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短編小説 【戻りたいあの頃に】

一昨日、千葉の実家でおばあちゃんの法事があった。親戚とおばちゃんが親しかった友達数人が集まった。畳に寝っ転がっていると叔父さんが言った。ポケベルの時代が懐かしい、と。僕は笑った。親戚の集まりや会社の飲み会に行けば誰かが必ず言う。懐かしい、と。続けてこう言う。あの頃はよかった。あの頃に戻りたい、と。

だから僕は質問する。
もし戻れたら何するの?。

答えは誰でも同じ、こう言う。もっと勉強する、と。

僕は質問する。
今が不幸なの?

そうじゃない。なんにでも興味を持てる好奇心やただ走っているだけで楽しかったあの頃の自分がほしい、と。

これからも新しいものが増えるじゃないか。新しいスマホやスマホに代わる新しいデバイスが出てくるのが楽しいじゃないか。僕は続けた。快適に暮らせるエアコンや冷蔵庫もある。ウォシュレット付きのトイレもある。なのにどうして、ボットン便所に戻りたくなるの?

こう言われた。

歳をとれば快適や清潔はいらない。ほしいのは輝きや無邪気さ、それと元気だ。だから君たち若い世代がうらやましい。もう一度味わいたい。

僕は笑った。

そしてこう言われた。

その日がくればわかるさ。

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