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怪奇数奇譚(其の肆)ー僕と天気決定士ー
明日は、雨になるだろうな。
開けた窓から流れる湿っぽい空気を感じながら、僕は夜空を眺めた。
ぼんやりと星が見えるが、雲が空を隠している。
夜空から、一本の糸が垂れてきた。
よく見ると白い物がぶら下がっている。
紙コップだ。
僕は背伸びして、それを手に取った。
「もしもし、聞こえますか?」
紙コップを耳に当ててみた。
「はい、聞こえます。こちらは空の天気決定士です。」
「天気決定士?天気予報士じゃなくて?」
僕は驚いた。
まず、空から糸電話の紙コップと紐が降りてきたこと。
次に、「天気決定士」という人と話をしていること。
それから、あまりこの状況に怖がることもなく、僕は楽しんでいるということだ。
「もしもし。何か聞きたいことはありませんか?」
「え?…そうだな。天気決定士って何ですか?」
「天気を決めることができます。」
僕は、呆気に取られた。
「神様ですか?」
「いいえ、違います。」
「…。」
僕は、悩んだ。
何となく、早く何か言わないと、まるで夢であったかのように、僕の手から糸電話が消えてしまうと思った。
それでも、何を聞いたらいいのか思いつかなかった。
学校でも先生に何か聞こうとか、そんなことはあまり無い。
いざとなった時、例えばこんな人生に一度として会わないような状況になって、何か聞けるように日頃から何か聞くことを練習しておけば良かったと思った。
割と沈黙の時間が過ぎたと思ったが、僕の手から糸電話は消えていない。
「あのー…そしたら、明日の天気は何ですか?」
「明日は、雨です。」
思った通り、雨らしい。
すんなりとした答えに、緊張がほぐれた気がした。
「雨ですが、晴れにも出来ます。」
「晴れにですか?」
「曇りにも、雪にも、雹にも、嵐にも出来ます。」
「そんなに出来るんですか。」
僕は驚きもしたが、少し怖くなった。
そう言えばさっき、春の季節には珍しくホラー番組を観てしまったのだ。
実体が見えないものと話しているこの状況は、軽くホラーだと思う。
でも、ホラーだと思ったらホラーになりそうだから、ホラーと思わないように、なるべく明るい声で喋った。
「すごいですね。天気を操れるなんて、まるで漫画の世界みたい。」
「操るのではなく、決めることが出来るんです。天気決定士ですから。」
「そうですか。でも、明日が雨だと分かったのでもう大丈夫です。学校行く時、傘忘れないようにします。それじゃあ。」
少し早口で不自然だったかもしれないと思った。
ぷらん、と持っていた紙コップを宙に捨てて窓を閉めた。
カーテンも閉めた。
その日から、僕の窓には毎晩糸電話が垂れてくるようになった。
ああ、ミステリー。
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