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プライドってのは…腹のたしになるのかい?

大学生の頃の僕は、それはそれは貧乏だった。

ある時は、友人の家に転がり込んで食事を提供してもらう。

ある時は、通帳の残高がきっかり1円。

ある時は、寮の冷蔵庫に唯一残っていたキャベツ半玉を切って炒めて塩を振って食べていたら、同じフロアの後輩に「え、キャベツだけっすか!? 」と驚愕される。

仕送りはほぼなし。バイトはしていたがせいぜい月4万円くらいだったので、常にひもじい思いをしていた。
賄いのカレーが命綱だったといっても過言ではない。

今なら当時よりも上手くやりくりできるのかもしれないが、食欲も物欲も遊びたい欲も真っ盛りだったハタチ前後。ものすごい勢いでお金が飛んでいくのは必至である。

最大の敵は単位でも卒論でもリア充でもない、飢えだった。


そんな貧乏学生に恵みが与えられたのは、大学4年の秋だった。

僕の専攻は動物生態学というやつだ。簡単に説明すると、“野生動物やそれらを取り巻く自然環境が人間社会にどのように影響しているか”を研究するものになる。

当時は(今もだが)シカの農業被害が深刻で、それを解決するための糸口として、シカの有無によって植生や土壌動物がどう変化しているのかなどを調査していた。

そのためフィールドワークも多く、朝から片道2時間かけて調査地へ赴き、日が暮れる頃に戻ってくるという生活がしばらく続いていた。
ちなみにそのときの昼食は、だいたいセブンイレブンの豚しゃぶラーメンサラダとツナマヨおにぎりだったと思う。当時は合計で500円しなかったなぁ(遠い目)。

その日もすっかり暗くなってから研究室へ戻ってきた。もつ鍋の最後の方のキャベツくらいクッタクタになっていた僕は、当然腹ペコである。バイトのない日は夕食代の工面もままならない。

ところが、研究室の自席に着くと、そこはいつもと様子が違った。

サツマイモだ。机の上にサツマイモがでーんと乗っている。サツマイモ・オン・マイデスク。

なぜこんなところにサツマイモが?もしや、僕があまりにも不甲斐ないばかりに、知らぬ間に除籍となっていたのだろうか。そしてサツ・マイモさんが所属となり、僕が使っていたこのデスクを使用することになったのだろうか。そんなぁ、あんまりじゃないですか先生!

違った。後から入ってきた隣の席のナオコ姐さん(仮名)が、イタズラっぽい笑みを浮かべて僕に説明してくれた。


「アルロンくん、いつも食べる物に困ってるから、恵んであげようと思ってな」


ね、姐さん・・・!!!

同期だが年上のナオコ姐さん。はんなりとした大阪弁が心地よく、癒しキャラとして密かに定着していた。そんな彼女からのささやかな贈り物は、この上なく嬉しかった。

ありがてぇ、ありがてぇよ姐さん。
ところで、なぜサツマイモ?


「それなぁ、ネズミの餌に使うはずやったんやけど、1個余ってん。せやからアルロンくんにあげるわぁ」


ナオコ姐さんはネズミの研究をしていたので、サツマイモにハチミツを混ぜ込んだネズミ用の餌を作っていた。

なるほど、僕がもらったのはネズミのおこぼれというわけか。


・・・


そんなの関係ねぇ!


ネズミのおこぼれだろうがなんだろうが、サツマイモはサツマイモだ。僕にとっちゃあ、貴重な食料であることに変わりはない。
そこにプライドなど皆無である。プライドなんか関係ねぇ。意地なんか関係ねぇ。はい、オッパッピー。

ナオコ姐さんに全力でお礼を言い、僕はすぐに帰宅した。そして、サツマイモを調理し(確か千切りにしてスープに入れた)、美味しくいただいたのだった。

生きるために必要なのはプライドではない。
サツマイモだ。

なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?