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彼女は「分かってる」

「分かってる」と言われ、本当に分かっているの?と、思う間は一瞬もないままに、彼女の表情を見て、ああ本当に分かってくれているんだと安心して、涙が出た。


とてもとても、
本当にとても悲しいことがあり、
それを吐露していた時、
はじめ、彼女は微笑みながら話を聞いてくれていた。

そしてわたしが話し終えてから
「感じたことがあるんだけど、言ってもいい?」
と言われた。

「うん、お願い」
とわたしは答えた。

そうしたら、彼女は微笑みながら、穏やかな口調で、だけど芯の強さを表す発声で、
「あなたは偽善者ぶってると、私は感じる」
と言った。


驚いて、だけど、わたしは彼女が、そういう人だと知っている。

そういう、つまり、決して安易な思考をしなくて、他の人とはすこし異なる視点でものを捉え、予想だにしないことも堂々と明瞭に話す人だと知っている。

だからわたしは静かに、うん、と頷く。
「どういうところにそう感じたのか、教えて?」
と、冷静に耳を傾ける。


彼女の話を聞きながら、

彼女は単に、自分の感じたことを話してくれているだけで、それがすべて真実だというような言い方をしていないことを感じる。

わたしが自分の言葉に含めた思いに彼女が適切に距離を取り、言葉にし難いと感じている分の余白も残したままに、話してくれていることを感じる。


つらつらと、ハキハキと、淡々と、優しく微笑みながら話し終えた彼女は、最後の最後に声を震わせて
「私はあなたを見ていて、つらい」
と言った。

うん、とわたしは頷く。


「あなたは表には出していないけど、実は一番強く思っていることがあるのが、私には分かるから、つらい」

「あなた自身、それを自覚していて、あえて表に出していないことも分かるから、つらい」

「だけどいざ、あなたがその思いを表に出したところでそれは結局安っぽくて、すべては他の人には伝わらないことも分かるから、つらい」


うん、とわたしは頷く。

「全部、分かってる。私は分かってるから、あなたを見ていてつらい」
そう言う頃には、彼女は綺麗な笑みをぐしゃぐしゃに歪めて泣いていた。


わたしは確かに、彼女は分かってると感じる。

その力強さに、その言葉の節々に、その苦しそうな嗚咽に、その溢れる涙に、そのまっすぐな瞳に、彼女は本当に分かってると感じる。

それがどのくらいか、ということを確かめる必要はなくて、わたしには、分かってくれている人がいる、というその事実だけで、救われる思いがする。

彼女がいてよかったと思う。
わたしから溢れる涙も、あたたかい。

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