見出し画像

刀剣詩2023.冬〜初夏まとめ

2023年1月~6月に書いた刀剣乱舞の二次創作詩です。
詩が好きです。

鳥籠/骨喰藤四郎

胸の中に鳥籠がある

少女のような
華奢な肋骨の中
同じ儚さをして
灰に煤けた金属の
空っぽの鳥籠

鳥籠は
確かに鳥がいた形跡がある
金属ゆえに
檻だけが燃え残った
何もいない籠の中を眺めて
この頃、

確かにいたはずの
鳥の声を想像する
羽の色を想像する


正しさ/不動行光

捨てられていた
犬を拾った
箱ごとかかえて
持って帰ると
一斉 みんなは
捨ててきなさい、という

うちでは飼えないから
元いた場所へ返して来いという
死にゆく犬を見捨てる正しさ
その責任を負えない者が
目の前の、一時の情に流されぬ正しさ
死んでゆくことが正しい捨て犬の
その運命に
汚れた手を入れて
その魂を穢さない、正しさ

神は無力だ

子どもで
甘ったれと言われる
この衝動は
正義ではないらしい
感情的で考えなし
正しい、愛でもないのか

しかし
しかしこの溺れるような悲しみをどうしよう

ちゃんと正しく元へ捨てたが
俺の心だけ本当は
同じあの場所で
ずっと立ち尽くしている

金魚鉢/五虎退

薄玻璃の
透明な金魚鉢
中には
心臓のように赤い金魚一匹
澄んだもの縁まで注がれ
背景に溶けてしまうほど透き通る
両手に収まる小さなこころ
そっと運ぶ

風が吹くだけで
宝石を沈めるだけで
水面に花びらが落ちるだけで
零れてしまう
小さな
小さなこころ

金魚は翻る
悲しいのではないのです
こころに触れられたり
触れてもらったり
入られたり
入ってもらえたりしたときに
こころに満ちている透明なものが
外に溢れてしまうのです

和製ヴァンパイア/松井江

彼去りしあとに
椿落つ
麗人のごと寄りがたき雪に
白く靴跡くっきりと
その陰影明らかな足跡に
椿落つ

香りはない

空気は銀

あるいは硝子
鋭き空へ血のように赤い頭をのらりともたげる
その下を彼はゆく
はた、
その後ろ姿に、椿は落ちる

異国では
ヴァンパイアが薔薇の精気を食らうという
この国ではきっと椿
彼去りしあとに椿は落ち、
音さえも雪に吸われ
彼の来し方は、椿の続く道
残酷を秘め
心惹かれてしまう冬の風景

千年椿/鶴丸国永

落ちぬ椿の美しさ
月光を受け凛々と

落ちぬ椿の恐ろしさ
雪に降られど冴え冴えと
千年椿、千年椿

首のごと落ちる不吉より
歳を取らない美人のように
あな薄ら寒く恐ろしい
椿冴え冴え
千年の雪原に立ちにけり

あの印象は彼、
人の歴史に投げる一瞥
優しく笑いその美しさを見せてくれても
当然私が死ぬ時
千年椿の視線を投げて、
棺には何も入れない

退屈/鶴丸国永

魂を失って
物質となった人を
焼いて
残ったものを
長い箸でつまんだ
情景のようだ
ごく繊細な力で拾えど
もとのかたちを留めておけず
解ける
白くほどける
ほろほろと
脆く崩れてゆく

心が死んでいく

しかしこうして見れば
俺の骨なども存外脆いものだな

こんな思いをするのが
俺でよかったが

誰も帰らない、
俺もいたみゆく本丸の
景色のひとつか

ああ、同じ音をさせて
同じ印象で

ほろほろ
ほろと

心の綻びがちかい

【短歌】振袖にそそぐ花びら狂おしく廃墟の春にひとり踊れる

死/鶴丸国永

新月の夜に
聞いてくれたから話そうか
喩えるならばそうだな

いうなればそれは墓石の丸み
生き物を眠らせる土の湿度
あるいは
風船が飛ばぬよう糸を握る子供の手の幼さ
人と別れた帰路でこぼれる、ひとかたまりのため息、安堵
冬 羊毛の毛布の甘い重み
まことの暗闇で雪のしんしんと降る
一箱を独り占めするチョコレートの融解
心中相手の無垢さ
閉園した遊園地のあやしい魅力
どこへも行けない回転木馬

朝の光に、もう少しと願う睡眠の誘惑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?