見出し画像

雨が降っても大丈夫な折りたたみ傘を、お餞別に。

朝起きると、友達から連絡あり。「留学に行く友達にお餞別を贈りたいけれど、何が良いと思う?」と。

今年の1月、留学のために日本を離れて8ヶ月。お餞別に友達からもらって嬉しかったものを挙げればきりがない。

中高6年間同じ部活の後輩からもらった、パイロットのボールペン。いつもお守り代わりにかばんに忍ばせている。大学の期末試験の問題用紙など、重要な場面ではいつも、彼にもらったボールペンを使うようにしている。

高校1年生の最初の日に、教室で机が隣同士だったことをきっかけに仲良くなった親友からもらった、ミッフィーのマグカップ。ステンレス製なので持ち運びで割れる心配もないし、机に置きっぱなしでも中身が冷めないので、生活にとても役立っている。スープボールを買うのがめんどくさくて、スープを飲むのにも使っているのは、彼には内緒である。

スタバでバイトしているイケメンな友達にもらったハンドクリーム。日本と違って留学先が乾燥しているのを知っていたのだろうか、到着してすぐに手にささくれができてしまい、ハンドクリームがあってとても助かった。しかし、ハンドクリームのように使っていくうちに消えていく物は、なんだか使うのがちょっと惜しい気もしてしまい、結局スーパーで薬用のハンドクリームも買って、併用するようにしている。これも、本人には内緒である。

「コーヒーを飲んで美味しい物を食べる」という共通の生きがいを持っている友達からもらったイヤーカフ。彼も同じイヤーカフを持っていた。しかし、プレゼントしてくれた日に僕の目の前で、彼が自分のやつを耳につけようとしたら、見事に粉砕してしまった。その6ヶ月後、僕が当時ちょっとだけ気になっていた友達と一緒に地下鉄に乗っていたとき、「そのイヤーカフ、いいね。」と言ってくれて、彼女に見せようと外した瞬間、僕も粉砕してしまった。結局その子とは色々あって、色々あったので、僕のかわりにイヤーカフがいやーな想い出を吸収して、身を持って粉砕してくれたのだと思うことにした。お守りに、今は粉砕した状態で、財布の小銭入れに入れてある。

バスケ大好きの義理堅い友達からもらった名刺入れ。名刺入れは、名刺があってはじめて役に立つものだが、別の友達がカジュアルな名刺をデザインして、友達ができるようにとプレゼントしてくれた。留学先に到着して早々、20歳以上しか入場できないパーティーに間違って入ってしまったとき、せめて友達だけでもつくってから脱出しようと、会場のなかで名刺を渡したときに大活躍だった。

*******

他にも、たくさんの友人からいろいろなお餞別をもらった。どれもおなじぐらい、とっても嬉しい。しかし、その中で唯一、衝撃的だったのが、折りたたみ傘だった。緑と青のチェック柄の、シンプルなデザイン。リュックの脇にあるポケットにスッと入る、コンパクトな形状。しかし一度拡げると、どんなに激しい天気でも耐えられる頑丈なつくりになっている。

もらったときに、度肝を抜かれた。驚きとともに、実はこの折りたたみ傘は、留学先で非常に活躍するのではないかという想像もできた。日本と違って、傘立てに傘を指すと盗まれるかもしれない。さらに、慣れない海外で、雨の日に長い傘を持って歩くのは、気持ちが滅入る。雨の時点ですでにちょっと滅入っているのに。

折りたたみ傘を持っていると、途中で急に雨が降っても心配ない。朝起きて、夕方から雨の予報があれば、リュックの脇に忍ばせればOK。「雨が降ったら、あとは僕にまかせて。」と、傘が背中を押してくれているようにすら感じる。僕も、「雨が降れば、お餞別にもらったあの傘をさせる」と、前向きな気持ちで一日をスタートできる。

*******

連絡をくれた友達にも、「折りたたみ傘がいいんじゃないか」と返信をした。それから、シャワーを浴びて、ミッフィーのコップで水を一杯飲み、ハンドクリームを塗って、パイロットのボールペンと、壊れたイヤーカフが入った財布と、名刺入れをリュックに入れて、授業へ向かう。

教室にむかって歩いているとき、「雨が降っても大丈夫な折りたたみ傘」は、僕がもらったすべてのお餞別のことを指しているのかもしれないと気づいた。大学の期末試験でも緊張しないような、パイロットのボールペン。スープボールを買うのがめんどくさくても温かい飲み物を飲めるような、ミッフィーのマグカップ。留学先が乾燥していても大丈夫なような、ハンドクリーム。ちょっとだけ片思いしてた友達と事故っても大丈夫なような、イヤーカフ。20歳以上しか入れないパーティーに間違って入っても、友達ができるような名刺と名刺入れ。僕にお餞別をくれた友達はみんな、それそれが思う「雨が降っても大丈夫な折りたたみ傘」をプレゼントしてくれたのかもしれない。

新しい世界へ旅立つときは必ず、予想もしない出来事が起きるのではないかという不安がつきものである。それでも、そういう出来事が起こっても大丈夫だよと、そっと背中を押してくれるお餞別を、たくさんのひとにもらえて、僕はとても幸せ者である。

連絡をくれた友達は、「雨が降っても大丈夫な折りたたみ傘」に、なにを選ぶのだろうか。僕も、お餞別をくれた友達に、帰国したときに渡せるお返しを、今から考え始めようとおもう。

今日は晴れているので、折りたたみ傘の出番はなさそうだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?