見出し画像

東大計数工学科2年生の授業をざっくり 〜高専との差分を中心として

2023年4月、気持ち新たに東大に(編)入学してからなんともう1年が経ちました。

東大の編入は、

  • 学生証は3年生

  • 1年目のSセメスター(前期)は1, 2年生の授業を雑多にとる

  • 1年目のAセメスター(後期)は入学した学科で2年生の授業をとる

  • 2年目からようやく3年生 (書類上は2回目)

という特殊キャリアなんですが、1年目の後半から「自分は進振り直後の2年生だ」という認識を持てば、特にこのキャリアを気にすることなく過ごすことができます。(編入入学までの事情に興味ある人は この記事 をご覧ください )

というのも、1年目のAセメスターからは、そのほとんどが学科ごとの授業になって、一緒に受ける人たちのメンツも固定されてくるからです。こうした変化のおかげで、ようやく地に足がつくというか、東大生としての自覚が芽生えてきます (<- ほんとか怪しい)

ともかく、計数工学科民としての2Aの授業を一通り終えたので、高専で習ったことや高専で(勝手に)勉強していたこととの差分をおさえつつ振り返ってみようと思います。(高専批判をしているように見える書き方は、あくまで高専と大学の色の違いだと捉えてほしいです)

以下、曜日順に振り返ります。計数工学科のホームページに時間割が上がっていますので、そちらもご参照ください。(この時間割に書いてあるもののうち、物質科学入門、認識行動システムの基礎、生産の技術、生命科学概論は履修していません。)
また、東大の授業カタログにシラバスが公開されているので、それも一応タイトル部分にリンク貼っておきます。


月曜日

電磁気学第一

授業名の通り、電磁気学の授業です。

ベクトル解析の一通りの手続きや定理から始まり、Maxwell方程式を出発点にして、電磁気学の基礎的な公式をさらいました。

高専4年生のときに電磁気学の授業はありましたが、高校物理の延長でMaxwell方程式のMの字も出てこないお気持ち電磁気学の授業だったので、ちゃんと勉強したのは編入試験の対策としてです。

そういう経緯で電磁気学はほぼ独学だったので、やや不安を抱えていましたが、割と基本的なところから始めてくれたので一安心といった授業でした。(一応、普通の2年生は1年生のときに電磁気学の授業をとっているはずで、2周目になるはず….?)

最適化手法

最適化問題の定式化とか、その解法を学ぼうといった感じの授業です。

最急降下法、Newton法から始まり、線形計画問題、ネットワーク最適化問題とかを学びました。

高専時代は5年生の後期に「システム数理工学」なる授業でこれ関連の話題を学びました。ただ、やっぱり高専は良くも悪くも「使える」ことを重視しているのか、線形計画問題だったら単体法の解き方を教わっただけで、なぜそれでうまくいくのかといった理論的な保証は蔑ろにされていました。

(線形計画問題の双対問題の双対問題が元の問題であるといった部分も、まじめに議論されてなくてもやもやした思いがあります。)

この授業では、そういった曖昧性はほぼ解消された議論がされてあって、ちゃんと定義・定理・証明といったスタイルで進みました。(もちろん時間の都合で割愛された部分もあったにせよ、高専時代の理解度に比べれば全然。)

ちなみに、この授業の先生は高専出身らしく微妙に親近感があります。あと、授業期間中に本を出版していて「絶版になる前に購入した方がいい」と言われたので、積読が増えました。

数値解析

コンピュータで数値的に数学をやろうという授業です。

高専でも同様な一通りの話題をさらったので、単位認定はされていたのですが、1回目の授業とシラバスの感じから、これは聞いといた方がいい、と思い、聴講という形で出席しました。
(単位認定の科目は、テストやレポートに取り組まなくていいという気楽さとともに受講できるので、とても楽しいです)

単位認定されたとはいえ、高専よりは発展した話題が多くて

  • プロの数値解析学者が各手法の利点・欠点を教えてくれる

  • 理論的な保証がある

といったところが大きな差分に感じます。

火曜日

統計熱力学

熱力学の復習から、統計力学の初歩の部分までを学びました。

そもそも熱力学は高校物理として教わったのが最後で、大学以降の熱力学を誰かに教わった経験はありませんでした。そのため、こちらも電磁気学と同様に不安を抱えていましたが、やはりこちらも熱力学の基本的なところから授業を進められたので、ちゃんと復習ができました。

特に、毎週のレポートとか、テスト勉強とかで、割と熱力学に対しての嫌悪感がなくなったのは良かったなという印象です。(編入試験の勉強の時は一番といっていいくらい嫌いだった)

(田崎熱力学読まないといけないかな、と思っているところです….)

基礎数理

この科目は、Aセメのターム科目で、後期の前半半分の期間に毎週2コマ授業がありました。(なので、もう懐かしい思い出)

で、この科目が計数工学科に来て1番強烈だと思った科目です。

シラバスを見てもらえればわかりますが、集合と位相と線形代数を一通り扱えるようになろう!というスタンスの授業です。

ちゃんと数学の授業で、かなりのスピードで進んでいきました。取り上げられる内容や定理も全て先生の熱意や意図が感じられるものになっていて、毎回の授業が楽しかったです。

授業の流れや構成は特に気を使っているように感じ取れました。ちゃんと自分が好きな定義を採用して、その定義の下で話を広げていって、さらに、複数の話題を融合させて、非自明な結果に辿り着かせてやろう、という意図を感じました。そこに共感したのもあって、毎回楽しみな授業でした。

回路とシステムの基礎

こちらの授業もAセメのターム科目でした。

主に回路を題材として、線形な微分方程式の解法の話から、フーリエラプラス変換を経て、古典制御っぽい話題まで扱われました。

僕は高専の卒業研究で制御を扱っていたので、授業ではやってないけど、ある程度知っているという感じでした。回路周りの発展的な話などは知らないところもあって、なるほどなと聞いていました。

一般の2年生はここで初めてフーリエラプラスを勉強する場合もあると聞いて、このスピード感で導入されるのえぐい、と怯えました。

水曜日

計測通論C

前半部分が計測工学の一般的な話で、後半部分が個別具体的な計測の話でした。

高専でも計測工学の授業はありましたが、正直、そこまで興味を持てないままでした。この科目も計測の一般論としての数理的話題は面白いところもあったんですが、個別事象になるとそこまで興味をそそられず。。。

そもそもの物理的な見識が狭いのが原因な気もしています。

量子力学第一

前期量子論から始まって、Schrödinger方程式を経て、井戸型ポテンシャルとかトンネル効果、水素原子の話を挟んで、行列力学、ハイゼンベルクの運動方程式にて終わるという構成の授業でした。

無限の壁のポテンシャルの場合までは高専の物理でやりました。が、それ以降の話は全くやったことなかったので、新鮮で楽しかったです。

何よりこの先生の授業資料はめちゃめちゃ綺麗でした。初めてこの授業を担当され始めたらしいのですが、毎週作っているクオリティじゃないスライド資料が公開されていて、授業への熱意すごいな、と毎週唸っていました。

数学1D

数少ない必修科目のうちの1つで、微分方程式、変分法、ベクトル解析を学びました。

割と知っている内容が多かったです。微分方程式とベクトル解析は編入試験対策で散々解いたし、変分法は(木曜日の科目の)解析力学で慣れました。

なので、直交曲線座標をちゃんと勉強できたのでよかったなというくらいで、そこまで深い思い出はないです。(『曲線と曲面の微分幾何』を読みたくなりました)

数理手法VIII

工学部の選択科目で、計数工学科が提供している科目ではありません。

扱った内容としては、Googleのランクアルゴリズムとペロン・フロベニウスの定理周りの話、特異値分解、最小二乗法、分散が有限でないような分布、Yule-Simon過程、複雑系ネットワーク、、、など、割と雑多な内容のアソートメントといった感じでした。(そのせいで、テスト勉強は何を勉強すればいいかわからず苦労しました)

深掘りすると面白そうだな、という話題は多かったのですが、途中で議論の流れをロストしたり、体系的に整理するのに苦戦したという印象です。

木曜日

解析力学

解析力学の授業です。途中で特殊相対性理論も扱いました。

講義自体は先生の早口も相まって、結構なスピードで進みました。ただ、講義ノートがしっかり作られていたり(事実、近々それが出版されるらしい)、課題や質問にしっかりフィードバックがあったり、そういった部分、手厚い講義でした。

解析力学自体はほぼ初めて勉強しました。高専1年生で物理の授業が始まったくらいの頃に、なぜか物理の教員からネーターの定理を延々と解説された経験があるのですが、そのネーターの定理って実際ちゃんと書くとこんな主張なのかと感慨深かったです。(高専1年生のそのとき、物理の教員がどういう趣旨でその話をしていたのかまるで覚えていないのが心残りです)

また、途中で2回くらいかけて扱われた特殊相対性理論がとてもコンパクトにまとまっていて、特殊相対性理論速習としても役立ちました。

数学及び力学演習 I

数学1Dとの抱き合わせの科目です。(そういう名目ですが、内容が被っているだけで、そんなにセットな印象はありません。)
微分方程式、変分法、ベクトル解析を学びました。

演習の科目で、毎週担当者が決められた部分の解説をして、その後に、小テストを提出して終了といった感じです。

毎回の小テストは、編入試験前後の難易度かなといった肌感でした。背景となる物理的な話題に対して、丁寧に誘導がつけられているタイプの問題で、問題としてよくできているなと毎回感じました。

また、担当者の解説もみんなかなり準備してきていて、勉強になる部分が多かったです。

変分法について、手を動かして学べたのが個人的に嬉しいポイントでした。

金曜日

物理数学

物理「数学」とはついていますが、名前は形式的で、統計熱力学、電磁気学第一、量子力学第一に対する演習の科目です。

統計熱力学、電磁気学第一、量子力学第一は不得手だったり初見だったりで、どれも不安な要素が多かったので演習の科目で手を動かして理解できていったのは良かったです。


まとめ

と、こんな感じで、どこに需要があるのかわかりませんが(少なくとも自分の備忘録にはなる)、授業の振り返りをしてみました。

総じて、数学と物理(とちょっと工学)ばっかりやっていました。

個人的には楽しい科目ばっかりで、充実した2Aセメスターでした。
来年以降も好評であれば、振り返っていこうと思います。

また、質問とかもあれば、TwitterのDMとかでお待ちしています。


追記.  3Sについても振り返りました(2024. 9. 9)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?