見出し画像

北欧5か国の出生率が大幅に減少しています

北欧5か国(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)の合計特殊出生率が減少しており、2022年には1.6を切りました。この北欧の出生率の減少が何を意味するか、ということをツイートし、たくさんの方から反応をいただきました。


日本でも「異次元の少子化対策」が宣言されたことで、少子化への注目が上がってるっぽいですね。これを追い風に、これからドンドン人口学の重要性や知見をお伝えできたらと思います。こういう情報が知りたい、解説してほしいなどありましたら、お気軽に連絡いただければ嬉しいです。

今回はこのツイートを基にもう少し詳しい解説をしていきます。

まず、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの合計特殊出生率の年次変化を日本と比較して見てみましょう。

図1:北欧4か国と日本の合計特殊出生率の年次推移(1960年から2022年)
データソース:Human Fertility Database、フィンランド2022年データはフィンランド統計局、ノルウェー2022年データはノルディック統計局

実線は国ごとの年次別合計特殊出生率を示し(色がついている線が対象国の年次別合計特殊出生率を示す。例えば紫は日本)、点線は人口置き換え水準を表します。人口置き換え水準とは人口が長期的に維持される出生率の水準を意味し、先進国では約2.1です。簡単に言ってしまえば合計特殊出生率が2.1以上だと人口が増加し、2.1を下回ると人口が減少する、つまり少子化と定義されます。

図1のどの国も1970年代前半ころまでには少子化になっていますが、日本の合計特殊出生率に比べて、いずれの年次も高い水準を維持しています。ですが、グラフからわかる通り、2010年ころからいずれの北欧国の合計特殊出生率も急激に減少しています。

2010年から2022年の合計特殊出生率の減少率はフィンランド(29.4%)、ノルウェー(27.5%)、スウェーデン(23.3%)、デンマーク(16.9%)です。上のツイートで私が引用している元のスイートによると、フィンランドの減少率はEUとEFTA国の中で最大の値なようです。

実際フィンランドの2022年の合計特殊出生率は1.32で、日本の1.3(2021年)に迫っています。日本は世界の中でも超低出生な国なので、フィンランドもその仲間入りをしてしまっています。下の図2は、超低出生国とカテゴリーされている日本・スペインとフィンランドの合計特殊出生率を比較したものです。フィンランドがいかに急にこの2国に追いついてしまっているかがわかると思います。

図2:日本、スペイン、フィンランドの年次別合計特殊出生率の推移(1960年から2022年)
データソース:図1参照

これまで社会保障が手厚く、ジェンダー平等度合いが高い「北欧」は出生率も高く人口学の研究でもメディアでも注目されてきました。が、北欧の捉え方に見直しが必要かもしれません。

では「北欧モデル」のどういう見直しが必要でしょうか。

1.ジェンダー平等度合いと出生率の関係はU字型を描く、という理論枠組みの見直し

このU字型論はEsping-Andersen & Billari (2015)によって提示され、学内では結構引用されてます。

図3はEsping-Andersen & Billari (2015)の図1を転載したものです。x軸はジェンダー平等度合い、y軸は合計特殊出生率を表してます。A時点は、ジェンダー平等度合いが低く、伝統的な男性稼ぎ手モデルの時代を指し、この時出生率は高いことが予想されます。B時点は、女性の高学歴化・雇用の増大が進むが未だ社会がこのモデルに適応できず、少子化が進む。そして最後のC地点は、さらにジェンダー平等度合いが進み、社会もこうした変化に適応し、出生率が増加する。これは一か国の歴史的な変化を想定しています。かなりはしょっていますが、これが彼らのジェンダー平等と出生率のU字型論です。

図3:ジェンダー平等度合いと合計特殊出生率のU字型論
出典:Esping-Andersen & Billari (2015)の図1

しかし、ジェンダー平等度合いは高く維持したまま、図1で見たように出生率だけガクンと低下していることを考えると、このU字型モデルの妥当性は低いでしょう。このような簡単な推論ではなく、しっかりデータを用いてU字型論の妥当性を否定している論文もあるので興味ある方はご覧になってください。

2.ジェンダー平等を少子化の文脈で語ることの見直し

上で見たU字型論などにより、ジェンダー平等度合いが高い国ほど出生率が高いと提示されたため、「少子化を改善するために」ジェンダー平等を上げよう、というストーリーが横行しているように思います。しかし、ジェンダー平等の改善はそれ自体として重要であり、少子化の改善のために必要なわけではありません。

ジェンダー平等度合いの高い北欧の出生率の減少は、なんでも少子化改善に結びつけて議論してしまう間違ったストーリーに疑問を持ついい機会かもしれません。

次の記事では北欧の出生率が減少している要因について書きたいと思います!ご期待ください!

以下、図の作成に使ったコードを載せておきます。より良いコードの書き方あったら教えてくださ~い

library(tidyverse)
library(openxlsx)
library(readxl)
library(gghighlight)
Mycol <- c("#08306B", "#238B45", "#FD8D3C", "#D4B9DA", "#FFEDA0")


# read the data
# basic data is from Human Fertility Database
# 2022 data is from Finland Statistics Office, Nordic Statistics Office
# please download data by yourself and store it to an object named "tfr"

# clean data
tfr <- tfr %>% 
  as.data.frame() %>% 
  rename(year = COUNTRY) %>% 
  gather(key = country, value = tfr, -year) %>% 
  mutate(tfr = as.numeric(as.character(tfr)),
         tfr = ifelse(tfr == 0, NA, tfr),
         year = as.numeric(as.character(year)))

# make Figure 1
tfr %>% 
  filter(country %in% c("Sweden", "Denmark", "Finland", "Norway", "Japan")) %>%
  mutate(country = case_when(country == "Sweden" ~ "スウェーデン",
                             country == "Denmark" ~ "デンマーク",
                             country == "Finland" ~ "フィンランド",
                             country == "Norway" ~ "ノルウェー",
                             T ~ "日本")) %>% 
  ggplot(aes(x = year, y = tfr)) +
  facet_wrap(~ country) +
  geom_hline(yintercept = 2.08, linetype = "dashed") +
  geom_line(aes(colour = country), size = 1.2) +
  gghighlight(use_direct_label = F) +
  labs(x = "年次", y = "合計特殊出生率") +
  theme_minimal(base_family = "HiraKakuPro-W3") +
  theme(legend.title = element_blank(),
        legend.position = "none",
        axis.text = element_text(size = 12),
        axis.title = element_text(size = 15))
ggsave("note/out/nordic-tfr.png", width = 8, height = 6, bg = "white")

# compare Finland with Japan and Spain
tfr %>% 
  filter(country %in% c("Finland", "Spain", "Japan")) %>%
  mutate(country = case_when(country == "Finland" ~ "フィンランド",
                             country == "Spain" ~ "スペイン",
                             T ~ "日本")) %>% 
  ggplot(aes(x = year, y = tfr, colour = country)) +
  geom_line(size = 1.2) +
  gghighlight(use_direct_label = F) +
  scale_colour_manual(values = Mycol[1:3]) +
  labs(x = "年次", y = "合計特殊出生率") +
  theme_minimal(base_family = "HiraKakuPro-W3") +
  theme(legend.title = element_blank(),
        legend.position = c(0.8, 0.8),
        axis.text = element_text(size = 12),
        axis.title = element_text(size = 15))
ggsave("note/out/fin-esp-jpn-tfr.png", width = 7.5, height = 6, bg = "white")


# check how much TFR is decreased between 2010 and 2022
tfr %>% 
  filter(country %in% c("Sweden", "Denmark", "Finland", "Norway"),
         year %in% c(2010, 2015, 2020, 2022)) %>% 
  spread(key = year, value = tfr) %>% 
  mutate(diff_1022 = round(100 - (`2022` / `2010`) * 100, 1))



サポートしていただいたお金は、研究費に使わせていただきます!