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道路標識の景観への配慮

日本の街並みは海外と比べると道路標識、ガードレールなどの「道路附属物」が景観の邪魔をしている。規制標識ひとつ取っても、「これでもか!」というくらい沢山の種類の規制が短い間隔で設置されている。これは規制の細かいところにこだわる日本人の特性とも言えるだろう。これに対して、国や地方自治体も黙って見ているわけではなく対策を進めている。この記事では、そのような例を見ていくことにする。

標識自体の工夫

標識のデザイン自体を工夫することで景観に配慮する動きが1980年代頃から始まっている。国土交通省でも2004年3月に「景観に配慮した防護柵の整備ガイドライン」、2005年4月に「道路デザイン指針(案)」を公開し、2017年には道路のデザインに関する検討委員会による改訂版として「景観に配慮した道路附属物等ガイドライン」を公開している。

区間表示の省略

ガイドラインができる時代に先行して、1992年 (平成4) 6月の交通規制基準の改正により、多くの規制標識に「区間内 (506)」の補助標識を附置しないようになったため、標識柱に設置される標識数が減少した。

小型化

都市部の片道1~2車線程度の生活道路や一般道路では、通常の道路標識のサイズ (60cm) の2/3の大きさの小型の道路標識 (40cm) を設置することで、標識が不必要に目立ちすぎることがなくなる。1990年頃より導入されている。

裏や柱の色彩

標識の裏側や柱は、それまでは白や亜鉛メッキ・アルミの銀色のものが多かったが、1980年代から市街地、郊外部、樹林地、田園地域、海岸沿い等に
合わせて防護柵、照明、信号機、標識(柱)、歩道橋、ベンチ、バス停上屋等の色彩やデザインも景観に配慮したものや地域のテーマにあったデザインに合わせる動きが出てきた。また、オリジナルデザイン信号機や街灯もこの頃に多く設置された。色彩はダークブラウンやグレーベージュが良く選択される。

1992年 (平成4) 11月の道路標識等の設置基準の改正でも、標識板の裏側や標識柱の色彩に「茶系色等の明度及び彩度の低い色彩」を可能とすると明記された。

標識数の削減

規制が多く標識数が多くなりがちな街中では、標識数の設置枚数を減らすための様々な処置が講じられている。

設置間隔の間引きと同時設置数の削減

交通規制基準によると、区間規制標識の設置間隔は交差点毎、または1.0km間隔が基本であり、駐車規制系の標識は市街地は100~200m、非市街地では400m毎に設置、そして道路標示で区間内標識に代えることができ、道路標示はできるだけ道路標識と交互に設置、という基本ルールがある。

そのため、よくある組み合わせの

「最高速度」+「追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止」+「駐車禁止」

といった組み合わせ規制のある道路では、毎回3連ダンゴの標識にせずに、「最高速度」と「追い越しための…」の標識を交互に設置したり、道路標示で更に間隔を引き伸ばしたりすることで設置数を減らすことが出来る。

図: 標識設置数を間引いている例。右に行くほど同時設置数が間引かれている。

車両進入禁止における重複規制標識の省略

市街地には一方通行がたくさんある。そして、一方通行の規制は、フルセットで標識を設置すると、結構煩雑な設置となる。以下は一方通行の規制時に設置される標識のフルセットである。

図: 一方通行の規制に使われる標識のフルセット

ただし、右側のT字路の交差点では、一方通行路の解除標識と車両進入禁止、そして指定方向外進行禁止の標識は3種類とも同じ規制のために設置されており、法的効力はどれか一つでも設置されていれば良いため、他の2種類は重複の設置となる。分かりやすさという意味ではある程度重複していたほうが望ましい場合もあるが、逆に標識だらけになって煩雑になる。

この規制は、規制内容を保ったまま、以下の形にまで簡素化できる。

図: 一方通行の規制に使われる標識を究極まで簡素化した例 (東京都方式)

東京都では、一方通行の解除標識は殆どの場合設置されず、車両進入禁止のみが設置されるのが普通である。また、指定方向外進行禁止の標識も原則省略される場合が多い。東京都以外の場合はこのような省略形ではなくフルセットで設置されているか、指定方向外進行禁止の標識のみが省略されていることが多い。

また、一方通行の入り口では、東京都の場合、「区間の始まり」を表す補助標識と、「自転車を除く」といった車種を指定する補助標識は両方とも省略される。

また、十字路の場合は、細い路地の場合は車両進入禁止標識側が省略されることもある。

図: 車両進入禁止標識が省略される場合もある。

車両通行止めにおける重複規制標識の省略

車両通行止め規制の場合も、車両進入禁止の場合と同様、フルセットだと指定方向外進行禁止の標識との重複規制になる。

図: 大型貨物車等車両通行止めの場合のフルセットの標識

この場合の簡略化の方法だが、指定方向外進行禁止の標識を省略する場合と、車両通行止め規制標識を省略する場合がある。この省略パターンは都道府県公安委員会毎に癖がある。たとえば、東京都は前者が多く、神奈川県は後者の場合が多い。

図: 規制標識の省略方法は2通りあり、どちらも同じ意味になる。どちらが選択されるかには都道府県公安委員会ごとにクセがある。

法定速度の標識設置の省略

生活道路以外の一般道路ではかつて40km/hや50km/hの最高速度規制標識が乱立していたが、1966年 (昭和41)、1979年 (昭和54)、1992年 (平成4)、2009年 (平成21)と速度規制基準が改定されてきており、特に1992年の改定では新たな標準規制速度算出表による算出の結果、50km/hに設定されていた2車線道路で最高速度の引き上げが行われたところが多かった。その結果、結果的に法定速度60km/hの道路が増え、標識設置の省略につながった。

速度規制ゾーンによる省略

一方、生活道路では基本は30km/hが望ましいが、すべての生活道路に30km/hの規制標識が設置されているわけではないという課題があった。そのため、30km/hのゾーン規制が段階的に実施され、一定の広さの区域でまるごと30km/hに指定されることとなった。 (一部では駐車禁止のゾーン規制や、静岡県などでは20km/hのゾーン規制も存在)

場所: 東京都中央区

このゾーン規制では、普通に標識を設置する場合と比べて標識数を節約することが出来る。

図: 通常の30km/h規制を行おうとすると、上の路地だと標識が48枚必要になる。
図: ゾーン30だと、24枚 (+4枚)に抑えられ、ほぼ半減する。

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