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歪みのシンパシー

「だから!それがどうしたって言うんだよ」
毎回、こんな感じだ。僕は、君の力になりたいんだ。僕は、壁に向かって泣き叫ぶ君を優しく抱きしめた。君に、この温もりは届いているのだろうか。

僕がこの家に来たのは3ヶ月前だ。偶然、通りかかった君は、どこか不安定に見えた。何度も後ろを振りむいて、怯えている。僕は少しだけそばに寄り添いたいと思った。繊細に見える瞳に、吸い込まれるようにして、2人の生活が始まった。

君の家は、とても殺風景だ。女性の一人暮らしだとは思えない。クローゼットは整理され、物もほとんどない。まるで、いつでもどこにでも居なくなる準備をしているようだった。

僕が来て、彼女の周りが少し騒がしいことを知った。家族とは疎遠らしいし、あんまりいい親でもなさそうだ。友達も、いるようでいない。彼女は、好きで孤独なのか、孤独になったのか。なんだか僕は、少しだけ彼女にシンパシーのようなものを感じていた。

夜は一緒に添い寝して、朝は一緒に大学まで通う。君は、どんどん痩せていく。多分、味方は僕しかいない。僕には使命感のようなものが芽生え始めた。君を守れるのは、僕しかいない。

大学の1つ上の先輩に、悪い男がいる。君が好きな男で、君を悲しませているのも、きっとそいつだ。君は、その男と会う日だけ、可愛らしい服を着る。
「あんな男、やめてしまえよ!」
家を出る君に、いつもそうやって叫んでも、君は僕の声を聞こうともしない。どうして、僕の言うことを聞いてくれないのか。僕は、いつも傷つけられる。止めたって、君はアイツに会いに行く。だから、決まって僕は先回りして、その男に呟くんだ。

ー彼女は僕のものだ。

男は、いつだって卑怯だ。ほら、簡単に腰を抜かして逃げ出していく。無様な姿を君に見せられたら、君はこの男を忘れられるのだろうか。一緒に笑おう。君が想っている男なんて、クソみたいなやつだって。僕が幸せにするから。

最近、気になることがある。留学していた旧友が日本に戻ってきたらしい。君は、少し元気になったように見えた。アイツに会う時とは違うおしゃれをして、君は彼女に会いにいく。きっとその友人は、君にとって大切な人なのだろう。

「久しぶり。ねぇ、なんか痩せたんじゃない?」
「最近、なんだか寝れなくて。体もずっと重くて。疲れているのかな」
「うん、なんていうか…」
「何?」
「うん…。お祓い、いった方がいいんじゃない?」

彼女も僕の邪魔をするようだ。次は、彼女を君の前から消さないといけない。

大丈夫だよ。
君は一人じゃない。ずっと僕が一緒にいるんだから。だから、安心して。

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