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童話ー傘になった毛玉ー

夕暮れ時に道を歩いていると、黒い毛玉が道路の真ん中にあった。
避けて通ろうとすると、横に伸びて道を塞いだ。跨ごうとするとベビの様に足首に巻きついてきた。
どうやら置いていかないでほしいらしい。
僕はこの黒い毛玉がランドセルに入るか試してみたが、割と厚さがある様で教科書や筆箱の隙間には入らなかった。
手に持つと綿の様に軽く、風になびく毛は綿毛の様に飛んで行きそうだった。
試しに撫でてみるが、猫の様にゴロゴロと鳴くことはなかった。
「どこからきたの?」と聞いてみるが、黒い毛玉は人間の様に喋ることも動物の様に鳴くこともなかった。
急な雨が降り、慌てて黒い毛玉を抱えながら走ると、毛玉はあれよあれよと黒い傘の様な形に変わり、男の子を雨から守った。
「うわ!すごいね!」
男の子は喜んで傘を持ち、家に帰った。

「ただいまー」
家に着いた男の子は傘立てに傘を入れ、ランドセルを廊下に放り出し、キッチンに立っているお母さんに黒い毛玉のことを話した。
話してもお母さんにはちんぷんかんぷん。男の子はお母さんの手を引っ張って傘立てに置いた傘を指さしました。
「これだよ、お母さん。この子が道に落ちててね、拾って雨が降ったら傘になったんだ!」
「この黒い傘?•••それともこっちかしら?」
傘立てには日本の黒い傘がありました。男の子は急いで傘立てに入れたので、どちらが先ほどの毛玉なのか分かりません。
二つの傘を見比べると、色も形も少し汚れがついているところも全く同じでした。
「どっちだろう」
男の子は困りました。お母さんも、黒い傘が2つもあったかしらと首を捻ります。
「そうだ!」
男の子は何か閃いた様に靴を履き替えてドアノブを掴みました。
「お母さん、こうしたらきっとどっちがあの毛玉なのか分かるよ!」
男の子はドアを開けて外に出ようとしました。するとお母さんの右手に持っていた黒い傘が、うねうねと形を変えてふさふさと毛羽立っていきました。
黒い傘に化けていた黒い毛玉はもぞもぞと男の子の足元に行き、ぴったりとくっつきました。
「ほら、こっちがさっきの毛玉だよ!」
毛玉を撫でて喜んで言う男の子とは裏腹に、お母さんは大きな悲鳴を上げて、手に持っていた本物の傘を放り投げました。

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