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浅生鴨さんインタビュー(人生編)

このインタビューは2018825に行ったものです。以前のアカウントを削除せざるえなくなり、お引っ越ししました。
いま読み返してもハッとするお話満載です🦆

◆ 欲のない「なんとかなる」

--『どこでもない場所』というエッセイ集は「迷いを残しておくって良いもんだよ」という本ですよね。

うん。  

--迷いとかあそびとか。それで、いいんですよね。

いいんです! 良いんですよ。  

--迷ったときは、最後の最後の瞬間まで決めないとも書いておられました。

誰しも本当はそうで、自分はこっちを選ぶとずっと決めていたのに、選択の瞬間に逆を選ぶことってあるんですよね。もともと本心ではそっちを選んでいたのかもしれない。人生ってね、選び続ける繰り返しだから、あらゆることをどこかで諦めるしかない。  

--ギリギリまで決めないのは「なんとかなる」と信じているからですか?

僕は物事に期待しすぎてないんです。僕が思う「なんとかなる」は「うまくいく」じゃなくて「なんとかなる」なんです。欲を捨てると楽になるっていう、言ってしまえばもう完全に仏教なんだけど。  

--たしかに「なんとかなる」と思いながら「うまくいく」であってほしい自分がいるかもしれません。

あらゆる欲を全部捨てちゃえば、ほんと楽になるんですよ。  

--どんな欲が残っていますか?

全部の欲がうすーく残ってはいるけど、多分全部うすい。  

--意図してそうなったのでしょうか。

1回心臓止まったのはデカイですよね、やっぱり。
*鴨さんは31歳のとき、交通事故により生死をさまよったそうです

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◇ 言葉や数字で遊び続けてる

--鴨さんの言葉遊びがとても好きです

言葉遊び…というかいつもこんなことを考えているんです。飲み物のハーフ&ハーフって半分と半分だからハーフ&ハーフじゃないですか。そういうときは必ず逆とか考えちゃうんですよ。ダブル&ダブルだったらどうなる?みたいな。ダブルっていうのは2倍だから、ダブル&ダブルってことは4倍!?じゃぁハーフ&ダブルって2.5倍??みたいに。僕は1個のことしかできないくせに、どうやらいろんなことを同時に考えてるっぽいんですよ。  

--子供の頃からですか?

子供の頃、おもちゃがなかったんですよね。親がおもちゃを全く買ってくれないわけではないんだけど、みんなが買ってもらうほどはおもちゃを買ってもらってなくて。基本的に与えられたのがレゴブロックと本だけだったんです。そうすると、組み立てて遊ぶとか言葉で遊ぶしかやることがなくって、いつの間にか今もずーっとそういう遊びをしてる感じです。  

--テレビもなかったとか。

テレビもなかったです。時々あっても、またすぐなくなって。テレビを観て育つとテレビが無い状況に耐えられないんだろうけど、テレビが無いのに慣れていたから特に困らなくて。結婚するときに、妻がテレビ欲しいといって買ったのがテレビ生活の始まりです。買ったらもう夢中ですよ。ずーーーっと観ちゃう。面白い!面白い!って。  

--それって何年ぐらい前?

20年くらい前かな。  

--そのときはまだ、テレビのお仕事は

してないです。その後、テレビの仕事をするようになるからね。  

--ハマりにハマって。

仕事にまでしちゃったっていう。  

◆ 読書における原初体験

--今回のエッセイに、高校生の時「本読んでるね」と言われたことでより読書家になったというエピソードがありましたが、心に残っている読書体験はありますか?

今もあるのかわからないんだけど、フレーベル館のキンダーブックだったかな?アンデルセンやイソップやグリムのお話が4つか5つで1冊になってる本があったんです。装丁は安野光雅さんで、全18巻のすごく素敵なシリーズだったんだけど、それが毎月家に配本されてたんですよ。その本が届くのが楽しみで楽しみで、届いたらとにかく何度も何度も読んでました。次の本が届くころには前のはボロッボロ…というのが一番古い体験かもしれない。3歳か4歳だったかな。その後は、表紙は剥がれページはちぎれぐちゃぐちゃになるまで1冊の本を読むってことをやってないかなぁ。あっ、ドリトル先生もやったかなぁ。  

--テレビがなかったのが大きいですか?

大きいですね。本しかないから。本とレゴしかないから。

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◇ 今も書きたくない?

--書くことに対する原初体験はありますか?

書くことに関しては、ないですね。長い文章は会社のレポートでも書いたことないくらい。僕、大学にも行ってないから卒論も書いたことないし。ほんとに最初が『エビくん』(エビくんは浅生鴨さんが初めて書いた短編小説です)。  

--書きたいっていうのも全くなかった?

全くない。今もないです…。  

--手書きの原稿は誰かにパソコンで起こしてもらってるんですか?

自分で起こしてます。手で書くときは、手が勝手に書いてくれるのに任せているので、でたらめだったり辻褄があってなかったり途中で別のことを書き始めてたりしています。それを起こすときに「てにをは」や順番を整えます。手書きの原稿とパソコンで打った原稿だと半分以上中身が変わるかなぁ。  

--書いたものを起こしているときは編集者的視点に切り替わるんですか?

そう、完全に切り替わります。  

--自動書記的に書いてる手を創作の鴨さんだとしたら、創作者の気持ちと編集者の気持ちのどっちを取ろうか迷うことってないんですか?

ないですね。そこは編集者になりますね。  

--創作者の鴨さんが、ここは消したくない!みたいな主張をしたら聞き入れますか?
そんな主張ない。僕にたいした主張はないから(笑)

◆ 誰にもマネできないメモ術?

--記憶力はいい方ですか?

いや、もう全然ダメです。なんにも覚えてないです。  メモは割ととります。でも、僕がとってるメモはみんなが思ってるメモとは全く違ってて。  

--どんなメモですか?

例えばですけど、今ここで面白い話を聞いてなるほどなぁって思いながら、今飲んでるのは紅茶とレモネードのハーフ&ハーフなんだなぁって考えてると、僕は “卵焼き” ってメモってるんですよ。この状況から全く違うことを思いついて書いてる。後からメモを見ても、なんで卵焼きって書いたかはもうわかんない。わかんないんだけど “卵焼き”って書いてるから、次は卵焼きから別のことをおもうっていう。誰かが面白いことを言ったからそのまま書くことはなくて、全く関係ないことをメモってます。昨日も手帳を見てると “俺の中の石原さとみ” って書いてあるの。しかも何度も書いてる。絵まで書いてんの!なのにこれなんだっけな?っていう(笑)  

--石原さとみの話すらしてなかった?

わかんないんです、もはや。

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◇ 「先にやってみせる」と「受注体質」

--世の中全体がどこか疲れていると感じませんか?

そういえば守屋さん(担当編集者さん)もそんなこと言ってたね、最初に。疲れた人に読んでもらうエッセイにしたい、とは言われたんですよ。でも別に意識してないんだけどね、そこは。  

--すごく寄り添われても、その魂胆丸見えですけど?ってなっちゃいますから。

寄り添う気ゼロです(笑)  

--お互いに気楽でいいです。

ですね。例えば、どこかに遊びに行って和室のある部屋に入ったときって、きれいな和室だから汚しちゃいけないと思ってみんな隅っこの方に荷物置いたりするじゃないですか。  

--します、します。

そこで一番最初に「あーー疲れた!!」ってごろ〜んっと寝転んだら、みんなもやれるじゃないですか。それは別にお前らもやれよってわけじゃなく、自分が勝手にやってると、俺も!ってやる人もいるし、しない人はしなきゃいいし。そういう感覚ではあるんですよね、先にやってみせるというか。  

--普段もそういうことしますか?

オーダーがあれば。みんなで旅館に行って自分からやることは…。うーんとこれはね、無言のオーダーっていうのがあってですね。つまりみんなが本当は疲れてるのに疲れてるって言い出せない、誰か言わないかなぁと思っているのを感じたら、それはもう無言の発注ですよね。  

--ほんと受注体質ですね。

望まれていないことはやらないです。  

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*なぜオペラ座の写真なのかは、エッセイを読んでからのお楽しみです  

◆ おまけの人生

--欲がないというのは、生きてるだけ丸儲けという感じですか?

丸儲けというか、おまけの人生というか、幽体離脱してるというか。「おまけの人生」って開高健の名台詞なんだけど、あの人は取材のためにベトナム戦争に行って銃撃を受けて、自分以外の周りにいた人間が全員死んで、自分だけ弾が当たらなくてたった一人生き残って。で、その日を彼は自分の命日と決めて、あとは「おまけの人生」って言うようになるんですよね。わりとそれに近い感覚です。この感覚があるから、欲があんまりないというか、求めるものがそんなにないんでしょうね。

--期待しているから苦しいところがあるのかもしれないですよね。

こうなりたい!って思うからつらいのであって、なりたいものがなかったらつらさはその時点ではないんですよ。お金儲けしたい!て思うからお金がないとつらいわけで、お金ってそんなになくても最低限生きていければ良いよね、と思っていればつらくない。

--数年後の自分の「なりたい」を思い浮かべて書こうみたいなのが一時期流行りましたよね。それでも全然思い浮かべられなくて。そんな自分がダメなのかなと思ったこともあります。

大丈夫です!どうせ書いても当たんないし。一週間後の自分が食べるご飯を当ててごらんと言っても当たりっこないですから。そんなことですら当てられないのに、5年後の自分なんてわかるわけがない。下手すりゃ明後日のご飯だってわかんないですよ。

--なんでも自分の思い通りになると思い過ぎているのでしょうか。

こうなりたい、自分をこうしたいって言うのは、今の自分を信じてないわけじゃないですか。そうなった時の自分が良いと思ってるから。

--変えたいってことですよね。

僕は今の自分が大好きなので、変える気がゼロです! しょうがないんです。変わりたくったって変われないんだから。まっ、こんなもんだよねと分かって、それを引き受けて諦めるというか。諦めちゃうと楽になるんですよ。諦めると自分のポンコツぶりも楽しくなってくる。こいつ面白いなーって、客観的に見ることができるようになります。僕も自分のツイートを翌朝に見て、またバカなことツイートしてるなと思うわけですよ。こいつほんとにバカだなって。

--そう書いてあるわけじゃないけど、エッセイからも伝わってきました。やはりおまけの人生だって思っていることが大きいですか?

大きいでしょうね。まぁでも、若い頃からどっちかというと達観してたかも。  世の中にはどうしようもないことがあるって、最初からそう思ってるんですよね。  

−−今回の『どこでもない場所』について

別に勇気を与えたいとも思わないし、元気になって欲しいとかそういうのもないし。うーん、なんだろう。きっかけだけご用意しますから、好きに味わってくださいって感じです。

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いかがでしたでしょうか。
買うまでが読書。おうち時間のお供にぜひ買ってみろください🐈✨ありがとうございました。

前編(創作のヒミツ編)はこちらです。

#浅生鴨 #どこでもない場所 #左右社 #インタビュー

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