見出し画像

人生で唯一不良に感心した話

どちらかといわずとも、僕は優等生の部類に入ると思う。
基本的に品行方正だったし、中学までは成績も優秀だった(高校以降は聞かないで・・・)。
学生時代にした悪さといったら、遊戯王カードを学校に持ち込んだことくらいだろう。

地元にはガラの悪い連中がゴロゴロいた。
学級崩壊を起こした奴、10代前半でタバコに手を出した奴、転校生を初日からイジり倒して転校2日目から不登校にさせた奴、僕の『死者蘇生』(スーパーレア)のカードをパクった奴、僕に悶絶するほど強烈なカンチョーをお見舞いした奴。あれは痛かったぞー!

勉強のできた僕とは反対に、彼ら彼女らはあまりオツムがよくなかった。それもあって、僕がいじめのターゲットになっていたとも考えられる。

とにかく、野蛮で凶悪な人たちは、僕のようなガリヒョロ陰険ムッツリ小僧にとっては天敵でしかなかった。動物でたとえるなら、ハイエナと生まれたての仔鹿みたいな関係だ。


不良たちがうじゃうじゃ生息する中学校にいたわけだが、たった一つだけ感心した出来事があった。

中学1年のときだったか。その日もいつものように帰りのホームルームが始まった。
しかし、担任の先生はいつになく難しい顔をしている。また誰かが何かをやらかしたんだな、と思った。先生から聞かされたのは、案の定バッドニュースだった。


「学校のトイレで問題を起こした者がいる」


学校のトイレはあまり好きではなかった。なんとなく公衆トイレに抵抗のあった僕は、下校するまでほとんど用を足さない。そのため、帰宅後は開口一番「しょんべん!」と叫びながら、自宅のトイレに直行していた。

掃除当番くらいでしかトイレに入らない僕は、学校のトイレで何か問題が起こったとて特段困らない。先生からの報告も、我関せずを決め込んでいた。

しかし、報告の続きを聞いて、僕は前言を撤回することになる。


「トイレットペーパーを使ってスパイダーマンごっこをしていたとのことだ。学校の備品であるトイレットペーパーをそんな風に使わないように」


スパイダーマン。そう、あの赤と青のド派手なピッチピチのタイツをまとったアイツである。

当時、映画『スパイダーマン』(サム・ライミ作品)が公開されたばかりで、僕も夢中になったものだ。
超人的な肉体と運動神経に加えて、クモならではの特殊能力を持つアメコミヒーロー。そんな彼に憧れを抱いていたのは、僕だけではないだろう。

この4年後には高校の修学旅行でUSJに行き、出来立てほやほやのスパイダーマンのアトラクションを楽しむことになろうとは、夢にも思っていなかっただろう。今年1月に運営終了となったのが残念でたまらない。


話を戻そう。

報告によると、どこぞの不良生徒がトイレットペーパーで遊んでいたとのこと。

トイレットペーパーを手に持ち、紙の先端を握ったまま本体(芯)を射出する。すると本体は、シュルシュルと紙を伸ばしながら宙を走っていく。その姿は、手首から糸を放つスパイダーマンそのものだ。


「考えた奴、天才か?」


僕は膝を打った。誰もがスパイダーマンの特殊能力に憧れたあの頃、こんな単純な仕組みでスパイダーマンになりきることができるなんて!その手があったか、と僕は非常に感心した。

先生は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、僕は天才的発想に目を輝かせていたと思う。


不良といっても、それは学校というルールの上での話であって、根っからの極悪人などいない。

むしろ、柔軟な発想で物事を楽しむことのできる、ある意味で聡明な人も多いだろう。

この『トイレでスパイダーマンごっこ事件』は、優等生ばかりが頭のいい人間というわけではないことを知った、中学時代で最高の珍事件だった。


なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?