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固い/硬い/堅いパンが好き

「マッチョって弱いじゃないですか?」

先日の雑談のさなか、可愛らしい小柄な女性からこんな発言が出てきた。

 筋肉を鍛える人が山程いるこの世の中でそんなことを言うとは、この人はグラップラー刃牙でも読みすぎたのか、それとも実はビスケット・クルーガーのような見た目と異なり鍛えられた肉体を持つということなのだろうか、と驚いた。

もちろんそういうことはないのだが、彼女からそのような発言が出た理由は次のような主張によるものだった。

  1. アウターマッスルに偏っているため、インナーマッスルが上手く使えない

  2. 鍛える目的が実用ではなく魅せる方向だから

インナーマッスルについては反論はあるだろうが、ピラティスをやっていた経験からの発言のようだ。

筋肉にとって実用かどうかは、佐川急便さんの肉体のような仕事などで自然と鍛えられたものを指す。確かに彼ら/彼女らの筋肉は美しく見せるためのものではるのは異論は無いだろう。

つまり女性が化粧やファッションにこだわっているのと同じように、自己の美を鍛錬するのがマッチョ達なのだ。


という話を聞いた上で一つ疑問が湧いた。筋肉と言えば男らしさの象徴とされているはずだ。しかし筋肉が美なのだとしたら、今の世の中では男らしくないとされているのではないだろうか。

このポリコレ全盛期の2022年に男らしさということを考えること自体がナンセンスではあるので、マッチョが男らしいかどうかはここでは定義するのは避けようと思う。

私がここで主張したいのは何かというと、「強さ」というシンプルなものさしに載せるのはかなりクールだと言うことだ。

マッチョが良いとか悪いとかではなく、マッチョは「強さ」という観点で言えば佐川さんの実用の筋肉より「弱い」と判断出来る。

「強さ」という尺度は様々な価値観があるこの世の中に普遍なものの一つではなかろうか。

というわけでパンの話である。

パンにおいての強さとはなんだろうかと考えれば、それは物理的な強度に他ならない。

うかつに食べようもんなら口の中を傷だらけにし、下手すれば歯すら持っていくようなハード系のパン。こいつらがパンの中の最強種。

流行りの変な名前の食パンなんてしゃらくさい、あいつらは弱い。バケット一本持っていけば全員ソードマスターヤマトに出来る、そういう強さがある。

私が住んでいる京都ではパンが愛されていて、全国紙でも紹介されるようなパン屋が何軒もある。

ここ最近私が愛用しているのはル・プチメックという小さなブーランジェリーだ。どうやら都内にも店舗もあるそうなので、東京の方はぜひ日比谷に訪れた時には食べてもらいたい。

店舗が他にもいくつかあり百貨店にも入っているため存在を知っているのだが、実は元々はそれほど好きではなかった。実は微妙に品揃えが異なり百貨店に入っている=一般受けを狙っていて菓子パンやらがメインになっている。

私が愛用している今出川店だが、ここはパリのブーランジェリーかと思うほど店内がパリ風に整えてある。流れている音楽もフランス語のラジオであり貼られているのもフランス語のポスターだ。

あーパリに憧れているあれですね、と思われてしまう可能性もあるかもしれない。

だが、ガチだ。ガチのパンが並んでいる。

こっちの顎のこととか気にしていないハードなパン。

手で千切らなければ前歯を持っていくつもりかってくらいのエピ。

サンドイッチもたまごサンドなんて弱いものは用意しない。バケットにハムとブリーチーズ(カマンベールじゃないんですわよ)を挟んだものなんてものが並んでいる。

この覚悟たるや「強い」としか言えない。

京都のババアはここのハード系のパンを噛んで顎を鍛えているに違いない。


所で私は、とんでもなく堅いここのバケットを明日の朝ごはんのフレンチトーストに仕込んでいる。一晩じっくりつけて明日バターで焼いてグラニュー糖で焦げ目をつけて、最高のフレンチトーストを作る予定だ。

こんなに堅いバケットをフレンチトーストにしてしまう背徳感たるや。

インナーマッスルが使えないマッチョを目の前にして「弱い」と思った彼女の気持ちが少しわかるような気がした。






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