どうして、過労で自殺(自死)するのか。

過労でなぜ自殺(自死)するのか、ということを疑問に思われる方は多いのではないでしょうか。

死ぬくらいであれば、休めば良い、辞めれば良い、と。

もちろん、労働者には休む権利も、辞める権利も、法的に担保されています。ですが、その当たり前の選択肢が取れない、そこが、この問題の本質です。

通常、心身の過労状態が続くと、ストレス性ホルモンにさらされて、脳機能(厳密には脳の構造も)が低下してくる状態になります。一般的にはうつ状態に該当する状態となります。冒頭の記事では、6割となっていますが、これは、確認が取れた、ということであり、実際はほぼ全例が程度の差こそあれうつ状態に陥っているはずです。なお、「自殺」は氷山の一角です。10倍以上の方が、過労によるうつ状態で、休職・退職におちいっていると推測されます。

うつ状態になると、中長期的に物事をみることが出来なくなることが、実験心理学的にも確かめられています。

長い人生の中で、乗り越えてさえしまえば、そういうこともあった、というストレス状況でも、目の前の状況に、行き場がない、もう対処方法がない、と考えてしまうのです。1ヵ月後、半年後、1年後のことに思考が及びません。

そして、そのような状態になると、他者にも相談が出来なくなります。SOSを出せなくなることが多いです。もし、SOSが出ているようであれば、軽視しないことが大切です。

我々専門医は直接的に聞きます。

「死にたい、消えたい、と思っていませんか?」と。

この質問に躊躇する事はありません。風邪で熱が出ていないか、と聞くのと同じ事です。ですが、一般的には、このような問いかけをすることは、躊躇するでしょう。

ちなみに、「死にたいと思う事はあります」という方ですら、調子を問うと「だいじょうぶです」「かわりありません」と答えられる方が大多数です。

ですので、私達専門医は、本人の言のままに受け取らずに、状態をチェックするわけです。

話が幾分ずれましたが、過労からうつ状態に陥った場合、「相談する」「休む」「辞める」という通常の選択肢が、その方の選択肢に浮かんでこなくなります。また、そのような内面を周囲がキャッチすることは、オンラインでの仕事も増えてきた現在、困難でしょう。

したがって、一番重要なのは、過労によるうつ状態の発見ではなく、過労の予防なのです。

早期発見・早期治療は公衆衛生学における2次予防であり医療においては、極めて重要な考え方ですが、サポートの手からこぼれ落ちるケースをゼロにはできません。

より一歩踏み込んで、発症予防・健康増進するという1次予防に取り組むべきです。

やることは、シンプル。

過労を防ぐ、これに尽きると思います。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?