北欧の出生率の急激な減少は社会経済的地位の低いグループがけん引か?
こんにちは、少子化研究者の茂木良平です。南デンマーク大学というところで、少子化を専門に研究しています。
先週は、北欧5か国の出生率が大幅に減少していることを紹介し、それが何を意味しそうか、ということを提案しました。👇
北欧はこれまで先進国の中でも比較的高い出生率を維持し、またジェンダー平等度合いが高く、社会福祉制度が整っていることから、「北欧モデル」と他の先進国の手本のように扱われてきました。それが北欧の出生率は2010年ころから急激に減少をはじめ、2022年には北欧の5か国の出生率が1.6を切り、中でもフィンランドの出生率は1.32と日本の出生率1.3(2021年)に迫っています。
今回の記事では、こうした急激な北欧の出生率の減少がどの集団、また要因によって起きているのか、について研究知見をまとめていきます。
子供のいない人の増加や第一子出生率の減少が主な要因
北欧の出生を分析した複数の研究は、子供のいない人(無子と呼びます)の増加や第一子出生率の減少が2010年以降の出生率の主な要因であることを報告しています(Hellstrand et al. 2020, 2021, 2022; Jalovaara et al. 2021; Ohlsson-Wijk and Andersson 2022)。
第一子出生率の減少は、カップル間の第一子出生率が減っているからなのか、それともカップル自体が減っているからなのかが考えられます。
特に出生率の低下の激しいフィンランドでは、出生率低下の3/4はカップルの出生の低下によって起きており、残りの1/4がカップル形成に関する要因のようです(Hellstrand et al. 2022)。
低い社会経済的地位の集団が子供を持つ困難か価値観の変化か
次にどういった特徴の人口グループが無子になりやすくなっているのでしょうか?
図2はJalovaara et al. (2021)がフィンランドのレジスターデータを使って算出した女性の40歳時点の無子人口割合です。線の色が学歴別の無子割合を示し、それぞれ、グレー線(全体)、赤線(低学歴)、青線(中程度の学歴)、黒線(高学歴)となっています。
無子割合は、1940~1954年生まれの女性において、高学歴のグループで多かったですが、1955年~1959年生まれから反対に低学歴グループで高くなっていることがわかります。低学歴グループの無子割合は増加を続け、1975~1978年生まれの25%以上の低学歴の女性は40歳時点で無子となっています。
同様に、第一子出生率の減少がどの学歴グループで特に顕著かを分析したところ、特に低学歴グループで大きく減少していることが報告されています(Hellstrand et al. 2022; Jalovaara et al. 2021)。
また社会経済的地位を測る他の要素(例えば年収)で見ても、社会経済的地位の低いグループで第一子出生確率が他のグループに比べてより低くなっていることが示されています(Ohlsson-Wijk and Andersson 2022)。
まとめ
2010年ころからみられる北欧の出生率の急激な減少は、以下の要素が重要だと先行研究から明らかになっています。
無子人口の増加あるいは第一子出生率の減少
カップルの第一子出生率の低下
低学歴や低収入、あるいは非就業の人など社会経済的地位が低いグループで特に、無子人口割合の増加や第一子出生率の低下がみられる
【追記(2023年6月18日)】
みなさんがこの記事をシェアしてくださったおかげで、ABEMAヒルズに取り上げていただきました。
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以下図1に使ったRコードです~
library(tidyverse)
library(openxlsx)
library(gghighlight)
Mycol <- c("#08306B", "#238B45", "#FD8D3C", "#D4B9DA", "#FFEDA0")
# read the data
# data is from Human Fertility Database. Accessed on 25/05/2023
# please download by yourself
childless %>%
as.data.frame() %>%
rename(cohort = COUNTRY) %>%
gather(key = country, value = childless, -cohort) %>%
mutate(childless = as.numeric(as.character(childless)),
childless = ifelse(childless == 0, NA_real_, childless),
cohort = as.numeric(as.character(cohort))) %>%
filter(country %in% c("Denmark", "Finland", "Norway", "Sweden")) %>%
mutate(country = case_when(country == "Sweden" ~ "スウェーデン",
country == "Denmark" ~ "デンマーク",
country == "Finland" ~ "フィンランド",
country == "Norway" ~ "ノルウェー",
T ~ "日本")) %>%
ggplot(aes(x = cohort, y = childless)) +
facet_wrap(~ country) +
geom_line(aes(colour = country), size = 1.2) +
gghighlight(use_direct_label = F) +
xlim(1950, 1980) +
labs(x = "出生年", y = "44歳以上の女性における無子割合",
caption = "データソース:Human Fertility Database. 作成者:茂木良平") +
theme_minimal(base_family = "HiraKakuPro-W3") +
theme(legend.title = element_blank(),
legend.position = "none",
strip.text.x = element_text(size = 12),
axis.text = element_text(size = 12),
axis.title = element_text(size = 15))
ggsave("out/nordic-childless.png", width = 8, height = 6, bg = "white")
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