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意外と難しい「時間制限駐車区間」の正確な意味

交通標識の中で意外と難しいのが駐停車関係の規制である。その中でもとりわけ難しいのが「時間制限駐車区間」ではないだろうか。これは主に都市部の駅前等、駐車場の土地の確保が難しい地域で路上駐車スペースを時間制限付きで提供する仕組みであるが、かくいう筆者もいままで一度も利用したことがない。この記事では、このすこし苦手意識のある「時間制限駐車区間」について詳細を見ていく。

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概要

交通規制基準によると、この規制は「時間を限って同一の車両が引き続き駐車することができる道路の区間であることを指定し、かつ、車両が引き続き駐車することができる時間を表示することにより、必要やむを得ない短時間の駐車需要に応じ、交通の安全と円滑の確保を図るとともに、駐車秩序を確立する」ためとされている。

この規制があるところには、以下のような路上駐車の道路標示 (原則として平行駐車 (縦列駐車))がセットになっており、かつパーキング・メーター又はパーキング・チケット発給設備 (パーキング・メーター等)が設置されていて、駐車を行うときは料金を払う必要がある。

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パーキング・メーター (東京都)

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出典: 警視庁ホームページ

パーキング・チケット (東京都) 

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出典:警視庁ホームページ

駐車可能時間は標識に記載があり、20分、40分、60分が一般的である。制度上は原則として60分以内、最大でも120分の駐車となっている。

時間制限駐車区間は、有効な時間帯や日程が指定されている場合がある。また、有効時間外には別標識で駐車が規制されている場合があるので、注意が必要である。

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図: 典型的な組み合わせ規制の例。
一方通行の右側の路肩は道路交通法では既定では駐停車が禁止されているため、
許可する場合には、明示的に「駐車可」「停車可」の指示標識が設置される。
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場所: 東京都千代田区。時間制限駐車区間に日時の制限があり、駐車禁止の規制と一緒に行われている例。パーキングメーターも見える。

中には、複雑な規制がかかっている場合もある。

歴史と全国的な動向

時間制限駐車区間は、路上駐車違反取締の一環として行われてきた。しかし、大型商業施設の駐車場整備やコインパーキングの普及等により、都市部での違法駐車、路上駐車の需要は年々減少傾向にある。例えば、東京都における2001年に駐車違反件数は年間約10万件とピークを迎えたが、2018年には約4万3千件と、20年で半分以下に減少した。また、2000年に約3万8千あった時間制限駐車区間用の駐車枠は、2018年には約2万2千と20年で約4割減少している。時間制限駐車区間の使用率も低い。かつて時間制限駐車区間が存在した都道府県の中でも全廃され、存在しない県も増えてきている。現在は、後で出てくる21の都道府県に存在するのみである。尚、これらの詳細は警察庁交通局/全日本駐車協会が公開している資料「駐車対策の現状2020」「駐車対策の現状2012」に詳しい。

また、近年はナビゲーションサービスや交通規制情報オープンデータで全国の時間制限駐車区間の場所がわかるようになっており、全国で1,340区間あるとのこと。(区間の重複や隣りあわせになっている可能性もあり)

余談だが、時間制限駐車区間の標識は、当初は1971年 (昭和46)11月に「駐車時間制限」として設定され、1985年 (昭和61)11月にデザインが大きく変わり「時間制限駐車区間」という名前になった。前は以下のようなデザインで、むしろ駐車禁止のようなデザインだったが、駐車を「許可」するという趣旨なために青字のデザインに変わったものと思われる。パーキングメーターは1959年 (昭和34)に東京都で初めて設置されたが、1971年の規制標識設置以降に広がった。

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出典: 東京公文書館Facebook。昭和30年代のパーキング・メーター

このように、時間制限駐車区間の規制は、パーキング・メーター等のテクノロジーの発明と普及とも密接に関わっているのは興味深い。

それでは、交通規制情報オープンデータ (2023年4月現在)の情報をもとに、時間制限駐車区間の設置箇所が多い都道府県上位5都府県とその特徴を中心に見ていくことにしよう。

■ 1位. 東京都

全国にある場所の約6割、767区間は東京都、しかも千代田区、中央区、港区、台東区といった都心部に集中している。警視庁が時間制限駐車区間案内地図を公開している。

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出典: 警視庁。時間制限駐車区間案内地図青色は日曜・休日の利用可。緑色は (土曜)日曜、休日を除く曜日の利用可能。いずれも1月1日~3日を除く。

時間制限駐車区間は単独で設置されている場合も多いが、特に交通量が多い場所では利用可能日時以外は駐車禁止、駐停車禁止に設定されていることが多い。一方通行の右側の路肩は、利用可能日時以外は駐車場として制限なく中は可能なこともある。

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場所: 東京都千代田区。一方通行の左側は単独で設定、右側は駐車場との併記で利用可能時間以外は駐車枠内に駐車が可能。(両方の規制はお互い違う日時にかかっている)
場所: 東京都千代田区神保町 靖国通り
東京都は時間制限の違う2つの区間が連続している場合もあり、珍しい2連ダンゴも若干見ることが出来る。

■ 2位. 愛知県

全国2位は愛知県の156区間。この規制は名古屋市中区、中村区、東区などに分布している。

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場所: 愛知県名古屋市中区。一方通行の両側に駐車禁止との組み合わせで同じ規制がされている。(両方の規制はお互い違う日時にかかっている)

■ 3位. 神奈川県

全国3位は神奈川県の84区間。この規制は横浜市西区、中区、神奈川区、南区や平塚などに分布している。

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場所: 神奈川県横浜市西区。 横浜駅西口付近一方通行の両側に駐車禁止との組み合わせで同じ規制がされている。(両方の規制はお互い違う日時にかかっている)

■ 4位. 兵庫県

全国4位は兵庫県の82区間。神戸市中央区に分布している。

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場所: 兵庫県神戸市中央区。一方通行の右側に駐車禁止との組み合わせで規制がされている。(両方の規制はお互い違う日時にかかっている) また、停車可であることを明示する指示標識も設置されている。

■ 5位. 大阪府

全国5位は大阪府の81区間。この規制は大阪市内のみに分布している。大阪市の場合、駐車禁止関係の規制が「自動車」または「自動車 (二輪を除く)」とはっきり書かれている (つまり自転車・軽車両を明示的に除外)のと、駐車禁止との併設時に交通規制基準の配列順位と異なり、時間制限駐車区間の標識が駐車禁止の上に設置されることが特徴である。

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場所: 大阪府大阪市中央区。千日前通り
時間制限駐車区間の標識が駐車禁止の上に設置される。
(両方の規制はお互い違う日時にかかっている)

その他 (福岡、北海道、三重、鹿児島、千葉、宮城、沖縄、富山、京都、山口、香川、埼玉、広島、岡山、山梨、岩手)

6~21位までは以下の通り。

  • 福岡県: 70区間

  • 北海道: 19区間

  • 三重県: 14区間

  • 鹿児島県: 10区間

  • 千葉県: 9区間

  • 宮城県: 8区間

  • 沖縄県: 7区間

  • 富山県: 6区間

  • 京都府: 5区間

  • 山口県: 4区間

  • 香川県: 4区間

  • 埼玉県: 4区間

  • 広島県: 3区間

  • 岡山県: 3区間

  • 山梨県: 2区間

  • 岩手県: 2区間

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場所: 福岡県福岡市中央区。標識の先に歩道に食い込んだ専用駐車帯を準備。時間帯により貨物車のみに限定している。駐車枠外の規制を明示している (ここでは駐車禁止)ことが特徴。ただし、「駐車方法標示線内」の明記はない。
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場所: 宮城県仙台市青葉区。駐車枠内への停車を明示的に表示していることと、駐車枠外の規制を明示している (ここでは駐車禁止)ことが特徴。
場所: 広島県広島市東区光町2丁目交差点
併設されている駐車禁止標識は時間制限駐車区間と被らない日時で制限されていなく全日時となっているが、下の時間制限駐車区間の規制が「駐車方法標示線内」と暗に指定されていると解釈するのが妥当か。また、「2輪のものを除く」となっているのも特徴で、二輪車は駐車禁止である。
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場所: 北海道札幌市。停車可であることを明示する指示標識も設置されている。
場所: 千葉県船橋市習志野台
大阪と同様、時間制限駐車区間の標識が駐車禁止の上に設置される。
(両方の規制はお互い違う日時にかかっている)
駐車禁止規制には「白線内を除く」という補助標識が付く。
つまり、白線内については、10-20時は60分の時間制限駐車可能、20-翌10時は駐車制限なしとなる。

規制に関するナゾ

さて、ここまで見てきて、この規制の難しいところを考えてみる。交通規制基準に記載があるのは、基本的には駐車枠の中の話だけである。それでは、この標識がある場所の駐車枠外での規制はどうなのか?というのが疑問に上がる。しかし、交通規制基準をいくら読んでも、駐車枠外の規制内容は書いていないのである※。それでは、駐車禁止関係の標識が何もない場合と同じなのか?しかし、それだと駐車枠外に停めてしまえば規制を受けないことになってしまい、わざわざ規制をかけていることと矛盾が生じてしまう。そのため、駐車枠外では駐車禁止の規制がかかっているものと想定するのが無難であるという推測ができる。

警視庁のホームページでは、「使用するには指定された場所・方法を守っていただく必要があり、守られていない場合は駐車違反になります」とはっきりと記載されている。つまり、駐車枠に正しく駐車していない場合、駐車枠外の駐車については駐車違反になるということだ。しかし、都道府県によっては、先の福岡県や宮城県の例のように、駐車枠内への駐車の誘導や、駐車枠外での規制を明示的に表示しているケースもある。これは時間制限駐車区間の規制がメジャーではないために間違い防止の観点で設置している可能性もある。

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また、もうひとつ紛らわしいのは、特に東京都の都心部では、時間制限駐車区間の規制標識がある道路で、区間内に駐車枠がひとつもないケースが結構存在する。歴史的にパーキングメーターの需要が減少傾向にあり、規制が敷かれたあとに建った建物に車庫ができてその前のパーキングメーターが取り除かれるなど、何らかの理由で駐車枠とパーキングメーターが取り除かれた状態で規制標識だけが残っているケースなのだと思われる。このような場合は、利用可能日時の間に駐車禁止の規制がかかっていることと同じとなると解釈するのだろう。このような場合は、明示的に駐車禁止の規制と切り替えてほしいものだが、標識の枚数が増える、コストが掛かるなどの理由でそのままになっているのかもしれない。

道路交通法 第四十九条の三 3には「車両は、時間制限駐車区間においては、駐車につき道路標識等により指定されている道路の部分及び方法でなければ、駐車してはならない。」と明確に書かれていることが判明した。

典型的な規制例の解釈

駐車枠内と駐車枠外について、典型的な規制の解釈を記載する。尚、一方通行の場合は左側の路肩と右側の路肩では意味が異なるので、それについても分けて記載する。

まずは一番シンプルな場合である。右側の路肩は既定では駐停車禁止であるため、市街地の一方通行等で停車を許す場合は下側の規制を実施するのが普通である。

時間外に駐車禁止を併設する場合 (お互いの時間は被っていない) は以下のようになる。

対象日が限定されている場合は以下のようになる。

また、一方通行右側の路肩で時間外の駐車制限をなくす場合、以下のような表示になる。尚、駐車枠外は駐停車禁止であることに注意が必要である。

また、併設されている駐車禁止の規制の時間制限がなく終日の場合も、時間がお互いに被っていない場合と同じ解釈となる。時間がかぶっている時間はいずれにしても駐車枠内では時間制限駐車区間が優先されるためだ。

また、駐車禁止に白線内を除く補助標識が付加されている場合は、以下のように駐車枠内は時間外は規制がなくなる。

時間制限駐車区間についてのその他のよくある質問と回答

Q. パーキング・メーター等に支払う料金は駐車料金なのか?
A. いいえ。駐車料金ではなく手数料の名目である。

Q. 規制標識に記載された制限時間が経過したので、もう一度料金を入れて時間の延長ができるか?
A. いいえ。延長できない。同一の車両が制限時間を超えて駐車すると駐車違反になる。

Q. 時間制限駐車区間の標識がある道路では、駐車可能枠がないところにも制限時間内なら駐車しても問題ないか。
A. いいえ。駐車違反となる。

Q. 大型車なので駐車可能枠に入り切らないが駐車できるか。
A. いいえ。駐車可能枠内に駐車しない場合は駐車違反となる。

Q. 時間制限駐車区間の標識がある道路では、料金を支払わなくても制限時間内なら駐車しても問題ないか。
A. いいえ。駐車違反となる。

Q. 時間制限駐車区間の標識の規制日時外であれば、駐車可能枠内に料金を払わずにいくらでも駐車できるか。
A. 規制日時外の場合は、その他の規制に準拠する。駐停車禁止、駐車禁止の規制標識が併設されている場合は、その規制日時にあたっていればその規制を受ける。どの規制にも当たらない場合は規制のない道路と同等となる。が、駐車違反を取られないかというと、道路交通法「停車・駐車の禁止」では取り締まられなくても車庫法違反 (「道路上の同一場所に引き続き駐車(昼間12時間以上、夜間8時間以上)をする行為」が禁止) で取り締まっているケースがあるため、特に都市部の重点取締場所では注意が必要。「駐車可」の指示標識が併設されていて有効日時内であれば、まだ安心である。


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