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銀河哲道の夜(6)

民主党バイデン氏がアメリカ合衆国大統領に就任して、もうひと月半が経過したんだなぁと、花粉症に悩まされながら思う今日この頃。

コロナ禍での就任ということもあり、メディアは大きく騒がなかった気がするし、就任式自体も粛々と執り行なわれたようだったけど、個人的には、「バイデン大統領誕生!」よりも、「トランプ"元"大統領の落選!」として印象に残っている。

思い返せば4年前、トランプ氏がヒラリー候補を破って大統領に当選した時、それはもうお祭り騒ぎだった。右派系メディアから左派系のメディアまで、連日のニュースは彼の話題で持ちきり。

「メキシコとの国境に壁を作る!その金はメキシコに払わせる!haha!」

まじでぶっ飛んでる。

そう思ったのは、わたしだけじゃないだろう(多分みんなそう思ってたでしょう)。

そんなトランプ氏の印象としてあがってくるのは、傲慢、金の亡者、白人主義者などなど、当然だけど消極的なものばかり。

でも、仮にも選挙で選ばれた大統領なのだから、それなりの人々が支持していたこともまた事実で、今回民主党が勝利した大統領選でも、半数近くの投票者は、やっぱり共和党支持だ。(下図)

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こうして州ごとの支持層分布を眺めると一目瞭然だが、海側両サイドの都市部では民主党が、内陸部のカントリーサイドでは共和党が支持されやすい分布となっていて、トランプ氏が一概にアメリカ市民から嫌われていた、とはやはり言えないこともわかる。

個人的には、トランプ氏はカリスマ性があって株価とかの上昇にも寄与してくれたと思ってるから(ツイートひとつで乱高下するからブチ切れてた時がほとんどだけど)割と好んではいたんだけど、ある2つの事件をきっかけに、やっぱり彼は大統領としてはふさわしくなかったのかも、と思った。

その事件は、「BLM運動」と「議事堂占拠事件」

前者は黒人差別に対する反対運動、そして後者は、バイデン大統領の就任に反対する抗議運動だ。

BLM運動の発端は、ミネアポリスで起きた黒人男性の窒息死だった。男性が白人警察官に約8分に渡り首部分を足で押さえつけられ、窒息死したという事件で、「I can't breathe(息ができない)」と、彼が訴え続けたとされる言葉は、この事件に反発する標語として多くのメディアで取り上げられた。(調べてみると、この男性ジョージフロイドさん以前にも、2014年に同様の事件がアメリカでは起きており、その時最初に話題に登った標語らしい)

BLM運動は日本でも大きく報道され、中でもNHKが放送した内容の一部が、まさに黒人差別の象徴だとして話題になり、日本人の人種差別に対する意識の低さが露呈した事件として、個人的には記憶に新しい。

その数ヶ月後に起きたもう一つの大きな事件。それが、極端なトランプ支持層による議事堂占拠事件だ。

大統領選挙中、バイデン氏率いる民主党の勝利が確実として報道されると、トランプ陣営は、民主党が不正投票を行ったと主張し選挙のやり直しを訴えた。共和党陣営の主張は通らず、規定通り、米国議事堂でバイデン大統領の就任が確定されようとしていたその日、トランプ陣営の支持者が議事堂に大挙し、これを一時中断させた。

トランプ氏自らが煽動したとされる議事堂襲撃の一部始終は、それこそまだ記憶に新しく(この記事の記載時から遡ってまだ1ヵ月強)、アメリカ史上でも記録的な事件となった。

この一連の2つの事件は、奇しくも自分の、アメリカに根ざす人種差別問題への理解を深める契機になり、トランプ氏の景気回復の功績よりも彼のこの2つの事件への接し方の方が重大だと思った。

以下3つの動画は当時の様子をまとめたものだが、上2つはBBCのもので、一番下のやつはイギリスのThe Telegraphのもの。

これらの動画を観てどう感じるだろうか。BLM運動での警察行動と比較すると、議事堂襲撃事件での警察は、(彼らは法を犯しているにも関わらず)議事堂に押し入る人々に対して穏やかに対応しているようにみえる。(最後の動画を掲載したのはそれがわかりやすく対比されているから)

実に対照的な事件である。

この2つの事件をメディアで見た時、自分は、次の2つのことを思った。

ひとつ目は、「あぁ、アメリカの人種問題は、自分の想像している以上に深刻な問題なのだなぁ」ということ。そしてもうひとつは、「トランプってほんとに白人主義者だったんだなぁ」ってこと。

多くの人がそうであると思うが、日本では人種差別という事柄に対してあまり馴染みがない。日本にも様々な人種の人がいるが、誤解を恐れず言うならば、やはり「日本民族」がその大半を占めるからだろう。先述したBLMに対するNHKの放送内容の問題も、延いてはそれに起因するのかもしれない。

人種差別に直であった日本人も先述した理由からそんなに多くはいないだろうと思う。でも、現代の発達したメディアを通して、そうした差別の一端に出くわす機会が増えているのもまた事実で、自分もそういう動画に出くわしたことがある。

その動画は、リアルタイムの映像音声チャットツールで、白人男性が相手のアジア系の女性に対し、釣り目ジェスチャーをして笑いかけるという内容だだった。男性は、女性の不快感を察したのか、そのあと笑うのをやめて、次のように謝罪した(勿論英語)。

「ごめん。悪気はなかったんだ。中国人をみるとついやっちゃうんだ」

つり目ジェスチャーのような差別表現があるということも、実際にそれを行う人がいるということも、それが動画を通してであれ、自分にとっては初めてな経験だったこともあったのか、見ていてあまり気分のいいものではなかった。相手の女性に対して真摯に謝る彼の姿が、逆に「無意識にそういう表現をしている」ということをより証明していて、なんだか少し怖かった記憶もある。

それで、その時に思った。

これ、黒人差別問題って相当なものなんじゃないのか?って。

そのあと、結構この辺りの歴史や今の状況が気になって、色々と調べてみた結果、「差別を容認してる人を大統領に選んじゃだめだ」なって思った。
(差別の問題がよくわかる映画があるので、気になったら観てみてください。ブラック・クランズマンという題名です。)

確かにトランプって屈強なリーダーだったと思う。経済的に疲弊したアメリカ国民の多くにとって、自国第一主義を掲げ、Make America Greate Again! と訴え、民衆を力強く導く姿は、まさに救世主として映っただろう。(自分もその一人だった。)

でも、その救世主は「世界の」リーダーじゃなかった。もっと言えば、アメリカにあっても、彼は「多くの」ではなく、「一部の」国民にとってのリーダーであった点で、今回の落選は当然と言えば当然なのかもしれない。

当然。

そう思えるってことは、自分が、独裁的政治よりも、リベラルを好んでるってことで、更に言うと、そう思ってる人が世の中では多数派だよね、ってことが自分の中に前提としてあるってことなんだけど、その前提すら、割と脆弱性に満ちているような気がして、不安になった。

ともあれ(2つの事件がきっかけになったかどうかは不明だが)、今回の大統領選で「トランプが負けた」という事実は、少なからず、アメリカの民主制にはその前提がまだ生きているのだということを、自分に教えてくれたのだと思っている。

バイデン政権が始まり、今後、アメリカ、そして世界がどう変化していくのか、一民衆の一人として、これからも見届けて行きたいと今夜も勝手に思ったのだった。

参考
[1] ブラック・クランズマン (監督:スパイク・リー 2018)

[2] 欧州の雑誌とメディアhttps://www.brightasset.co.jp/images/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E3%81%AE%E6%96%B0%E8%81%9E%E9%9B%91%E8%AA%8C%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A22_2019.pdf
[3] I can't breathe
https://ja.wikipedia.org/wiki/I_can%27t_breathe
[4] 2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件https://ja.wikipedia.org/wiki/2021%E5%B9%B4%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E8%AD%B0%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E4%BA%8B%E5%A0%82%E8%A5%B2%E6%92%83%E4%BA%8B%E4%BB%B6




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