Ruby on Railsコミッター松田明氏×RIZAPテクノロジーズ社長対談〈1/3〉
RIZAPグループのDXを推進するため
別会社を設立した
――自己紹介からお願いします。
鈴木:2022年7月に設立したRIZAPテクノロジーズ株式会社(以下、「RIZAPテクノロジーズ」)の代表取締役社長をしています。鈴木と申します。
2021年の5月にRIZAPグループ株式会社(以下、「RIZAPグループ」)に入り、RIZAPテクノロジーズ設立前はこちらでDXとマーケティングの責任者をしておりました。
前職は、ポンタポイントという会員1億人ほどのポイントプログラムを運営しているロイヤリティマーケティングという会社のデジタル責任者です。
その前はリクルートで新規事業開発やeコマースを担当、その前はディー・エヌ・エーで、やはり新規事業を推進していました。よろしくお願いします。
松田:よろしくお願いします。いきなり質問なのですが、RIZAPテクノロジーズの上にRIZAPグループという本体があるのでしょうか。
鈴木:はい。私はRIZAPグループの執行役員でもあり、DXの監修責任者をやっています。そのDXを推進する会社として、RIZAPテクノロジーズを新しく設立しました。
なぜかというと、RIZAPグループ全体でDXを推進していくにあたり、プロフェッショナル人材が足りないため積極的に採用を行っていく必要があったんです。
そのあたりの認知やブランディングが不十分だったので、会社を分けてやっていこうというのが設立の主な目的です。
また、実際にDX人材が働く環境や人事制度などを整備するにも、RIZAPグループ全体を変えると結構大掛かりになってしまうため、会社を分けたという面もあります。
松田:確かに、業界的にエンジニアって自由に働きたい人が結構多いですよね。
鈴木:はい。もう一つ、グループ各社にいたIT人材を集約させるという目的もありました。
RIZAPグループはグループ会社の集合体のため、それまでは各社にいるエンジニアや情報システム部隊が、バラバラに業務を行っているところがあったんです。
これではノウハウの横展開もなかなかできませんし、全体の最適化もやりにくいので、RIZAPテクノロジーズに集約することで全体を見ながらチームを作り、開発案件やテーマに取り組むことにしました。そのほうが業務も効率的ですし、採用も行いやすく、ひいては全体のレベルアップにもつながるという狙いがあります。
設立当初はほぼメンバーなし!?
半年間で100人規模の体制へ
松田:そうなのですね。今社員の方はどれくらいいらっしゃるんですか?
鈴木:私が入ってから新規採用したメンバーが50人ぐらいですね。
あとはグループ各社で、もともとITをやっていた人間が20〜30人ぐらいおりますので、現在、社員数は70人ぐらいの組織です。
とはいえ今は開発が内製化しきれないところが多いので、パートナー企業さんや、業務委託・フリーランスの方にも入っていただいています。そうした方々も含めると、全体で100人を超えるぐらいのチームに上がっています。
松田:去年作ったといっても、かなり大きな組織なんですね。
鈴木:そうですね。
でも私が21年5月に入ったときは、エンジニアもデータサイエンティストも全然いなかったんですよ。ほぼゼロから採用を始めて、最初の半年ぐらいで各領域の部長クラス・マネジメントクラスの人材を採用し、そこから一気にメンバーを採用していきました。今思うと結構ハイペースですね。
ただ、これはもともと「DXを本気でやっていく」という会社の意思決定がありまして、グループトップの瀬戸からも「100人ぐらい採用して、100億投資するんだ」という方向性が示されていたのです。
そう思うとちょっと時差はありますが、頑張ってそれなりのチームになってきたな、という感じです。
エバンジェリストとして
Rubyを盛り上げていきたい
松田:そうなのですね。では僕からも自己紹介をさせていただきます。
松田と申します。よろしくお願いします。
オープンソースソフトウエアのプログラマーをやっていまして、主な領域はRubyというプログラミング言語と、Ruby on Rails(以下、Rails)というWebアプリケーションフレームワークの開発に携わっています。
RubyとRailsは、15年ぐらい前からアメリカ西海岸からはやり始めて、世界で使われるようになりました。で、自分がたぶんそのあたりのテクノロジースタックは日本で一番詳しい人間だと思うので、いろんな会社さんに役立てていただいています。
鈴木:もともとエンジニアをやられていて、プログラマー……という感じなのですよね。松田さんはRubyに15年ぐらい前に出合って、そこからRuby一筋なのですか?
松田:はい。Ruby一筋ですね。
もともとは他の言語もいろいろやっていたんですけど、ちょっとずつ関わっていくうちにだいぶRubyの「中の人」になってしまいました。
ここはもう、Ruby以外のテクノロジーに浮気するよりは、自分のライフワークとしてRubyを盛り立てていこうかと。エバンジェリスト(※伝道師)的な活動も含めて、自分のミッションとしていこうかなと思っています。
Rubyを使って
chocoZAPアプリを開発中
鈴木:なるほど、ありがとうございます。
今回松田さんに技術顧問をお迎えした経緯について私からご説明しますと、そもそもRIZAPグループのDXのテーマっていくつかあるんです。
具体的には、chocoZAPという事業のアプリの開発内製化というテーマもあれば、RIZAPグループ全体のIT基盤を統合していくようなプロジェクトもある。
その中で、松田さんがコミッターをされているRubyを使って、われわれが何を作っているかというと、chocoZAPのアプリ開発です。
松田:はい。
鈴木:ここでいったんchocoZAP事業についてご説明いたしますと、RIZAPで今一番力を入れている事業でして、「コンビニジム」をコンセプトにしています。
日々の入館・退館だけでなく、ジムへの入会も退会もアプリで全部できて、店舗は完全無人というオペレーションです。この1年間で一気に300店を超える店舗を出店しています。
会員さまも30万人ぐらいまでいっており、現在急速に成長しているのですが、この事業の肝がアプリです。
現在は外部のパートナー企業さんにもお願いしながら開発をしているのですが、内製化を目指しています。
松田:はい。
鈴木:なぜかというと、一つはこのアプリがインフラとしての機能も果たしているからです。
普通のアプリと違って、このアプリが動かなくなるとそもそもジムに入れないんですよね。普通のジムであれば店舗内にスタッフがいるので、仮にアプリが起動しなくても人間が対応すれば済むのですが、うちは本当に人がいないんです。
アプリが起動しなくなった瞬間にジムに入れないし、サービスが利用できなくなってしまいます。
そうなるとお客さまからは当然ご不満もいただきますし、それはビジネスのインパクトに直結します。
そういう意味でインフラとしてめちゃくちゃ重要な機能になってくるので、内製化してしっかり作っていく必要があります。
松田:なるほど。
RIZAPがDXに本気で
取り組んでいることを広めたい
鈴木:もう一つが、おかげさまでchocoZAPはすごいスピードで成長しているのですが、やはりいろいろな課題も出てきています。
それらに対応しながらスピーディーに開発することがマストなのですが、外部にお任せするとなると、その速さについていけないんですよね。
また、事業やマーケティングなど、いろいろなところと連携しながら開発していく必要があるので、やはり内製化していこう、というのが、まず背景としてあるのです。
松田:そうですね。
鈴木:そこで採用を頑張って進めていますが、開発の体制を整えたり、品質をレベルアップしたりしていかなきゃいけないというときに、社内の知見やノウハウだけで急速に立ち上げていくのは難しい。そこをぜひ、松田さんに入っていただいてベースアップしていきたいというのが、大きな目的の一つです。
松田:はい。
鈴木:もう一つは、採用の観点でいっても、そもそもRIZAPが内製でアプリを開発していること自体が世の中にまったく知られていませんし、chocoZAPという事業が広い意味でDXに支えられていることに対する認知もありません。
そもそもRIZAPがエンジニアを採用しているイメージもありませんので、そこの認知を上げることで仲間を集めたいという思いもあります。
そのために、相応の立場の方に仲間に入っていただけたらいいなあという中で、いろいろな接点があり松田さんにお話をさせていただきました。
松田:御社の佐藤さん(プロダクト開発統括1部部長)に声をかけられたからという……。まさに人の縁ですね。
佐藤さんとは過去に一緒に仕事をしていたので、そういう人にまた声をかけていただけるというのは非常にうれしいですね。
自分としては、まずそのご縁があってお引き受けしました、というのがあります。
その上で、佐藤さんや鈴木社長からお話を伺って、自分の興味関心に近いところを事業にされようとしているところにも共感しました。
鈴木:ありがとうございます。
「アラカルト」より「コース仕立て」で
健康作りに役立つサービスを
松田:自分も体力の衰えを感じるとともに「健康」への関心が年々高まってくるんですよね。
実際にジムに通ったこともあるのですが、結局長続きせず、軽く宅トレだけしている程度になっていたんです。
さらに数ヶ月前に転んで骨折するという大けがをしたことも自分にとっては結構な転機で、体のことをちゃんと考えなきゃと思うようになっていました。
で、自分もエンジニアなので、エンジニアリングで解決できないかと思って、やっぱりアプリとか探すのですけれど、ちょうどいいのがないんですよね。
今、ヘルスケアテックの領域は流行しているので、部分的にはいろいろなサービスやデバイスがあるんですけど、素人なのでどれを選んでいいのか分からないんですよ。
料理でいえば、アラカルトで美味しそうなものはあるのだけれど、もうちょっとシェフのお任せによってコース料理を全部出してくれて、それでうまいこと自分の体のケアができるようなサービスがあるといいなと感じていました。
素人が考えることなので、すでにRIZAPには構想があるとは思うんですけど、それでもそういうサービスが世の中には存在していないんですよね。
もっと言えば存在はしているかもしれないけれど、少なくとも自分にリーチはできていない。そのマーケティングも含めて全部達成できている会社はないと思っていますので、その実現をお手伝いできるのは、すごくやりがいがある案件だと感じました。
鈴木:そう言っていただくとめっちゃうれしいです!
私自身、デジタルやデータを使って何か変えたいというときに、ヘルスケアや健康に対して価値が提供できるのはいいと思っています。
医療的な観点でヘルスケアテクノロジーを活用するケースもありますが、弊社のようにフィットネスやジムといった、もうちょっと手前にある「健康」について価値を提供できることがいいなと、個人的にも思っているところです。
松田:うんうん。
トータルで価値を提供
世界でも珍しい事業がここにある
鈴木:あと、先ほどの「アラカルト」という表現がすごくいいなと思ったんですけど、健康になろうと言ったときに、やっぱり何か「だけ」やればいいわけではないんです。
週2回だけジムに行ったとしても、残りの5日間を不健康に過ごしていたら健康にはなれませんし、宅トレだけやってもできることは限られていたり、モチベーションが続かないということもある。
あるいはいくら運動しても、食事管理ができていなければやっぱり健康にはなれない……と、いろんな要素を解消しないと人の健康に寄り添うことはできないと思っていて。
もともとやっているRIZAP事業というのは、そうした事柄を、パーソナルトレーナーがお客さまに徹底的に寄り添って結果を出すことによって価値を提供してきたのですが、これをもう少しデジタルやデータを使ってやっていこうとしているのがchocoZAPになります。
世の中にジムはたくさんありますし、食事管理ができるアプリや、家でトレーニングをするときに役立つアプリといったそれぞれのプロダクトもあるんですけど、やっぱりどれも、それ「だけ」では難しい。
そこでchocoZAPは、まずジムとして分かりやすく圧倒的な店舗数を出していくことを皮切りに、1人残らずアプリを持っていただき、かつ、アプリと接続できる体重計やウエアラブル端末を無料でお配りしています。
それによって、ジムの入退館にだけアプリを使うのではなく、体重や体脂肪などいろいろなデータを踏まえたレコメンドなどのフィードバックを、アプリ上で行えるようにしていきます。
松田:そうなのですね。
鈴木:さらに、RIZAPでは「RIZAP LIVE」という動画コンテンツも配信しています(※RIZAPに在籍するパーソナルトレーナーによる動画コンテンツやライブ配信)。
弊社にはこうしたアセットやリソースが豊富にあるので、chocoZAP会員さまの自宅トレーニングにも寄り添うことが可能です。
もちろん、食事管理機能も今後実装していく予定です。
そういう意味で、オンラインとオフライン、リアルのジムとそれ以外の生活も含めて、トータルに価値を提供できてこそ、本当の意味で健康になるんじゃないかと思います。
こうしたプロダクトの集合体としての事業って、日本はおろか、世界にもたぶんないと思うんですよね。それができるとめちゃくちゃ面白いと思っています。
事業的な視点に限らず、消費者としての視点もそうですし、エンジニアの取り組むテーマとしても面白いと思っていただけると大変うれしいです。
松田:いや、本当にそう思います。 自分でもドッグフーディング(※自社製品を開発して利用する習慣のこと。自社実践)してみたいですね。
・・・・・・
PART2では、RubyやRuby on Railsの魅力と、chocoZAP事業との相性の良さについて、鈴木社長と松田さんが語り合った模様をお届けします!
>>>PART2はこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?