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やりたいことだけをやればいい?~子どもに嫌われるための哲学~

先生:きょうは、みんなに将来の夢を発表してもらいました。最近はYoutuberも人気になりましたね。先生はおどろきました。それでは、授業を終わりにします。

生徒:先生!最後に質問があります!もうなりたいものが決まっている人は、なりたいものになるために役に立つことだけやっていた方が、より確実に、夢が実現できると思います!だから、私は明日から、役に立ちそうにない授業は受けません!そう、たとえば、古典とか!!

先生:なかなかいい度胸ですね。外国人と話すときに、自国の文化が話題になるにも関わらず、日本人は知識不足を痛感するとは言いますね。ただ、率直に言って、クラシカルな国文学の教養が、将来役に立てられる人はかなり少ないと思います。多くの人の生活に役に立つなら、みんなこぞって古典の勉強をするはずですからね。

生徒:ということは、サボっていいってことですよね!ラッキー。

先生:成績とか内申点とかの話をするのはあまりにもくだらないですし、勉強そのものの内容ではなく忍耐力や従順な人格を醸成する目的だとか、人を選別する指標になっているとか、教養は実は役立つとか、そういう議論はひとまず置いておいて、一つ言えることは、将来何がどう役に立つのかは子どもの時分には決めにくい、ということはあるかと思います。古典に興味をもって、古典研究者になる生徒も中にはいるでしょうからね。その生徒たちから学ぶ機会を奪うのは悪いことだとは思います。

生徒:では、明らかに古典に興味がない私なんかはやらなくていいですよね。そういう人に対しても、将来はどうなるかわからないから古典を学べと言うのは少々暴力的だと思います。だって、そんなことを言ったらやるべきことに際限がないじゃないですか。将来どうなるかわからないから、あれもこれもそれも学ばなければならないなんて、まず不可能で、ばからしいですよ。

先生:その通りです。もちろん、学校は将来役に立ちそうなことを学べるようにも考慮していますよ。ただ、画一的な基準からはこぼれてしまう生徒も一定数いることも確かですね。明らかにやりたいことがあったり、興味の有無がはっきりしている場合は、いつまでも、何でもかんでもやらせるのはばかげていると思います。

生徒:じゃあ、やっぱりサボっていいってことですよね!ラッキー。

先生:ただし、どんな人でも夢を実現するために絶対に必要なものがありますよ。特に社会の中で夢を実現したい人には。

生徒:まさか、いまさら学歴とか忍耐力とか教養とか言うんじゃないですよね?

先生:いえ、もっとシンプルで、だけど難しいものです。

生徒:なんですか?

先生:政治力です。

生徒:政治力?

先生:例えば、あなたは絵が描きたい、絵を描いて暮らしたいと思うとします。あなたは何をしますか?

生徒:絵の練習じゃないですか?

先生:それも非常に重要なことです。ただ、もう一つ、政治力が必要なのです。政治力は絵を描くことそのものとは一切関係ありません。絵の才能が無限にあったとしても、政治力がまったくない人は、実際上、絵が描けなくなります。なぜなら生活できないからです。絵を描くには、社会の中で絵を認めてもらい、そのことでなんらかの報酬を得て、生活する必要がありますよね。政治力とは、自分の価値を社会に認めてもらうために、自分に都合のいい仕組みやルールを作ったり、周囲の人に働きかける際に発揮される能力です。もちろん、すでにある仕組みに自分の側をある程度適応させるのもいいでしょう。いずれにせよ、絵を描いて暮らすには絵が上手くなる以外に、政治力が必要なのです。

生徒:絵が上手くなるだけではだめなのですね。めんどうですね。どうしたら政治力は身につくのですか?

先生:それは難しい質問ですね。はたして通常の先生が生徒に教えられるものなのかさえ、よくわかりません。どちらかというと実業家などがいいのかもしれません。ただ、事業というものは運も強く作用するとも聞きますし、もしかすると、教科書的に確実に政治力が身につく方法などはないのかもしれません。ただ、学校で学ぶことがまったく無価値なものとは限らない、ということだけは言えると思いますよ。


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