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”松崎史也”という才能についての私見。

諸君、私は"松崎史也"という才能が好きだ。
彼が生み出す世界が好きだ。
まだ世の中には広く知られているとは言えないけれど、
「巷で噂の松崎史也」ぐらいにはなっている筈である。

そんな彼を、私見たっぷりで語りたいと思う。
(文章中、敬称は省略させていただきます)


演劇ドラフトグランプリ 優勝

いきなり何のこっちゃ!?と思う方もいるだろう。
ただ、これが今日(2022年6月14日)起きた事実であるし、
それが嬉しくてこのエントリを書こうと思ったのだ。

松崎史也。
演出家・脚本家・俳優。演劇企画『SP/ACE=project』主宰。
現在の主戦場は、2.5次元舞台とシェイクスピア作品と人狼TLPT。
演出代表作は、MANKAI STAGE『A3!』、舞台『機動戦士ガンダム00』シリーズ、舞台『魍魎の匣』。
『Casual Meets Shakespeare』シリーズ、『人狼 ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)』シリーズには演出だけでなく俳優としても出演。

ものすごく掻い摘んだ紹介をすると、このようになる。


近年、マンガやアニメ・ゲームを原作とする「2.5次元舞台」は舞台作品の一つのジャンルとして確立された。それを多く手がける制作会社やそれらに頻繁に出る役者たちも居る。
そういった人達が、演劇の力で何か面白いことをしよう!と企画したイベントの1つが、冒頭の「演劇ドラフトグランプリ」である。

読んで字の如く、演劇をドラフト形式で組んで、グランプリを決めるのだ。
会場は、日本武道館
普段は演劇公演で使うことのない場所で、普段は直接対決をして優劣を決めることのない演劇で、真っ向勝負する。

この戦いに20人の俳優と4人の演出家が挑み、4つのチームに分かれて作品が作られた。
そもそもドラフトの枠の中に入るだけでも、相当に光栄なことである。
しかも演出家の枠は4枠しかない。

諸々の経緯はこの場では省略するが、(アーカイブもある↑/後日注:期間終了)結果、座長・染谷俊之、演出家・松崎史也率いる 劇団『ズッ友』がグランプリを獲得したのだ。

【2023/12/12修正】公開が終わってしまった……
2023/12/4(月)23:59までの期間限定で、有料再公開されました!!!
https://www.theater-complex.town/videos/episodes/2UnWGminkwbdUmtKX1d1E5

会場で結果発表された時、私はガッツポーズをした。
なんなら、確信的にそうする準備をしていて、その通りにガッツポーズをした。

日本のエンターテインメントの中で考えたら、ほんの片隅にしかすぎない場所だけれど、それでも真っ向勝負をして、グランプリを勝ち取った事実は揺るがない。

おめでとう、劇団『ズッ友』。
ありがとう、劇団『ズッ友』。
最高の景色を見せてくれたね。

劇団『ズッ友』の評価されたポイントは何だったのか

どの演目も独自性に富み、役者の魅力が活かされていたことは大前提として、上演順が4番目(最後)で、他と被りのないテイストだったことはラッキーな点である。
ただ、それだけではない。

・制限時間20分の中で歴史物をやるという意外性
・20分なのに倍以上の時間の情報量が詰め込まれていると感じさせる点
・「地図」というお題を真っ向から捉えた脚本
・照明の効果的な作り込みと見せ方
・展開の中に笑えるポイントが多々あること
・物語性が高く、胸を打つポイントがあること
・観客が自分の人生に照らし合わせて考えたくなるセリフが存在したこと
・小道具をしっかり作り込んで、効果的に使った点
・日本武道館でセンターステージ使いであり、上から見る人がかなり居る認識を持っていること

こういったことが積み重なって、審査員と観客が投票したのではないだろうか。

《追記》原案は染谷さん。


本質を掴む能力

松崎史也の才能の中で、私が一番信用しているのが”本質を掴む能力”である。
魅力だと思っている、を通り越して、信用している、なのだ。

原作の世界で大切にされていることや、今この作品で伝えるべきメッセージ、今回の場合は会場の特性までも。
それらの本質を、ものすごく考えて考えて考えて、掴んでいる。

マンガやアニメだけでなく、シェイクスピアのような古典も「原作」である。
それらの何を崩してはいけないのか、どう魅力を引き出せば良いのか、を掴んだ上で舞台を作り上げることが出来る。
だから多くの人の心に届けることが出来るし、エンターテインメントとして広く支持されるのだと思う。

一般的な事実として、何らかの作品をそれとは違う媒体形式に展開させる"メディアミックス"では、時折”解釈違い”という現象が起きることがある。
もちろん受け取り方はその人の感性や思い入れ次第なので、解釈が違って合わない場合だってあるだろう。
でも、それが起きてしまう可能性をできる限り下げるためには、本質を掴むしかないのだ。

一例として、「首都争奪バトル舞台(ステージ)『四十七大戦』-開戦!鳥取編-」を挙げてみる。
原作は、擬人化された都道府県がお互いの良いところと悪いところをアピールしあって、日本一を争うマンガである。
マンガ、つまり2次元の紙媒体であり、具体的な音はない。
彼らが戦う時、マンガのコマに効果音や擬音、効果線は描かれるが、それをどうやって舞台にしたらいいのか?
答えは、ラップバトルだ。

お互いの良いところと悪いところを叫び合うことで、攻撃になる。
これが本質だと判断したからこそ、言葉で戦わせるにはラップバトルが最適だという判断になったのだ。


人間による演劇表現と想像力

演劇は観客の力を借りないと完成しないエンターテインメントだと思う。
それは、演じる人と見る人が居て演劇が成り立つ、という原点の話だけでなく、演劇は観客の想像力がないと正しく意図が伝わらないエンターテインメントだからだ。

演劇は制限された場所で、限られた物を使って、決められた時間の中で、表現をする必要がある。
雪山で遭難する話だからといって本物の雪を仕込む訳ではないし、ファンタジーの魔法使いの世界なんて現実には存在しない。
それでも脚本は容赦無く、その表現を要求する
だから演出家は、役者は、頭を捻って演劇に落とし込む。
解決策は数多ある。
現代では、映像もレーザー光線も特効も使える。

でも、松崎史也はその中で一番泥臭い、人間による演劇表現を一番の優先事項にしている。
これまでに光と影、色、布などを使って人間の力でいろいろな物事を、非現実的なものも含めて、舞台上に出現させてきた。

「突然、赤い布振って踊り出したんだけど?」

仮にそう言われてしまえば、目の前に見える事実はその通りだ。
だけど、それが”炎の魔法”の表現だ、と観客が想像力を働かせることが出来たなら、観客は魔法を見たことになる。
観客が、見立てやマイムによる表現を想像力を働かせて理解してくれる、と信じることでしか演劇は成し得ないのだ。

こういった観客の想像力を信用した表現が、松崎作品には多く出てくる。
その見立ての方法が、毎回秀逸だと感じる。
そして、私は特に布を使った表現が好きだ。
前述の魔法、水のような物質的な物だけでなく、絆、はたまた断絶のように概念的なものも布に託す。

布の良いところは、なんと言っても”固くない”ことである。
はためく、しぼる、折り返す。
畳めば小さく保管できる。補修もしやすい。
それに、専用の大道具・小道具・機材を発注するよりも安価に済む。

布ぉぉぉ!!!

私が演劇ドラフトグランプリの会場で、歯がガタガタするような身体の震えと共に泣いたのは、布が”主役”になった場面だった。
見立てではなく、主役だった。
『勝った』と思った。

前述で、
・小道具をしっかり作り込んで、効果的に使った点
・上から見る人がかなり居る認識を持っている
と書いたのは、主にこのシーンを指している。

物語が分からないと、何がどう魅力的だったかは伝わりにくいと思うのが、(主催各社におかれましては、ぜひ万難を排して恒常的配信か円盤化を実現いただきたい!)
畳めば小さく保管できる布だから、人間が手に持って運ぶことが出来て、大きく広げるとインパクトが強い。

※演劇ドラフトグランプリのルールの一つに、
大道具NG、人が手に持って運べる小道具のみOK
というものがある。

武道館は全体の3/4くらいの観客が、上からステージを見下ろしている。
布を広げた様子がよく見えるのだ。

……ずるいじゃん、それ。
アリーナ席は近さを感じることが出来るメリットがあるけれど、
それが無い上階の人達にしか感じられないものを見せてくれるんだもの。
(ビジョンはあるので、何が起きてるかはアリーナも分かるけど)


役者から熱望される人物

他にも、演出家として、脚本家として、そして役者として評価されているポイントは多数ある。
彼の右腕ともなっている松崎チルドレンにも言及したい。
だが挙げていたら、各作品に触れなければならないし、キリがない(笑)。

最後にもうひとつだけ挙げるとすれば、
役者から一緒に仕事がしたいと熱望される人物であるということだ。
一緒に仕事をした役者はもう一度!と言い、まだの役者も役者仲間から評判を聞いてぜひとも!と言う。

役者同士がまた共演したいね、と言い合うのとは、意味合いが違うはずだ。

どういった作品作り、現場環境づくりをしているかは、私たち観客は円盤化された時の特典映像で稽古場風景を垣間見るぐらいしか出来ない。

それでも、熱望する声が止まない人物であることは、変わらぬ事実である。
これもまた、彼の技術であり、才能の一つだと言えるだろう。


今見るなら『薔薇王の葬列』

松崎史也という才能をもっと見てみたい!と少しでも思ったのであれば、
今週いっぱい(〜6/19)日本青年館で上演されている
舞台『薔薇王の葬列』を見ていただきたいです。
まだチケットあります!
土日は配信もあります!

シェイクスピア作品をモチーフにしたマンガが原作となっていて、それを舞台化したものです。
シェイクスピア作品を知らなくても、中世の王族の戦いがベースになっている、ってことだけ頭に入れていけば、あとは作品の中で補完してくれますので!



……っていうか、『薔薇王の葬列』の初日が6/10で演劇ドラフトが6/14なの
、スケジュール的に尋常じゃないんですよ……
この先、3人じゃなくて5人に分身する能力を体得しないといけませんね。
※ジョークとして「3人いる」を肯定したことがある。




本人にも伝えてるけど、
クリエも日生も帝劇もステアラも、
全部待ってる。



またいつか、松崎史也についての重すぎるオタクの愛情を語る時が来たら、お付き合いください。


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