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SDGsって結局何なのか/シンガポールでの実践例としてのGreen Finance

先週末に、BRIDGEs 2021 - ESG&SDGs Meetingというウェビナーを視聴した。基調講演で登壇された水野弘道さんのお話から、ESG、SDGs、CSRの違いを整理するヒントが得られ、SDGsで企業に期待される役割がより明確になった。端的には「本業の事業活動そのものを通じ」てSDGsで掲げる目標を達成しようということ、と理解。学びになった点をメモ。

一方、足元のASEANとシンガポールでのESGやSDGsにかかわる動きに目を向けると、シンガポールが目指している「東南アジアのグリーンファイナンス・ハブ」とは何か、が気になった。シンガポールはつねに「ハブ=輪の中心」になりたい国なので、グリーンファイナンスとは何か、どのような取り組みがあるのか、直近拾ったニュースをシェアしたい。着々と基準やルールの整備、人材の育成に取り組んでいて、生真面目に着実に成長するこの国の姿はいつも力強くて感心する。

1.ESGとSDGsの「そもそも論」

昨年来、日系企業の多くでSDGsは話題になっているし、在シンガポールの監査法人勤務の知人はESG関連監査で忙しくしている。そのような中で、私自身はまだまだこの話題についていけておらず、ニュースアプリやSPEEDAの記事アラートで関連記事を追いかけている状況。

そのよくわかっていない状況を抜け出すために、先日、BRIDGEs 2021 - ESG&SDGs Meetingというウェビナーを視聴。「なぜ私たちはESG&SDGsに取り組まなければならないのか?」と題した基調講演では、国連事務総長特使(イノベーティブ・ファイナンス&サステナブル投資担当特使)の水野弘道さんの話をきいた。学びになったエッセンスを以下に抜粋する。

[内藤補足] ESGは、環境/Environment、社会/Social、ガバナンス/Governanceの頭文字をつなげて作られた造語。2006年に国連で提唱された「責任ある投資原則」の中で、投資判断の新たな観点としてESGが掲げられた。SDGsは、持続可能な開発目標/Sustainable Development Goals。2030年までに達成すべき17の目標を定める。2015年の国連総会で採択され、国連加盟国みんなで目指す世界の在り方。

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・SDGsはゴールであり、ESGはゴールに向かうための道のり(または手段)

SDGsは2030年に目指す世界の有り様。いま「経営の世界ではSDGsが大きなテーマになっており、投資の世界ではESGが大きなテーマになっている」といえる。水野さんのこの表現に誰が主要なプレーヤーなのか、端的に表れていると思った。事業経営者は企業活動がSDGsにつながっているのかを気にしており、投資家は投資先の選定をESGの評価軸で評価している。ちなみに基調講演の最後に「事業経営者の行動や意思決定を変えるのは、最終的には消費者としての個人個人ですよ」と強調されていた。

[内藤補足] SDGsとESGの関係はビジョンと戦略の関係に似ている。よく「ビジョンが目指すべきゴールであり、戦略がどのようにそこに到るか」と説明してきたので。SDGsは2030年に目指す世界を掲げたうえで、逆引きして(バックキャスティングして)今何をすべきか考えさせるツールになる。

「企業の行動を変えるのは消費者」なのはその通りなのだが、このムーブメントが消費者レベルに落ちてきていない。小学生は学校で習っているからSDGs Nativeなのだけれど、まだ消費者としてのインパクトを出すには早すぎる。消費者全体に広がらない理由だと思われるSDGsの胡散くささが壁になるうちは、ESG投資側からゴリゴリやったほうがいいのかもしれない。

・CSRとSDGsは実は全く違う

SDGsはCSRとは何が違うのか、という声もある。欧州でCSRが出てきた背景には、企業活動は根本的に自然や環境に悪影響を与えるものというネガティブさが前提にあった。CSRは、そのネガティブさ、マイナスをゼロに近づけようとしてバランスを取るためのアクション。本業はネガティブだから別のところでポジティブインパクトをつくろう、といったものがCSR。

一方SDGsが描く世界は違う。SDGsは、本業に・ビジネスに落とし込む必要性を説いている。事業活動を通じてSDGsの実現に近づいていく必要があるという考え方。SDGsの実現と利益創出の両立を目指す。ただ、日本企業にとっては、過去のCSRも現在のSDGs同様に本業に・ビジネスに落とし込むつもりでやってきたのかもしれない。

[内藤補足] 巷にはいろいろな整理があるし、整理自体に意味はないので、わかりやすい形で理解すればよいと思う。上記も一つの説明の型に過ぎないが「SDGsが事業そのもの・本業に変化を求める」として、過去の取り組みとの違いを表現していて秀逸だと思った。

・日本企業にとっての商売のチャンス

日本には「三方よし」の商売感覚がある。現在は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」に加えて、株主、従業員、環境、将来世代など影響範囲をもっと広くとらえて「六方よし、七方よし」で考える必要。昔から続く伝統ある日本企業の社訓や創業精神には、「六方よし、七方よし」ですらもともと反映されているともいえるかもしれない。Sustainable Development Report (旧名はSDG Index and Dashboards Report)によると、日本はSDGs目標の達成度合いは世界で18位、アジア地域では1位と評されている。なお世界で上位に来るのは、北欧各国、次いで欧州。

一方で米国企業は、ミルトン・フリードマンの「企業の社会的責任は利益の最大化」であり「CxOたちが株主以外の従業員や環境への貢献を考えるのは筋違い」という株主資本主義に50年近く浴しているために、SDGsに取り組むのは骨格を入れ替えるくらい難しそう。上記のSustainable Development Reportで米国は32位。

日本企業はSDGsに向けた活動を「なんとなく自然にできている」アドバンテージを活かして先行できるかもしれない。一方、「なんとなく自然にできている」と言ってのほほんとしている間に、グローバル企業が苦心の上にゲームチェンジを仕掛けてきて、今の優位性を失う可能性もありそう。

[内藤補足] 個社で見ると米国でもAmazonやFacebookなどのIT大手はSDGsへの取り組みを鮮明に打ち出しているし、セールスフォースはカーボンアカウンティングの見える化プラットフォームを提供して事業機会を着実にとらえに来ている。

・なぜ今、盛り上がりを見せているのか

[内藤補足] 実際はSDGsの活動は2016年から始まっている。さらに言えば、私が気候変動含む環境問題に興味をもったのは1997年12月のCOP3/京都議定書の締結の時。それゆえ、急に出てきた話題ではない。なぜ今か、というのは、SDGsが定める2030年まであと10年というタイミングもあるが、米国での政権交代もインパクト大きい。

2020年までは当時の米国トランプ政権が気候変動対策関連のイニシアティブに軒並み反対していたこともあって、前に進まなかった。米国バイデン新政権により、前政権が離脱表明したパリ協定への復帰や、Sustainable Finance Study Groupの復活が実現。米国と中国が議長を争って、米国中国両国が共同議長になるなど、環境対応領域での主導権争いも垣間見えた。なお、Sustainable Finance Study GroupはSustainable Finance Working Groupに格上げされ重要性がさらに増している。

[内藤補足] 国家レベルの話よりも気になるのは、事業活動であり、投資であり、消費者としての購買活動への影響である。そのため、後半では、シンガポールでのESG/SGDsに関する取り組みの一例を紹介する。

2.シンガポールのGreen Finance

後半では、私がシンガポールで見聞きするESG/SDGs関連ニュースで気になったものをピックアップ。

以前、ASEAN地域のESG投資に関して、現地VCの方にきいたコメントが印象的だった。ASEANでは、ESGのうち、Sの社会課題の解決に向けた事業化・ベンチャー投資は進んでいるが、環境やガバナンス面への対応では未だ盛り上がりを見せていない、という。

一方、シンガポール政府はこの機を世界にプレゼンスを見せるチャンスととらえている印象。東南アジア地域のグリーンファイナンス・ハブを目指す、という。ファイナンスを通じて、E(環境)やG(ガバナンス)に関する活動変容を促していく。

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・グリーンファイナンスとは

グリーンファイナンスとは、環境負荷低減または環境改善効果のある活動を促進するための金融活動(Green finance is any structured financial activity that’s been created to ensure a better environmental outcome.)のことを言う。環境分野への取組みに特化した資金を調達するための債券(グリーンボンド)や融資(グリーンローン)の大きく分けて二種類。

・グリーンファイナンスのハブを目指すシンガポール

先月、シンガポール金融庁(MAS)に召集されたタスクフォースGreen Finance Industry Taskforce (GFIT)は、グリーンローン評価のためのフレームワーク、および、ディスクロージャー/情報開示のためのガイドラインを発表(5/19)。同時にグリーンファイナンスに従事できる人材拡充のための教育投資にも着手している。

1)融資評価のフレームワーク
銀行は"principles-based"アプローチにより、各融資案件をGreenか否か評価できるという。すでにHSBCやUOBによるトライアルが進んでおり、サステナブルなパーム油製造工程をもつと認定されている企業からの仕入れに必要な運転資金の融資や、シンガポール国内での食品の地産地消を実現する仕入れへの融資がGreen Financeの実例として挙げられている。

2)ディスクロージャー/情報開示のガイドライン
標準となるディスクロージャー/情報開示のガイドラインがないことは、自己に都合のいいリスク評価を招くなどして、Green Finance推進の妨げになっていた。

今回、上記タスクフォース(GFIT)がguide for climate-related disclosuresを提示。各セクターの事業活動の違いに配慮し、銀行、保険、アセマネ向けにそれぞれ特有のガイドラインを提供しているとのこと。不動産やインフラ投資等の他業界への展開に向けたロードマップも、タスクフォース(GFIT)が提示していく。シンガポール金融庁(MAS)は、2022年6月以降には銀行がclimate-related disclosuresを提出することを期待しているという。

他にも、このタスクフォース(GFIT)は金融機関・事業会社向けのトレーニング提供を予定しているし、シンガポール金融庁(MAS)が支援するSingapore Green Finance Centre (SGFC)も学生向けにclimate science, financial economics and sustainable investing等に関する講座を提供、グリーンファイナンスに明るい人材の増加に取り組む。

おわりに
わたし自身にとって、ESG/SGDsは全く専門外の領域。ただ、これまで「発信することで情報がより集まる」という経験をしてきたので、定期的に見知ったことをシェアしていきたいと思う。

ちなみに環境問題に関する大きな国際協力の枠組みで京都議定書が結ばれたのは1997年12月。ちょうどその翌年4月に大学に進学し環境問題に取り組む学部学科を選んだので、20年ほど経ってまた巡り合った感覚。

<関連記事および政府発表>
MAS media release, Accelerating Green Finance
The Strait Times, Singapore launches first institute focused on green finance research and talent development
The Business Times, Climate-linked financial disclosures to be legally binding, align to one global standard: MAS chief

編集後記
Googleトレンドにて、ESGとSDGsをそれぞれのキーワードの検索状況を調べてみた。面白いことに、
①世界中を見渡すと、ESGとSDGsの検索数は拮抗。2021年に入ってからSDGsの検索比率が伸びている
②シンガポールはESGの検索が多く、日本はSDGsの検索が多い。ファイナンス関連従事者が多く製造業が少ないシンガポールと、真逆の日本の特徴が出ている

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