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『君たちはどう生きるか』視聴してきました

青鷺敵やったんかワレ。

1.
スタジオジブリの最新作、『君たちはどう生きるか』の感想をネタバレありで書いていきたいと思います。

監督自身が最後の映画だ、とか私自身もこの作品をどういう映画だと表現すればいいか分からない、というお話をされてるそうですが、
私としては元々映画などのエンタメを観に行くのに事前情報を入れていかないタイプなので
関係者の事前に公開されたインタビューとかには触れずに、標準的な感性を志して話していきたいと思います。





2.
まず総合的な感想を言うと「おもしろかった」これに尽きます。


次に驚いたのが、少年の心というか、青くさい感性を真人くんを通してすごく真に迫る感じで描いている事。

宮崎監督ももう引退する、とか長い映画は作れない、とか老いを匂わせる発言をここ数年しているようですが、
真人の中に入って内側から見てきたような、こんな若い心を描けるものなのか?というのがとても不思議な感覚です。


話の筋が綺麗に組み上がっておらず今何が起こっているのか追いにくい、という感想を他の方から出ているのを見かけますが
私はそこに子どもの心理世界を表現しようとしているのではと感じました。
これが計算されているのかされていないのか。(私の感想が的外れの可能性もありますが。)

俗っぽくまとめると「若々しいを通り越して子どもの心描いちゃってるってすげぇな」ってところでしょうか。




また、そんな事言いながら内容に関しては普通の冒険映画といった総合評価です。
「おしいれのぼうけん」とかあの辺りと近いジャンルの。小学校中学年から、中学年辺りまでの子がこの映画を観たらブッ刺さるでしょう。

逆に大人が観たら意味のわからないのではという感じもありましたね。
ジブリ作品という事で大人は深いメッセージを感じ取ろうとしすぎてしまいますから。

これは夏休みに子どもが観る冒険映画だ、と思って頭を真っ白にして座ってるといいんじゃないかと思います。

自分が魔法の才能を持った家系に生まれた人間で、先祖が魔法で作った人造世界の神でその後継者として見込まれたのに
その人造世界の冒険中に成長したおかげで玉座を捨てて現実世界に帰る選択をする、という構成の作品なんだと考えたら嫌いな男の子はいないんじゃないでしょうか?

マイナス要素もあります。それは千と千尋と構成が同じだという事ですよね。
そして前半はなんだか火垂るの墓っぽいのに途中から急にハウルとかラピュタな洋風の雰囲気になる継ぎ目もキレイじゃない。
前振りが長くて主人公が男の子になった千と千尋です。
ただ、おもしろい子供の異世界冒険ものとしては千と千尋が完全解答という事なだけなのかもしれません。



3.
ここからストーリーの時系列順に気になった部分を描いていこうかと思いますが、
そういえば初見で序盤から結構気になったのが、冒頭の火事のシーンで真人の疾走感が幻覚的に描かれていたり
お屋敷の手伝いのおばあちゃん達がかなりデフォルメ利かされて描かれていたり、真人が自分の頭を石で殴った時の出血量がやたら多かったりオーバーめな演出が出てるのが気になりましたね。

私はこの辺の描写を見て、これは子供の脳内主観を強く意識して描いた映像作品なんじゃない?とか思ったんですが
途中からファンタジーになったんで別に関係なかったようですね。

ちなみに真人が自分で自分を殴ったシーンの意図が分からない、という話をネットで散見しますが、これは私はすぐに分かりました。
軍需工場の工場長(社長?)であるお父さんをケンカに介入させるためですが、
子供の頃に瞬間的な思い付きで無策な行動をしたりとかした事がない人には分からなかったのかもしれません。その後本当にケガのせいで寝込んでるし。
特に創作作品では「いい育ちの子」なのに
「策略で」「自傷して」「ケガが酷いせいで本当に寝込む」というようなキャラクターが散らかった行動をしませんから。

やはり君生きは男の子向けの千と千尋なのかもしれません。


次に見た人みんなが混乱したシーンを上げるとすると「アオサギの羽で作った矢がホーミングする」でしょうか。
ここはもう『考えるな。感Don't shink , feel.じろ』です。

強いて説明するなら、宮崎監督の作品といえば特に宗教性に寄らない自然魔法の表現をよく使われるので、
敵の体の一部で作った武器は必ずその敵に当たる、という感染呪術の原理なのでしょうか?
矢が当たったあと七番目の風切り羽とかなんとか説明がありましたが、よく聞こえなかったので私もよく分かりません。
真人の魔法の才能を表したシーンだったのかもしれません。


この後は地獄(?大叔父の人造世界?)に行く訳ですが、
考えれば考えるほど分からない所だらけなので考えるな、感じろでいきましょう。
若キリコと仕事をして魚を捌くシーンは千と千尋と同じなのでそんなに語るべき所はないですが、
ここで注目したいのは死にかけのペリカンと出会うシーンでしょう。

我々も人間なんで弱そうなものとか小さいもの、見た目がかわいいものに手を差し伸べがちですが、捕食者も大きな自然の流れの一部なんだと気づくいい場面です。

この前にヒミが炎アタックを使ってペリカンを撃退してる所で白いやつにも炎が当たって真人が叫んでる場面があったんで、この解釈でいいんじゃないでしょうか。
一連の流れは世界の大きなルールであり、炎に当たって産まれられなかった白いのや、捕食に失敗して死にかけているペリカンなどがいても
「白いの全体」は次に産まれる命という自分たちの役割を果たしている訳だし、「捕食者ペリカン」もペリカンという総体は生かされている訳だから問題がない。
世界のルールは個を生かす事なんかに頓着はない訳です。ここに「お前はどう生きるのか」という話があるとみるべきでしょう。


ここからお義母かあさんを助けに行く話になりますが、ここからはかなり話を巻いてる感が強かったです。
前半と違って印象に残る、観た後でもちゃんと思い出せるシーンが少ない気がしますし、なんか西洋絵画みたいな背景の中を進んでいくなーとか、インコ大王の動きが面白かった事くらいしか思い出せません。
確か真人が地獄世界に行くまで一時間くらい現実のほうの話をやっていたと思うので、やっぱり尺のせいで詰め詰めになっていたのではないでしょうか。

大叔父が真人にした話もだいぶ抽象的で難しい気がします。地獄世界の管理を託したいという事なのでしょうが、この世界のルールと大叔父の話の難解さでやはり見た人みんなに難しい、と感じさせているのではないでしょうか。
これに対する真人の返事も自傷に引っ掛けたものになって、特に上のほうでも話した「真人が自分の頭を石で殴った理由が分からな」ければ
「おぉっ、ここで序盤の意図が分からないシーンが生きてくるのか!……それで、どういう事?」と
自分で頭を殴ったシーンの解答と大叔父の難しい話の読み解きを同時進行でやる羽目になるので完全に混乱してしまう訳です。
ここも
大叔父「完璧に美しい理想世界の神様になってくれ」これに対し  真人「そんな世界はない」 と、
苦労して冒険してきた最後に得た財宝を、もっと大事なもののために捨ててしまう、というシンプルな話とみるのがいいんじゃないでしょうか。




4.
話の全体を把握しようとなると、これは真人の成長譚になる訳ですが、真人の心理的成長のためのターニングポイントを観ながら見つけていけなければだいぶしんどいのかもしれません。
この記事を書いてる現在でもパンフレットなども出ておらず、事前情報なしで全員観なければならない訳です。
しかも真人は「アシタカ顔」でジブリ主人公フェイスをしているので、いつものパターンでいえば成長譚とは気づきにくい。(千尋は最初結構だらしない顔をしていました)

この中で私自身の感想をまとめるとなると、タイトル通りの「君たちはどう生きるか」というメッセージは中盤直後の傷ついたペリカンとの対話に詰まっていた。
この世界のルールのようなものをジブリの冒険アニメーションで修飾してエンタメにしてくれたんだな、という感じですね。


他の方の書いた「君生き」の感想記事も読ませていただいて皆さんの解釈なども共有させてもらいたいと思います。では。




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