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電子書籍『ルーウィン』あとがき

8月13日に、Amazon Kindleストアで短編小説『ルーウィン』を出版しました。

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舞台や構想、モデルについて

『ルーウィン』は元々、現在執筆中の、英国コーンウォール州ファルマスを舞台にした旅行記風小説『僕のファルマス滞在記』のスピンオフとして書き始めたものでした。実は、『僕のファルマス滞在記』に取り掛かる際に長編執筆のブランクが8年もあったため、何かリハビリが必要だったのです。ちょうどその時に実在のフォーク歌手Dave van Ronkを題材にした『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』という映画を観ていて、そこからインスピレーションを得る形で『ルーウィン』の構想を練ることにしました。作品に登場する猫の名前「ルーウィン」も、映画の主人公からとっています。ウェールズ語(映画主人公のルーウィン・デイヴィスはウェールズ系)で「ライオン」という意味だそうです。

ルーウィンのモデル猫は、数年前に近所の団地で飼われていた地域猫の「さばちゃん」です。真ん丸いとても味のあるお顔をした、巨大なサバトラの猫ちゃんでした。とても人懐こく、通りがかりの私のこともすぐに覚えてくれ、よく膝に乗っては喉を鳴らしていたものでした。性格も優しいので、ルーウィンのように主人公を裏切ることもないと……思います。

小説のメッセージについて

日常のはかなさ

執筆当初考えていたメッセージは、「普段当たり前と考えられている日常のあれこれが、いつまでも陰りなく続くとは限らない」でした。きっかけこそその都度違うけれど(災害やすれ違いなど)、当たり前のようにそこにあったものが突然姿を消したり、順調に交流をしていたはずの人がふっと音信不通になったり、ちょっとした弾みで物事の流れが狂い、別れが来ることは少なくありません。だからこそ、ありきたりなメッセージかもしれないのですが、身の回りの人や物に対してもっと丁寧に接しなければいけないのだな、と思っています。実際に物語を読んだ方からも「日常が安定している、かと思うとそうではないと気づかされた」とご感想をいただけました。


内向性思考の分析

もう一つのストーリーとして、内向的な人(introvert)の思考の分析がありました。実は本作の表紙画担当の方が精神科医をされているのですが、その方からこんな分析をいただいています。

「内向的な人、または社会不安を抱える人はよく、自分は誰とも関わることができていないのではないか、好かれていないのではと思いながら人生を過ごす。物語の主人公も猫の行動をそのように解釈していて、まずは猫に気に入られていないのではないかと推測し、徐々に愛情とつながりを築くものの、最後には猫がただ単に別の人の膝に座っていたというだけで裏切られたと結論付けたのだ」


確かに、ルーウィン自身も主人公を嫌ったからお婆さんに甘えにいったわけではありません。その日はたまたまタイミングが悪かっただけでしょう。しかし、主人公はそれを曲解してショックを受けます。さらに、お婆さんとルーウィンとを遠くから見つめながら勝手に敗北感を覚えて帰ってしまいます。もしそこでおばあさんに挨拶でもしていたら、何かが変わっていたのかもしれないのに。結局、翌日になって浜辺に出てきたら、いつも彼を出迎えてくれたルーウィンの姿が見えなくなっていて、二度と会えないまま滞在先から帰国することになる、というすれ違いです。

ところで、「そこで何か行動をしていたら、現実が変わっていたかもしれないのに」を本文中に入れようとも考えたのですが、悩んだ結果、最終的には含めないという選択をしました。「同じ状況に置かれたときに自分だったらどうするか」という部分について、読者の皆様に判断していただく余地を置きたかったからです。そして、その答えは『ルーウィン』を読んでくださる人の数だけあるのではないかと思います。結局のところ、この主人公の行動に正解というものがあるわけではないのです。主人公がおばあさんとルーウィンとにアプローチをしていても、またはしていなくても、それはその行動をしたというだけで、そしてそれに応じて結果が変わってくるにすぎません。それで、「こう動くべき」と結論付けるよりはぼかしておこうと思いました。

以上が『ルーウィン』を読んでくださった方、またこれからお読みになる方に作者からお伝えしたいメッセージでした。現在もAmazon Kindleストアで販売中ですので、ご興味あればのぞいていただけるととても嬉しいです。


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