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呪縛

 好きな色は、決まっていつもすぐになくなった。小さいころから、私のものは妹のもので、貸したクレヨンは、いつも戻ってこなかった。

ーお姉ちゃんだから

 この言葉は、呪縛のように私を苦しめる。

「そう言えば、蓮香は小さい時、何色のランドセルだった?」

 もうすぐ春が来る。売り場では、色とりどりのランドセルが並んでいた。どのランドセルも希望に満ちた色をしている。今の私なら、どれを選ぶだろうか。

「私は、赤だったよ」
「へぇ」
「おばあちゃんが買ってくれたから、色なんて選べなかった」

 初めての孫だったこともあり、私は周りの期待を一身に背負っていた。幼稚園受験からはじまり、高校、大学と私は家族の望む通りに生きてきた。そんな私も、とうとう就職活動では失敗し、職を転々とする日々だ。今は、地元のショッピングモールで派遣として働いている。
 翔太は、ここの売場の社員で、私との付き合いはちょうど1年を過ぎた。翔太との関係は、職場には秘密だ。仕事がやりにくくなる、そう思った私の気遣いを、翔太は心から感謝してくれた。

「結婚しよっか」

 プロポーズされたあの日、私はすぐに返事を出せなかった。翔太が妹と親密になっていることに、私が気がつかないわけがない。翔太のプロポーズは、きっと私に対する罪悪感からだろう。

「妹はね、水色のランドセルだった。買ってもらう前にちゃっかりこれがいいって、宣言して」

 私とは正反対の妹は、また私の好きなものを借りて、きっと返さない。

ーお姉ちゃんだから

 ほら、私は、またこの呪縛に、私は苦しめられるのだ。

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