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高度30000ft

雲の上
逃げ場のない空間で
右手で「しないで後悔すること」
左手で「して後悔したこと」を
指折り数えるのはいつもの癖だ

両手ともに数える指が足りなくなったその時
ふいに君の あきれるほどのくせ字の文面を思い出して
手は結んだままになる

自分の字も褒められたもんじゃないけれど
どこでどうなればあんな字が書けるのか
へんにまるくて 不自然な右肩上がり
でも どうやっても「君」でしかない文字が
このありふれた名前を綴る
それだけで なぜだか泣きたくもなる

なんだかなあって背もたれに体を委ねて
「しないで後悔すること」のひとつ
「して後悔すること」のひとつが
君へとつながってゆくような気がして
どちらにしても 
もう 逃げることはできない気がして
シートベルトを締め直した

徐々に高度は下がって行く
雲の切れ間から海が見える
胸の中で 君の文字を何度もなぞって目を閉じる
本当に大事なことはそんなに多くはないんだから
何かを指折り数えるのはもう終わりだ

地上まで あと 少し

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