小野りす

短歌、ときどき日記のようなもの。

小野りす

短歌、ときどき日記のようなもの。

最近の記事

【短歌】蜂

白鳥のかたちの噴水見にゆかむ 春、白鳥の絶へしみやこに     アザレアはあふれてやまずこもれびは神経のごとひかりてやまず かすかなる熱たづさへて蜂は来ぬ死のにほひする植物図にも 夢とうつつの隙間にすべり落ちたままかへらざるわが羊をおもふ 雨の絵に雨描かれずうるみゆくこの世のそらをさすらふ、月は ひとは花 白き歌集にかげろふの翅をはさみてゆく四月尽

    • 【短歌】海峡

      海中に都はありやいくたびも夢の瀬戸にてふなべりを越ゆ 六道はめぐりめぐりて謡ひつつをんなは語るほろびのさまを 竜宮のあるじとなりて幼帝は水天門に母を待つらむ かけてゆく子らの背を追ひはつなつの関門海峡歩いてわたる

      • 【短歌】ねむる

        きんいろの溶けたバターのひだまりに老いたる犬のはるかな眠り 人とは違ふ時間を生きてゐることを伝はる鼓動のはやさに知りぬ おとろへた耳管の奥に降る音がやさしい雨であつたらよいが しまらくを鳴いてゐたるを大き伸びひとつせしあとしづかになりぬ まるき頭蓋なでたるのちにまだうすくひらきしままのまぶた閉ざせり 台の上にねむるかたちにうづくまるちひさき骨の朽ち葉のかるさ さゐさゐと雲は夕日を運びつつやがて来るべき浄火をおもふ 春の川みなもが先に暮れてゆきなのはななのはな眠る

        • 【短歌】海と琥珀

          八月のひかり重たしあへぎゐる夏草の上、ひとつの諫死 こなごなの光を踏んで立つてゐた 背に鋭きうろこを隠し 流氷の海を見てゐるまなざしにきみは云ひたりダリアの赤を 吐水口しんと冷えたりまひるまのタイルにふれるみづのさみしさ 夏菊のにほひをさせてきみがつく嘘 きららかな雨を思はす とけあつてひとつの水にかへつてもなほあふれくるかなしみはあり 風しづかにうごきゐる午後ひぐらしのこゑが時間を刻んでゆくよ まだ夢を生きてゐるやうな横顔にきざす足音しづかに待てり ぼくたち

        【短歌】蜂

          【短歌】心音

          ひらかれた夏のミットを響かせて投げこんでゆく青いたましい 反発する磁極のようにひりひりと目を逸らしあう蝉声のなか 見えていた遮断機、だけど信じたいことがあるんだ 今だけ ここだけ ゆっくりとその感情を飲みくだし入道雲のかがやきを云う この場所に立ったらひとり 照りかえす白さのなかにまぶたを閉じる 土を噛むスパイクのピン 太陽を盗みとるまでのコンマ一秒 心臓で海が鳴ってる うなずいて答えるきみの声のしずけさ 心音と呼吸のしじま 胸を打つ拳が、声が、浮力をくれる

          【短歌】心音

          短歌との出会い

          最初に短歌を「いいな」と思ったのは、ツイッターの〈ひとひら言葉帳〉で流れてきた目黒哲朗さんの短歌、 君よたとへば千年先の約束のやうに積乱雲が美しい だった。 最初はこれが短歌だと気づかなかった。 初句と結句に字余りがあるし、そもそも短歌というものにとりたてて興味がなかったからだと思う。 ただ、強烈に惹かれた。 当時わたしは『進撃の巨人』の二次創作小説を書いていて、その世界観に、この歌がぴったりとはまった。 妄想はふくらみ、この美しい歌を軸にして、もりもりと小説を書いた。

          短歌との出会い

          【短歌】みづうみ

          とほくちかく楽はながれてさらさらと古きフィルムに降りつづく雨 櫂の音 舟と舟とがかち合ふ音 霧ふかき湖にしづかに響く  あをじろき真珠のつぶを吐くやうに語るをみなのこゑやはらかし ゆたかなる黒髪は束ねられしままつひに男のかほを覆へり いまもまだただよひてゐるかもしれずみづうみに死者をのせたる舟は 初出『西瓜』第九号〈ともに〉欄 〈ともに〉欄の〆切間近になっても何も思い浮かばず、投稿をあきらめかけていたとき、なんとなくアマプラで観た『雨月物語』に触発されて、あっとい

          【短歌】みづうみ

          【短歌】庭

          少女期のしめりを帯びし手のひらに十薬の白ほのかににほふ 火の気配するゆふまぐれ祖母の小枝のやうな外国煙草 雷魚日々乾びつつあらむ雨雲の過ぎたるのちの白き路上に ほのぐらき八手の玉よ水びたしのこころにひらくみづいろの傘 金柑のあまたともれる庭にゐる さびしきものをかたへに置きて 初出『西瓜』第八号〈ともに〉欄 この連作は東郷雄二先生のサイト『橄欖追放』で取り上げていただいて、とても嬉しかったです。 ありがとうございました。 少しずつでも作歌を続けていこうと思う、

          【短歌】庭

          短歌6首

          小野りすと申します。 短歌をつくっています。 どうも世間の流れの速さについて行けず、もう少しのんびり、自分なりに短歌と向き合ってみたいと思い、noteを始めてみました。 短歌のほかには、小説、能、競馬、古い建物、阪神タイガースが好きです。 少し前まで『艦隊これくしょん』にはまっていましたが、あまりにも時間どろぼうなので封印中です。(でも軍艦は好き) ひとまず自己紹介を兼ねて、自選短歌を。 初出はすべて『うたの日』です。 黄ばみたるかるき鍵盤ふすふすと祖母のオルガンの息