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落ち込んだ未來

 落ち込んだ未来を想像した。思い通りの日常なんて手に入らない。
 私はいつも、思い通りではない日常を引き寄せる。

「へぇ、二人がねぇ」
 周りはみんな驚いたふりをして、私の顔色をうかがっている。三咲と隼人の関係に気が付いたのは、多分、私だけじゃない。隼人の隣には、もう、私の居場所はなかった。
 私は、作り笑いをする。私の想いを知るのは、ここの全員だろう。場の雰囲気を読むのは得意なのに、私の顔は引きつったままだった。
「ごめんね…佳央理」
 三咲が言った。みんなの視線が私に集まる。こんな時、なんていえばいいのだろう。気にしないで、なんて口にすれば、惨めなだけだ。
「で、夏休みのキャンプ、どうすんの?」
 裕太が、空気を変えようとした。助かったと、私はほっとした。
 隼人の横で嬉しそうに笑う三咲があまりに可愛く見えて、私はどこか上の空で裕太の話を聞いていた。

 三咲が隼人のことを好きだろうことは、何となく気が付いていた。私の相談に乗る三咲は、決まって煮え切らない隼人のことを悪く言った。
 ー取られたくない
 私が三咲でもそうしたのかもしれない。

「来年は行けないと思うから、今年は遊ぶぞ」
 高校2年の夏、私たちは裕太の親戚が営むキャンプ場に向かうことにした。男女合わせて7人のいつも変わらない空気感。キャンプへ向かうバスの中も賑やかだった。違ったのは、隼人の隣に三咲が座ったことだ。当たり前のことなのに、私はまだ、その現実を受け入れられずにいた。
「ね、仕返し、しねぇ?」
「え?」
 隣に座る裕太がいたずらに笑う。
「このままじゃ、俺らバカみたいだろう」
 三咲がつい最近まで付き合っていたのは、裕太だ。ほんの数か月だけの関係。このことを知っているのは、私だけ。三咲は二人だけの秘密にしてといっていた。
「どうやって?」
「そうだな」
 裕太は考え込む。
「海にドボン、どう?」
「そんなの、無理だよ」
 でてきたのがそれかと呆れて笑う私の顔を、裕太がまじまじと見つめてきた。
「ようやく笑った」
 窓に映る私の顔は、目の下にくまもあり、不細工だ。
「笑わないとバカみたいだろ」
 裕太は、そういうと立ち上がった。
「よし、今日は肝試しやろうぜ!」
「えー」
 皆がはしゃぐ。バスの運転手から、座るよう促された裕太に笑いが起きた。

 窓に映る自分に言い聞かせる。いつかこれが次の恋に進むために起きたことだったのだと思える日が来るはずだ。

 落ち込む未来なんていらない。私は、にっこりと笑顔を作った。

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