯端末でほぼ完成しているとも言えて、当時の座談会で「理想は念写」とまで言い切る米谷さんに「それじゃカメラメーカーの商売あがったりだよなあ」と思ったりしていたが、実際そうなっている面もある。
とはいえ、いま動くカメラが手元にある方は、その写りを楽しんで行けば良いと思う。私も、GRレンズだけしかないが、今後も積極的に使おうと思う。
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