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【企画】あなたのための小説、書きます|第二弾、オラヴ153様からのお題|

初めての企画、「あなたのための小説、書きます。」大変光栄なことに、先着三名様から、小説のお題を頂くことができました。今回は、第二弾、オラヴ153様からのお題となります。この場を借りて、もう一度お題を掲載させていただきます。

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今やろうと思ったことを始めたばかりで(あたりまえですが認知もされておらず)不思議と心細さはないのですが、世界を創造のパワーに溢れさせることが夢なので(ひとも物もすべて)それが広がっていくために頑張ろうと思うわたしの背中を押してくれる物語をお願いしたいです。
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このお題から連想した物語を記します。
タイトルは、「海を、すすむ」です。
それでは、本編をどうぞ。
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私が住んでいたのは、小さな島の森の中だった。愛すべき家族である、木々や草花たち。丁寧にお別れをして、私は一人で森を後にした。どうしても、行かなければならない場所があるから。夜更けの海岸に一人、佇む。靴を脱ぐと、波が笑うように私の両足と戯れる。すうっと息を吸い込み、肺を夜の潮風で満たす。さて、船の準備はできている。小さい木の船だから、私ひとりが乗り込んだだけで、ぎしぎしと左右に揺れた。船の甲板に、膝を立てて座り、空を仰ぐ。月のない夜に、天を飾る宝石のような星たち。その囁き声が、聞こえるようだった。
「やあ、珍しいお客さんだねえ」
「お嬢さん、その船でどこに行くんだい?」
「私は、私の行くべきところに行くわ」
星々に返事をした時だった。空に、光の筋が流れた。いくつも、いくつも。

——流星群だ。

星たちは、金色や銀色の光を放ち、水平線のかなたに消えていった。
今は亡き母が教えてくれた。星が一つ流れるたび、誰かの魂がこの世から去っていくのだと。去っていった魂は、永遠の命になり、私たちを見守ってくれるのだと。流れ星を見つめていると、どうしようもなく、あの人のことを想ってしまう。私に道を示してくれた、かけがえのない人のことを。

突然、ひとつの流れ星が、この船めがけて落ちてきた。まばゆく光る、エメラルド色の光。光は、私の隣に置いておいたカンテラの中に突っ込むと、めらめらと燃えはじめた。まぶしさに、目を閉じて、腕で顔を覆う。しばらくして、おそるおそる目を開けると、カンテラにエメラルド色の火が灯っていた。懐から、羅針盤を取り出した。あの人に会った最後の日に、あの人がくれた私のお守り。カンテラの灯かりで羅針盤を読む。針は、水平線の彼方を指している。やっぱりそうだ。方角は間違っていない。私の行くべき場所は、水平線の向こうにあるのだ。カンテラの火が揺れた。何かを言いたそうに。しばらく見つめていると、火は揺らめきながら、私に語りかけてきた。

「大航海の前にしては、落ち着いているじゃない?」

——その声は。

はっとして、火を見つめた。

「まさか、あの日が、あなたに会えた最後の日になるなんてねえ」
「大丈夫よ、あなたならできるわ」

ぶわっと、涙があふれた。

——師匠<せんせい>。

「あなたにしかできない方法で、あなたは人を救うのよ」

エメラルド色の火は、少しずつ、少しずつ、小さくなっていった。

「待って! 消えないで! 待ってください!」

カンテラを両手で揺さぶった。火は、ふふ、と笑うと、最後にゆらりときらめいた。

「答えはもう、あなたの中にあるのでしょう?」

火が消えたカンテラを両手に、しばらく呆然とした。ふうっと息を吐き、涙を拭う。立ち上がって、前を向くと、夜が終わった。濃紺から、群青へ、群青から、橙へ、空の色が変わっていく。水平線の向こうから、太陽が昇った。どんな宝石よりも美しく、私の今日を照らすあたたかな光。ごうごうと風が吹き、潮の香りを運んでくる。舳先に立ち、風を受ける。甘い潮風の中で、髪がゆったりとなびく。自然と、笑みがこぼれた。太陽が、風が、海が、この世のすべてが、私を受け入れてくれている。

大切な羅針盤を見た。羅針盤は、変わらず、水平線の向こうを指している。これから、誰と出会えるのだろう。世界を、そのすべてを、この思いで満たしたい。

さあ、碇を上げよう。羅針盤の指す方へ、航海を始めよう。




窓から、柔らかな朝日が差し込んで、目が覚めた。

——夢、か。

窓辺に置いた様々な観葉植物たちが、競いあうこともなく、まっさらな太陽の光を美味しそうに吸い込んでいる。小鳥たちが歌っているのは、春の歌だろう。

私の部屋の、いつものベッドだ。

両手を顔の前まで上げ、見つめる。指を動かす。手を動かす。腕を上げたり下げたりする。大丈夫、ちゃんと動く。

「あー」

声を出す。大丈夫、声は出る。話せる。

深呼吸をすると、まるでもう一度、ちょうど今朝生まれ直したように、朝の空気に、体が、心が、満たされていく。

手が動く。カードをシャッフルして、カットして、引くことができる。ペンを持ち、言葉を書き連ねることができる。

言葉を話せる。引いたカードをもとに、言葉を重ね、想いを伝えることができる。自分という深淵を覗くのだ。自分とは、何者なのかを、深く、深く知るために。これから自分はどうしていきたいのか、気づくために。

大丈夫。あの羅針盤は、私の心の中にある。
さあ、航海を始めよう。

<終>

最後までお読みいただき、深く感謝申し上げます。
オラヴ153様のお題を拝読したとき、視界がぶわっと海になったのです。
気持ちも新たに、航海を始める、行先はもうわかっている、というイメージが強く現れ、あとはそのイメージが引っ張ってくれて、このような物語になりました。前回のピリカ様回と同様、色々たくさん想像を重ねて、ここまで書いたら、むしろ気持ち悪いんじゃないか……と不安になったりしながら、いや、この描写は外せない!と、結局思ったことを全部文字にしました。

朝が来るたびに、生まれなおしたような気持ちになれたらいいなあと。

オラヴ153様、オラヴ153様のためだけのこんな物語、いかがでしょうか?

「あなたのための小説、書きます。」シーズン1は、残すところお題あと一つになります。一生懸命書きますので、もう少々お時間を頂きます。

とても楽しく書くことができました。
改めまして、オラヴ153様、お題を頂き誠にありがとうございました!

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