レモンサワー

特に何も考えていません。思ったことと書きたいことを残すだけです。 1000字程度の駄文…

レモンサワー

特に何も考えていません。思ったことと書きたいことを残すだけです。 1000字程度の駄文が多め

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【小説】名乗るまでもない

「犯人はあなたです、清水さん。」 8人が集まった大広間で、 茶色のスーツを着た小柄な男が1人の男性を指さして、そう言った。 全員の前で突然名指しされ、犯人とレッテルを貼られた清水の顔は硬直し、呆気に取られていたが、あまりの唐突な出来事に言葉を紡げず、餌を待つ鯉のようにパクパクと口だけが動いていた。小柄な男は言葉を続けた。 「この館の主人である佐藤さんは間違いなく鋭利な刃物で刺殺された。ですが、彼は病的な先端恐怖症のようで。爪楊枝ですら見たくないというのですから、そんな刃物

    • 【小説】生まれる

      「怒る」事が出来ない人間だった。 営業の成績が上がらない部下の机を蹴り飛ばすおじさんとか、 道で肩がぶつかっただけの相手に怒鳴り散らす怖い顔のお兄さん、 自分の友達を悪く言われただけで、早口で反論をまくし立てる女子高生。 そんな人たちをドラマや映画の中でよく見るけど、あんな風にストレートに感情表現する事は私には出来ない。 そして、そうなりたいとも思わなかった。 だから、殺しちゃったのかな。 人には優しくしなさい、人の嫌がる事はしちゃダメですよ、人の為になる事をしましょうね

      • 【小説】虚像

        「繰り返します。これは訓練ではありません。直ちに安全な場所へ避難を行ってください。これは訓練ではありません。身を守る行動を最優先で行ってください。繰り返します・・・」 懸命に電脳世界の中で叫んでいた戦争反対!とか、ギターのメロディに乗せて歌い上げた、平和で国境のない世界を!みたいな、薄っぺらい意思表示は、圧倒的な力を持った権力者の前で、何の抑止力にもならなかった。攻撃の指示を一言告げ、軍隊が子供たちが通う学校を破壊している間、ふかふかのベッドで眠っている。ホットコーヒーでも

        • 【小説】昨日の私へ。

          「おめでとう。」 そう小さく呟いた言葉は、彼の背中に、見えない粉雪のようにそっと触れて音も立てずゆっくりと溶けていった。 彼は周りからの友人の祝福に笑顔で手を振りながら、隣を歩くドレスの女性に声を掛け、優しくエスコートしている。海外の宮殿をイメージした白い壁と、彼の着る濃いグレーのタキシードが対照的で良く映えていた。 「いいなあ。」 思わずそんな台詞が頭の中で反響して、その直後に罪悪感と虚しさが全身を包んだ。 そもそも何で私はここにいるんだろう。 彼とは長い時間を

        【小説】名乗るまでもない